01. 2013年6月11日 14:38:13
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米中関係:チャイナシンドローム 2013年06月11日(Tue) The Economist (英エコノミスト誌 2013年6月8日号)
地政学上のライバルである中国に対して米国人が抱く不満は、覇権争いとは別のところにある。 バージニア州スミスフィールドに住むハム好きの人たちは、地元の町で圧倒的な存在感を持つ大手豚肉生産業者が間もなく中国の大企業に買収される理由は、米国の弱さにあると考えている。 ピーナツを餌として育てた豚を原料に、ヒッコリーで燻製したハムは、この地域が英国の植民地だった時代から評判の名産品だ。スミスフィールドの町では、食用豚のイメージは米国旗に匹敵する誇りの象徴であり、店先の飾り付けや学校のスポーツチームのユニフォーム、町の給水塔の装飾にもあしらわれている。 スミスフィールド・フーズ買収が実現すれば、中国による対米投資としては過去最大になる〔AFPBB News〕
しかし、数十億ドル規模の買収がこのまま実現すれば、この町に本拠地を置く世界最大の豚肉生産企業、スミスフィールド・フーズは、中国の食肉大手である双匯国際の子会社になる。 この買収提案のニュースは、6月7日と8日に予定されていた米中首脳会談の直前にもたらされた。承認されれば、中国から米国への投資としてはこれまでで最大規模となる。今後も間違いなく、さらに大きな投資案件が続くだろう。 こうした投資は、両国の相対的な経済力や、ライバル同士が新たな相互依存の段階に入る中で、どちらが優位に立つのかといった問題について疑問を提起する。 両国の相互依存関係は、市場開放や企業秘密に関するサイバー窃盗を巡る複雑な経済紛争と同時に起きているがゆえに、より一層注目に値する。さらに、民主主義と法の支配について、両国に思想的な違いがあることは言うまでもない。 スミスフィールドに漂うあきらめムード スミスフィールドの町では、中国の台頭とその意図に関する具体的な問題は、この上ないほど差し迫っている。スミスフィールド・フーズは、この町ではずば抜けて大きな雇用主だ。しかし、つい先日の蒸し暑い午前中に町の大通りで話を聞くと、中国の意図はそれほど問題になっていなかった。 実際に衝撃を受けた地元の人々が話題にしていたのは、米国人幹部のことだった。 会社側は、雇用は保障されると明言している。しかし、会社を外国人に売却した後で、経営陣が一体何を約束できるのかと、町の人々は冷ややかだった。その外国人の素性については、あまり議論されていなかった。代わりに話題になっていたのは、米国企業が外国人の手に落ちるのを目の当たりにする悲しさだった。 ある女性は、今は内省の時だと話していた。聖書の中で、イザヤが神に仕えない者の土地は外国人に乗っ取られると述べていると、この女性は教えてくれた。中国の買収を受けたことからして、米国人は「明らかに」神の期待に背いたことになるというのだ。 ストライキがあると予想する者も、政府に対し(フランスにおけるヨーグルトのように)ハムを戦略産業に定めるよう要請しようとする者もいなかった。町には諦めのムードが漂っていた。 明るく振る舞おうと努める者もいた。カーター・ウィリアムズ町長は果敢にも、買収提案は健全なもののようだと発言している。中国はより衛生的な食品を必要としているし、米国は世界市場を必要としているというわけだ。 運に恵まれれば、スミスフィールドにも急成長する中国向けの輸出用に新しい工場を建設する必要が出てくるだろう。ともかく、この件について我々にできることは何もないと、市長は付け加えた。 米国の悲観論は行き過ぎ? ウィリアムズ市長の現実主義は称賛に値するものかもしれないが、その一方で過度の悲観に走る米国人もいる。2012年に行われた世界各国の人々の意識に関するピュー・リサーチ・センターの調査で、現時点での世界経済のリーダーは中国か米国かという質問に関して、米国人の回答はほぼ二分された。 中国の回答者は、今でも米国が首位にある(正解)と答えた人がはるかに多かった。バラク・オバマ大統領の外交政策や経済関連の補佐官の間には、今は中国のほうが豊かだと考えている米国人がこれほど多いことに関して「当惑」が広がっていると、消息筋は伝えている。 政府の側も時折、こうした悲観主義に対抗を試みている。ジョー・バイデン副大統領は、2011年に中国の成都で学生を前に行ったスピーチで、米国は今でも「世界の歴史上最も豊かな国」であり、創造性と革新を促進するよう作り上げられた教育システムと社会を持つ(どこかの国とは違って、と言いたかったのだろう)という趣旨の、挑戦的な発言をした。 スミスフィールド・フーズの最高経営責任者(CEO)、ラリー・ポープ氏は、自らの会社について副大統領と同様の自信に満ちた主張を展開している。 良質の豚肉を効率的に生産することにかけては、米国は世界でもずば抜けた能力を持つと、同氏は胸を張る。新たにパートナーとなる中国企業の狙いは中国の人々に食料を提供することで、世界を乗っ取るつもりはないという。それでも、ポープ氏は、米国人が中国を怖れていることを懸念する。 ポープ氏の懸念は過大なものかもしれない。米国人はヨーロッパ人と比べると中国をはるかに強く意識しているとはいえ、気がつくと突然、隣の国が大きな顔をしていたというような「ジャパン・モーメント」は経験していない。 さらに言えば、中国から驚異的な高度技術が登場して中国がトップに上り詰め、米国が2位に転落したことを思い知らされるような、いわゆる「スプートニク・モーメント」並みの瞬間を経験したわけでもない。 ワシントンの政策立案者は、中国の軍事力に対する懸念を年々深めている。しかし、世論調査によると、米国の一般の人々は中国の軍事力についてはあまり気にしていない。要するに、中国に対する米国人の不満の矛先は、多くの場合、別のところに向けられているようなのだ。 偏狭さの問題点 「中国」はしばしば、グローバリゼーションの化身とされる。左派の人々の多くが中国という言葉で思い浮かべるのは、労働者を顧みず、仕事の海外移転を選択する米国人企業幹部の強欲といったものだ。オバマ大統領も補佐官に対し、ほとんどの米国人にとって、「中国」は雇用喪失、特に製造業の雇用喪失を象徴する言葉だと語っている。 大統領は1期目に、企業に対して米国国内で雇用を維持するか、新たに作り出すよう促すことで、多くの職を中国から取り戻すのに役立つであろう対中政策を何度も探った。しかし、そんな魔法のような対中政策は存在せず、オバマ大統領も現実的な経済協力の道を探ることで、そのことを暗黙のうちに認めている。 一方、世論調査によると、共和党支持者が「中国」の脅威と最も強く結びつけて考えているのは、米国の公的債務だ。共和党支持者はオバマ氏に対して、社会福祉などの恩恵を提供して無気力な貧乏人の票を買い、負債を増やして、米国を外国の債権者のなすがままにしていると非難している。 これらのケースでは、中国についての政治論争は、スミスフィールドの一般市民の声に近い。そのほとんどが、米国自体と、この国が弱体化しつつあるというイメージに関するものなのだ。 中国の政治家は、同じゲームを逆の立場でプレーし、時には「米国」とは認めがたい劇画的な米国像を中国の発展と決意の度合いを測る万能の試薬として利用している。しかし、地政学的ライバルである両国が共存を目指すのなら(そうしなければならないのだが)、劇画化と内省を超えて、互いを理解しようと努力をする必要がある。 他の方法を試すには、両国は大きくなり過ぎ、そして近づき過ぎてしまっているのだ。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37976
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