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自衛官を募集する民間相談員の功績をたたえる藍綬褒章(らんじゅほうしょう)の授与をめぐり、現職自衛官が「授与基準になる入隊者数の裏付けがない」と内部告発した。それをきっかけに、部内で嫌がらせを受けたとして、訴訟にまで発展している。自衛隊が自衛官集めに苦労している実態も浮かぶ。(荒井六貴)
「少子化のうえ、警察や消防などのライバルもあり、若い人を入隊させるのは難しい。その中で、90人以上を入隊させることができるのか」
そんな疑問を抱き、内部告発したのが、陸上自衛隊霞ヶ浦駐屯地(茨城県土浦市)所属の一等陸尉島田雄一さん(42)だ。
2007年3月、自衛隊埼玉地方協力本部(さいたま市)の総務課総務班長に異動した。担当は褒章業務で、褒章の候補者になる募集相談員を上部組織の東部方面総監部に報告することだ。
候補者は、募集功労で大臣感謝状を贈呈された55歳以上の人で、「20年以上協力し、90人以上の男子入隊に結びつけた」という条件を満たす必要があった。
募集相談員は、若者を自衛隊に紹介し、就職説明会などで自衛隊をPRするボランティアの民間人だ。地方議員、町内会長ら地元の名士や元自衛官がなることが多い。
都道府県ごとにある自衛隊地方協力本部と、自治体が協力し、2年の任期で委嘱。定員は公立中学校の学区ごとに1人の割合で、全国に9300人余りがいる。
新潟県で活動する60代の女性相談員は「子どもを自衛隊の音楽会に招待して親しみを持ってもらったりしている。震災での活動で自衛隊には好意的だが、親が『大変な仕事だ』と心配する。30年近く勤めているが、入隊してくれたのは数えるほど」と明かす。
「日本は戦争をしない前提があるから勧誘できる。不良から入隊し、立派に育って帰省するのを見るのが、うれしい」
元防衛庁官房審議官の太田述正(のぶまさ)氏は「自衛官の人数を確保するのが最大の目的。自衛官が集まらず、猫の手も借りたいぐらいだった。数を集めないと、予算が削られ、装備も減らされてしまうから必死だった。すぐ辞めてもいいから、形だけでも入隊という話も聞いた」と振り返る。
さらに「相談員らへのお礼に金は出せず、自衛隊内の食事や飛行機に乗ってもらう行事に招待する。それと、表彰や褒章の枠を確保することが見返りになる」と話す。
自衛隊関係者によると、地方協力本部が、管内で活動する相談員の個人情報を管理。褒章の候補者をリストアップするため、従事期間や入隊につながった人数などを記入した資料を持つ。
「こちら特報部」が入手した文書では、褒章の候補者から外された人の欄には、「過去に褒章を受章した」などのほか、「刑罰あり」 「トラブルあり」などと事前の「身体検査」もある。
昨年秋の褒章受章者は全国で2人だった。
島田さんも着任後、褒章候補の相談員2人をチェックした。ところが同一人物なのに、複数の資料に異なる入隊者数の実績が記載されていた。
そこで資料を管理する募集課に、裏付けになるデータを求めたところ「そんなものはない」と返答された。ほかの部署にも問い合わせたが、実績を確認できなかった。
「これまで、どんな根拠でやってきたのか、責任を持って説明できる部署がない。90人以上の基準を満たさない人に、授与されることになる」
裏付けなしに報告書を作れば、虚偽公文書の作成にあたると考え、上司に相談したが取り合ってもらえず、結局、一人を候補者として総監部に報告した。後に、藍綬褒章の授与が決まった。
それから、上司からの嫌がらせが始まったという。数カ月かかるような業務を1週間で命じられたり、400人規模の祝賀会を一人で準備するよう指示されたりした。
不正を訴える意思を示すため、課長の名前入りの三文判を購入。課長の押印が必要な文書は、目の前で押した。無断押印は約10件。「やりすぎとも思ったが、何も聞いてくれず、こうするしかなかった」。これで停職6日の懲戒処分を受けた。
総監部から、09年分の候補者を報告するよう依頼がきた。募集課にデータを求めたが、またも拒否された。トップの本部長に相談すると、1カ月後の同年3月、霞ヶ浦駐屯地に異動となった。
新たなポストは衛生課運用班長で、電話番や駐屯地の草取りをした。その後、部署が変わっても閑職のまま。週に1回、樹木を剪定(せんてい)する際の報告書に押印するだけだ。
業務の不正を調べる監察官に告発し、防衛相宛てに公益通報もした。しかし調査結果は、褒章の文書管理の不十分さを認めたものの「違法性はない」と結論付けた。
島田さんは昨年10月、国を相手に慰謝料などを求めて東京地裁に提訴した。内部告発を理由に、嫌がらせや配置転換などの不利益処分を受けたと主張する。「裁判では自分の名誉回復だけでなく、真相も解明したい」
陸上自衛隊陸上幕僚監部広報室は「係争中なので、個別具体的なことはコメントできない」とする。「入隊者90人以上」とした褒章基準についても「あるともないとも言えない」と話した。
NPO法人情報公開クリアリングハウス理事の奥津茂樹氏は「自衛隊は秘密主義に陥りやすく、内部告発は不正を明らかにする最後の手段かもしれず、内部告発の意味は大きい。告発者を冷遇するのは許されない」と指摘し、こう話す。
「褒章を出すときは、きちんとした実績の証拠が必要だ。その裏付けなしに授与するのは、協力者だという身内意識もあるのではないか」
◆褒章6種類
国の栄典である褒章は1881(明治14)年に藍綬褒章=写真、内閣府のホームページより=などが制定され、1955年からは6種類ある。社会や公共の福祉、文化などに功績のあった人を顕彰する制度で、公益目的の多額の寄付者への紺綬をのぞいて毎年、春は4月29日、秋は11月3日付で、メダルなどが授与される。今春は、5つの褒章で736人・団体が受章した。
藍綬の対象は教育、医療、社会福祉、産業振興などの分野で活躍した人。厚生労働省は、身近な民生委員や児童委員の推薦基準について20年以上、福祉団体の長は15年以上務めるなどを示す。東京保護観察所によると、保護司は55歳以上で18年以上務め、対応した人数が延べ110人。担当者は「条件をクリアすれば、すぐに受章できるわけではない。まとめ役だったりすると、推薦されやすい」と話す。
◆自衛隊員22万7800人 昨年3月末、充足率92%
入隊者数は2011年度に1万人弱で、民間会社の契約社員にあたる自衛官候補生と、正社員にあたる一般曹候補生で大半を占める。
自衛官候補生の応募資格は18歳以上27歳未満で、男子は一年中、受け付けている。試験をパスして任命され、教育を受けてから2等陸・海・空士(2士)に任官される。任期付きで更新もできる。自衛隊員は昨年3月末で、約22万7800人。定員への充足率は92%程度となっている。
[デスクメモ]
国を守りたいという思いで任務に励む自衛官は多い。進路に悩む若者で募集相談員の世話になった人もいる。相談員への褒章は減っている。90人未満の候補予定者も結構いると聞く。一定の基準は必要だが、長年のご苦労に報いてもいいのでは。見直しも一計だ。ただし胸を張れる説明はしてほしい。(呂)
2013年5月20日 東京新聞 [こちら特報部]
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013052002000119.html
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