02. 2013年5月28日 05:35:53
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大量難民の波とシリア戦争終結の可能性 「他人事」では済まない戦争〜北欧・福祉社会の光と影(12) 2013年05月28日(Tue) みゆき ポアチャ 現在、スウェーデンに難民として入国する人のうち、最大の人数を占めるのがシリア国民だ。昨年シリアから入国した難民は一昨年と比較して3倍に増えたが、この数はさらに増加することが予測されている。 不足する住居をはじめ、違法滞在者にも医療や教育の権利をほぼ認めているスウェーデンにとって、難民受け入れが国家財政に与える影響は大きい。移民・難民政策に関し、連日大きな議論が繰り広げられ、国論を真っ二つにしている。 「中東の平和」イコール「欧州の平和」 欧州にとって、地続きで近い中東の問題は常に身近〔AFPBB News〕
5月9日には、難民キャンプを視察した自由党議員らが「我々は人々を保護し、支援することの重要性を強調したい」とし、欧州連合(EU)加盟国はビザの要件を廃止して無条件で難民を受け入れるべきであるという声明を出した*1。 これにまた賛否両論が渦巻いている。 移民・難民問題は次期選挙の最大の焦点になるとも言われており、この問題の平和的解決なくしてスウェーデンの安泰は考えられないだろう。極端に言うと、大挙して押し寄せる難民の波がこのまま増え続ければ、スウェーデン財政は破綻、国家分裂の危機だ。「シリアの平和」はイコール「スウェーデンの平和」、ひいては「中東の平和」イコール「欧州の平和」なのだ。 この戦争が終結し、難民の波が沈静化する可能性はあるのか、あるとしたらどういった形でそれを迎えることになるのか。 シリアのバシャル・アル・アサド大統領の圧制に対抗する民衆蜂起「シリアの春」から始まったとされている内戦は、開始以降すでに2年余りが経過している。さらに現在、この機に乗じて紛争に介入しようとする米国と欧州、さらに周辺国を巻き込んで、現在までに8万の命を奪い、150万の難民を生み出している*2。 筆者がもし、中東から遠く離れた日本にずっと住んでいたとしたら、どれほど関心を持っていたかは分からない。ただ、スウェーデンで暮らしている以上、シリア戦争は否が応でも関心を持たずにはいられない問題だ。今回は欧米の様々な報道から、米欧露、そしてアサド大統領らそれぞれが描く「シリア戦終結」の青写真についてまとめてみた。 シリア「友人」会合 シリア反体制派を支援する米欧や中東諸国による「シリアの友人会合」が5月22日夜、ヨルダンで開かれ、ジョン・ケリー米国務長官、ウィリアム・ヘイグ英外相など11カ国の外相が出席してシリア和平に向けて努力することを確認した。 参加国は米国と欧州のほか、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国のトルコ、エジプト、さらにシリア反体制派へ武器を供給するサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)などだ。 *1=http://www.dn.se/debatt/avskaffa-visumkravet-for-flyktingar-fran-syrien *2=http://www.foreign.senate.gov/press/chair/release/syria-transition-support-act-introduced-by-menendez-corker-passes-senate-foreign-relations-committee- 退陣要求をはねつけるシリアのバシャル・アル・アサド大統領〔AFPBB News〕
同日、在ヨルダンのシリア大使は記者会見で、この会合は実際には「シリアの友人会合」ではなく「シリアの敵国会合」だと言い、「シリアの悲劇を終了させたければ、シリア内のテロリストギャングへの武装と訓練を停止せよ」と言って出席国らを批判している。 「友人会合」の冒頭でケリー長官は、アサド政権が退陣要求をのまなければ、米国は自由のための戦いを継続するために反体制派への支援を増大することを検討するだろうと警告した。 実際に、この会合の前日にケリー長官はオマーンに行き、レイセオン社と21億ドルの契約にサインしてスティンガーミサイル(携帯式防空ミサイル)や高性能中距離空対空ミサイルなどの兵器システムを大量に購入している*3。 また、この前日の21日には、米国が直接反体制派に武器援助することを許可する法案が上院外交委員会で承認されている*4。 これは民主党のロバート・メネンデス、共和党のボブ・コーカー両議員が連名で提出した「シリアの政権移譲支援法」と題した法案で、米国がシリアの反体制派に「国防装備物品、国防サービス、および軍事訓練を提供することを承認する」ものだ。これまでの援助はサウジアラビアやカタールなど周辺国を経由して供与してきたが、これを米国から直接送ることができるようになる。 また、ヘイグ英外相は20日の記者会見で、こう発言している。「我々は(アサド)政権がジュネーブ会議で真剣に交渉しない場合、選択肢はないということを明確にしなければならない」*5 エスカレートする米欧の直接関与 この1〜2カ月間でも、米欧と周辺国がシリアへの直接関与を強めていることははっきり見て取れる。平たく言うと、どの国も自国の利益が最大になる形で戦争が進行し、あるいは終結するように、目まぐるしく動き回っているようだ。 4月下旬にEUが外相会議を開催し、「反政府派を支援するためにシリアの石油禁輸措置制裁を解除する」ことを決定した。これにより、EUは反政府派が制圧する地域の石油を非常な安価で手に入れることができるようになった。 独シュピーゲル誌の5月16日の報道*6によると、禁輸の解除により最も利益を得ているのは、イスラム系反政府派アル=ヌスラ戦線をはじめとするイスラム過激派グループだ。同誌は、このアル=ヌスラ戦線は最大で日量3万バレルの原油を供給でき、超低価格で世界市場に売りさばいていると書いている。 *3=http://www.reuters.com/article/2013/05/21/us-oman-kerry-idUSBRE94J0YV20130521, http://www.reuters.com/article/2013/05/22/us-oman-kerry-idUSBRE94L09M20130522 *4=www.foreign.senate.gov/publications/download/syria-transition-support-act-of-2013(PDF) *5=http://www.reuters.com/article/2013/05/20/us-syria-britain-idUSBRE94J0HM20130520 *6=http://www.spiegel.de/politik/ausland/rohstoffe-in-syrien-rebellen-verschleudern-oel-zu-dumping-preisen-a-899972.html 同誌によると「アル・サウラで反乱軍は毎日トラック10台分の燃料を販売している」「世界市場では、通常1バレル=100ドルで取引される原油が、ここでは13ドルだ」という。 また、5月19日付の英ガーディアン紙*7によると、米国だけでなくEUも、アサド政権と戦う反政府派に直接資金を提供している。 同紙によると、これら反政府派グループは、制圧しているシリア東部から石油を掘削して、底値価格でEU諸国に販売している。 「アルカイダと連携するアル=ヌスラ戦線は、シリアとイラクでの地位を強化するためにシリアの経済に投資している。アル=ヌスラの兵士は、小麦から考古学的遺物、工場設備、石油掘削およびイメージング機械、車両、予備部品、原油まで、彼らの手に落ちるものすべてを売りさばいている」 シリア政府軍の支持者らを処刑する前に、声明を読み上げる武装組織「アル=ヌスラ戦線」のメンバーを写しているとされるユーチューブの画像(上)と、アレッポのブスタン・アルカスル地区にある学校の校庭で、市内を流れるクワイク川から収容された遺体の中から行方不明の親族を探す人々〔AFPBB News〕 このアル=ヌスラ戦線は、4月にアルカイダの指導者に対して忠誠を誓っており、シリア国内の反体制派組織の中で最も攻撃的かつ重装備のグループの1つとされる。 彼らは石油製品の利益を確保するために、油田がある東部デリゾール地域を制圧し住民を次々と殺害している*8。 今年1月にはアレッポで約100人の市民の頭部に銃弾を撃ち込んで川に沈めたとされている*9。 つまり米欧は、国連総会などでシリア政府を非難する決議案を提出しているが、その一方、こういったテロリストグループを利用し武装させて、中東と中央アジアのエネルギー資源を手に入れているということになるのだろうか。 このアル=ヌスラ戦線は、4月にはシリアでのイスラム国家樹立を目指すことを表明した。これが実現するとしたら、アサド退陣後の「新政権」の座に関して、米国と密約があるとの見方もできる。 イスラエルの動き イスラエルも、シリアへの軍事攻勢を強めている。 5月17日、米中央情報局(CIA)のジョン・ブレナン長官が、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、モシェ・ヤアロン国防相、ベニー・ガンツ国防軍参謀総長らとシリア問題で協議した。この場で、イスラエルのシリア攻撃のスケジュールが米国によって確認されたのかもしれない。 *7=http://www.guardian.co.uk/world/2013/may/19/eu-syria-oil-jihadist-al-qaida *8=http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2944542/10752962, http://www.youtube.com/watch?v=gUdrfPfaPNk *9=http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2924388/10189545 翌18日に、ネタニヤフ首相は「イスラエル国家の最善の利益を確保する」「シリアからレバノンのシーア派民兵組織ヒズボラへの武器の移転を防止するために、決意を持って行動する」と明言している。 20日、イスラエル軍がゴラン高原で停戦ラインを越えてシリア領土に侵入し、ロケット弾を発砲した。シリア軍も応戦し、戦闘が開始した。AP通信によると、この攻撃でイスラエル軍はシリア政府を支持するヒズボラのメンバー28人を殺している。 21日には、ハイファ大学でガンツ国防軍参謀総長が、アサド大統領に対して、ゴラン高原でのイスラエル軍に対する攻撃が続くようであれば、何らかの「結果」を招くだろうと警告した。さらに「事態が突然の制御不可能に陥るというリスクなしで、事態が進行することはない」と述べ、すぐにでも戦争体制に入る可能性があることを示唆している。 モスクワで会談後に共同会見するジョン・ケリー米国務長官とセルゲイ・ラブロフ露外相〔AFPBB News〕
ロシアはシリアを支持していると見なされていたが、ロシア政府も態度を変化させているようだ。 5月6日付ウォールストリート・ジャーナルの社説によると、ケリー米国務長官とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、6月に 「和平会議」を設定することについて合意した。 この席上、ラブロフ外相は、ロシアはシリアへは武器を売らず、新たな取引には署名しないことを米国に約束した。 同外相は「いかなる方法でも、地域のパワーバランスを変えることもしないし、反体制派に対する闘いにどんな優位性も与えることはない」と強調している。 こうして、イスラエルはシリアに対し軍事で恫喝し、米欧はロシアをも味方につけて、着々とアサド政権を囲い込んでいる。 大統領アサドの心中 当のアサド大統領の心中はどうなのか。 18日、アルゼンチン・メディアがダマスカスでシリア大統領アサドに行ったインタビューの様子がユーチューブ上に出ている*10。 この動画内で、大統領はシリアの現在の情勢について「外国勢力が介入したためにもたらされたものだ」と言い、特に米国を批判している。 *10=http://www.youtube.com/watch?v=keU2k3TRLIE 「はじめに、国内では改革の要求があった。・・・我々は改革をしてきた。憲法を改正し、法を整備し、非常事態宣言を解除した。さらに野党との話し合いをしたが、次第にテロリズムが伸張した。・・・イラクやレバノンやアフガンのテロリストと我々の改革にどういう関係があるのか。テロによって改革することはできない」 「米国と欧州でもテロの風潮がある。・・・政治勢力と同じテーブルで対話することは可能だが、しかしのどを切り裂き、殺戮し、化学ガスを使うテロリストと話し合いはできない」「いかなる政治的な解決であっても、根底にあるものはシリアの国民が期待することであり、投票によって決定されることだ。それ以外に方法はない。テロリストとは対話できない」 「最初から我々は皆と話し合いたいと表明している。シリア人でも、外国人でも、話したい人は誰でも、武装した者を除いて例外なくだ。マシンガンで武装したものとは話し合いはできない。これが我々の唯一の政治的解決を確定させるための前提だ」「国のために行動するものが誰であるのが望ましいのか、誰ではないのかを決めるのはシリアの国民だ。・・・我々は、シリア国民に解決を手渡す」「シリアでの改革に関するいかなる決定も、シリアが決定する。米国や他国が介入できるものではない」 また、退陣はしないことを明言している。 「船長は嵐の最中に逃げ出さない」 「国は現在危機にある。船長は嵐の最中に逃げ出すことはしない。船長は嵐に立ち向かい、船を安全な港へ戻し、そして意思決定が行われる。人は常に義務に直面しなければならない。私は自分の責任から逃げることはしない」「これからも戦い続ける。なぜなら我々にとっては自国を防衛することだからだ」 ロシア外務省は24日、スイスのジュネーブで開催予定のシリア問題を協議する国際会議に、シリア政府が出席することで大筋合意したと発表した。この会議はアサド大統領に屈服を迫り、退陣を要求するものになると思われる。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37862 |