http://www.asyura2.com/13/test29/msg/500.html
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以下の記事は、難波紘二 広島大学名誉教授の発行するメールマガジンの転載です。
難波紘二 広島大学名誉教授 略歴
1941年広島市生まれ。広島大学医学部大学院博士課程修了。呉共済病院で臨床病理科初代科長として勤務。NIH国際奨学生に選ばれ米国NIH Cancer Centerの病理部に2年間留学し、血液病理学を研鑽。広島大学総合科学部教授となり、倫理学、生命倫理学へも研究の幅を広げ、現在、広島大学名誉教授。自宅に「鹿鳴荘病理研究所」を設立
このメールマガジンの内容は「鹿鳴荘病理研究所」の発行であり、次のブログに掲載されているものです。
http://blog.goo.ne.jp/motosuke_t/e/acf759ed9b0efb782665fc514f576be4?fm=entry_awp
おそらくSTAP細胞の作成に使用されたリンパ球、T細胞など免疫機構についての専門家による現時点で最も詳細で本質的な小保方論文批判といえます。メールマガジンで、難波教授は小保方論文にある図1-iの写真に決定的な矛盾があることを指摘しています。少し長文ですが、メールマガジン3本を転載します。なお、各メルマガの先頭の掲載日はメールマガジンの発行日ではなく掲載ブログの更新日です。後のメルマガほど新しいものです。
2014-02-19
【切り貼り?】
「ネイチャー」1/30/2014論文1では、生後1ヶ月のマウス脾臓から取り出したT細胞リンパ球に「PH5.7, 30分」という刺激を与えると先祖返りが起こり、体細胞にも胎盤の細胞にも分化できる「STAP幹細胞」が作成できると主張している。
分化した細胞が「再プログラミング」により幹細胞になる、という証拠として提出されているのが、同論文の図1-iの写真だ。
(図1-i)
レーン3に「陽性対照」として培養前のT細胞リンパ球のDNA構成が示されている。白く階段状の帯として見えるのが長さの違うDNAの断片である。これは免疫遺伝子が「再構成」を起こしている証拠で、分化した細胞(幹細胞でないこと)の証拠となる。
レーン4と5は、培養を終えて出て来たSTAP細胞のDNA構成を示しており、実験群である。ところがふたつのレーンとも陽性コントロールのレーン3と同じバンドが見られ、やはりT細胞受容体遺伝子の再構成が認められる。
これだと、この細胞を幹細胞として使った場合、この細胞がいろいろな種類の体細胞を作るにはいっこうに差し支えないが、それが免疫担当細胞に分化した時、B細胞は免疫遺伝子の再構成が起こせるが、T細胞はもう受容体遺伝子を再構成してしまっているので、遺伝子多様性が生み出せず、重症複合型免疫不全((SCID)という特殊な免疫不全を生じるのではないか、というが私の疑問だった。
<一旦免疫遺伝子を再構成した細胞は、幹細胞になってもその遺伝子を引き継ぐので、もう余分な胚型TCR遺伝子がないはずだ。そうするとこの細胞から作ったクローンマウスは「重症複合免疫不全症(SCID)」を発症するはずだが、そのへんはどうなっているのか。>
これはメルマガ2/3号に書いたことだ。
ネット上でいくつかの画像に疑問が呈せられていた。このネイチャー論文は画像が多く、しかも小さいので非常に見にくい。ネット上にアップされた問題画像を見ていて、図1-iがやはり問題にされているのを知った。
図1-i:
左が論文に掲載されている写真。大きさは35ミリ四角ほどで、きわめて小さい。
右はそれをデジタル化(あるいは電子版写真をそのまま使用)して、全体の輝度を上げたもの。(誰がやったのか不明。従って悪意の画像操作である可能性も否定できない。)
右図レーン3の両脇に隣のレーンとの境界が認められるが、レーン3は背景が黒いのに対して、両脇のレーンは白っぽく、境目がシャープな直線を呈している。しかし、これは左図ではよくわからない。
おどろいて「ネイチャー電子版」論文の付図を拡大して調べてみると、確かにレーン2とレーン4の「胚細胞型」バンド(図の白く太い帯)の位置に、やはり黒い直線が認められる。つまりネット投稿者の悪意によるものではなく、論文のオリジナル画像が操作されたものである可能性が高い。
用いられた「サザンブロット法」というDNAの電気泳動では、5つのレーンの起点(上端)にDNAサンプルを置き、ヨーイドンで同時に流すから、こういう縦線は出ないのが普通だ。レーン3はPHOTOSHOPか何か、画像処理ソフトを使って後からはめ込まれた可能性がつよい。
レーン3の写真は、「完全に分化しきったT細胞リンパ球が先祖返りしてSTAP細胞になる」という主張を支持する証拠として必要とされたもの。つまりもともとサンプルに含まれていた少数の未分化幹細胞(T細胞遺伝子の再構成がない)が増殖したものではない、ことを示すためにあった。
しかし、遺伝子再構成したままで幹細胞になるとすると、胚盤胞に注入してキメラマウスを作った場合に、胎児中の細胞に再構成した同一の遺伝子があることを示す必要がある。が、そのサザンブロット写真は出されていないし、そのようなマウスが正常に育つかどうかも述べられていない。(遺伝子再構成は不可逆的過程であり、これを人工的に逆転することができたら、間違いなくノーベル賞が与えられるだろう。)
つまり、著者らは免疫病理学を知らず、T細胞遺伝子再構成を単なる便利な指標としてしか考えていないから、こういうへまを犯したのだと思う。
2/17日経は<関係者によると、不自然との指摘を受けているのは、マウスの胎児の写真。共同研究者の一人は取材に対し、数百枚の画像データを取り扱っている際に混同して記述と異なる画像を載せた可能性があるとしている。>と報じている。
そうすると関係者の中には、「画像の不審点」を認めた人もいるということになる。
さあ、これからどう展開して行くのか…
「産経」のSTAP細胞疑惑報道で、わからないのは「毎日」が理研の調査開始を報じた後、2/17朝になって若山教授のインタビューを載せていることだ。
http://sankei.jp.msn.com/science/news/140217/scn14021708100002-n1.htm
この人は純真な人で、共著論文に疑惑が向けられているとは露知らないでしゃべっている。同紙はこれからどういうスタンスで報道を続けるのであろうか?
2014-02-19
【急展開】
これを書いた2/17夜以降、事態の急展開があった。
小保方の一連の論文に最初に疑念を呈したのは、米国の「PubPeer」(公衆による論文審査)というブログだ。2011年の小保方論文の画像不正疑惑を2/13に提起している。
https://pubpeer.com/publications/20883115
これとは別に米カリフォルニア大学デーヴィス校のクノッフラー教授が、小保方報告の「再現実験」を呼びかけ、2/17までに9件の報告があった。(すべてネガティブ)
http://www.ipscell.com/stap-new-data/
「ネイチャー」1/29付号に小保方論文が発表されて1週間後、上記「PubPeer」に書き込みがあり、「図1-i」レーン3の写真は「はめ込み」ではないかという指摘があった。
2/13に同じくPubPeerに論文2の胎盤の写真2枚は、回転させてあるだけで同一のものではないか、という指摘があった。
アメリカの科学雑誌「サイエンス」がこれを知り、編集部が理研広報部に問い合わせのメールを送った。理研広報部はこの質問に詳細に答える代わりに、2/13〜2/14と2日間、小保方の聴き取り調査を行い、この動きを2/15「毎日」須田桃子記者がスクープしたらしい。
この経緯は「サイエンス」2/17号が詳しく報じている。記事名は「注目の幹細胞論文、炎上中」。
http://news.sciencemag.org/health/2014/02/high-profile-stem-cell-papers-under-fire
2/17付「NATURE」電子版が、(2/30「ネイチャー」電子版に、STAP細胞の論文2本が掲載された時に解説記事を書いた)デヴィッド・シラノスキー記者による「<酸性浴>による幹細胞研究、捜査中」という記事を掲載した。
http://www.nature.com/news/acid-bath-stem-cell-study-under-investigation-1.14738
これには、
1) 外部からデータに不自然な点があるという指摘を受けて理化学研究所が調査を開始した。
2) NATURE誌が世界の幹細胞研究のトップにいる10人にアンケートを行ったところ、追試で確認できたという研究者はゼロだった。
3) 指摘されている画像の不審点などについて、NATURE誌が小保方に問い合わせのメールを送ったところ、返事がない。
4) 画像については、学位論文となった2011年「TISSUE ENG.」の論文には2箇所で同一写真の二重使用があり、「NATURE」2014年では第1論文図1(遺伝子解析)で、画像の一部に差し替え(拙文で取り上げた箇所)がある。第2論文では、同一の胎盤写真が別の実験によるものとして使用されている。
5) 共同研究者で、胎盤の写真を担当した若山照彦(山梨医大教授)は、「小保方に100枚以上の胎盤の写真を送ったので、(彼女が)取り違えたのかも知れない」と話している。
6) 「NATUTE」誌は調査チームを立ち上げ、小保方の調査を行おうとしているが、本人から応答がない。
ということが書いてある。
(この記事も断定は避け、両義性のある態度を保ち、ひたすら事実を積み重ねる手法で書かれている。)
これで小保方の幹細胞にかかわる3つの論文で、写真の不正使用があることがほぼ確定した。約10の他施設での追試実験が失敗に終わっているが、肝心の「酸性浴」を与えた細胞の詳細が不明だ。小保方がいないと実験に成功しないという若山教授の発言も不審だ。
本来なら小保方自身が先頭に立って、これらの疑問点に記者会見をするなり、声明を発表するなりして答えるべきだと思うが、2/14の政府「総合科学技術会議」を欠席して以来、行方不明になっているのではなかろうか。
ならば、理化学研究所はその調査を急ぎ、緊急に「中間報告」をすべきだろう。(画像の不正が単純ミスであれば、調査はすぐすむ。もし芋ずる式に「不正」が出てくれば、当然調査はすぐには終わらない。)
もしこれが「捏造事件」であれば、国家的威信の失墜につながるわけで、大学なら学長の、理研なら理事長の、辞任は避けられないだろう。
またメディアはまたしても「ネイチャーに載ったから」と権威によりかかった過熱報道をしてミスをしたわけだが、そしてそのことに気づいているから、今日の「産経」、「中国」のように小さくしか報じないわけだが、一部のネット・ユーザーのところには事の発端から今日までの経過にかかわる情報が詳細に集められている。それを封じることはできない。
だったら、詳しい解説報道を行うべきだろう。
2014-02-20
【違和感】
2/3のメルマガでこういう感想を書いた。
「この研究を行った女性研究者はどういう人物か:
<早大理工学部にAO入試の第1回生として入り、応用化学を専攻し、大学院では海洋微生物を研究、その後東京女子医大で細胞培養の技術を一から学び、昼夜問わずひたすら実験に取り組んでいた。>
<理研の笹井芳樹・副センター長は「化学系の出身で、生物学の先入観がなく、データを信じて独自の考えをもっていた。真実に近づく力と、やり抜く力を持っていた」と分析する。大和雅之・東京女子医大教授は「負けず嫌いで、こだわりの強い性格」と話す。その後、半年の予定で米ハーヴァード大に留学した。その後、2011年に理研に就職した>(「朝日」1/30)
ここから浮かび上がる人物像は、高校で化学は勉強したが生物学は勉強しておらず、AO入試で学力よりも意欲などの人物重視で大学に入り、細菌培養から細胞培養へとひたすら実験をしていた、というものだ。」
「Obokataという姓でNIHのPubMedを検索すると、50近い論文がヒットするが、大部分はA, J, T, Nというファーストネームの研究者。H.Obokataではたった7本しか引っかからない。うち筆頭論文は2本だけだ。(Nature論文はまだ入力されていない。) 今までは「下働き」的な研究で、自前でやった研究の論文がいきなりNatureに2本も同時掲載されるというのはきわめて珍しい。
多くの人が人物評として、「負けず嫌いで、こだわりの強い性格」、「昼夜問わずひたすら実験に取り組んでいた」、「熱心だった」と指摘するが、研究の手順が鮮やかだったとか失敗がなかったとか、研究者としての才能のひらめきを示唆するコメントはまったくない。
疑惑が報じられてから行われた「産経」のこのインタビューではわざとポイントが報じられていないようだ。
http://sankei.jp.msn.com/science/news/140217/scn14021708100002-n2.htm
「ネイチャー」誌の取材に対して、山梨大学の若山教授は「理研にいる頃、小保方の指導を受けて自分のチームが1回だけ再現実験に成功した。しかし山梨に移ってからは、実験を再現できていない」と語っている。つまり、小保方がそばにいないと実験は成功しないということだ。
「実験は◯◯が行う時だけ成功することが多く、彼がいないと再現されない、という事実に同僚たちは気づき始めた」という一文を思い出した。
NYTの科学部記者、W.ブロードとN.ウェイドの共著『背信の科学者たち』(講談社学術文庫)における、1981年コーネル大学で発覚した「スペクター事件」の説明にある。
エフレイン・ラクール(68)という老生化学者の教授の下で、シンシナチ大学という田舎の二流大学から来たマーク・スペクターという24歳の大学院生が、「がん細胞ではATPアーゼという酵素の活性が正常細胞より劣っている」という教授の理論を、一連の実験により美事に実証した。
このATPアーゼはがん細胞では燐酸化されて、活性が落ちており、この燐酸化は4種類のタンパク質キナーゼの連鎖反応(カスケード)を受け、4番目のキナーゼがATPアーゼを燐酸化するというのである。
さらに当時実証されていたウイルスのがん遺伝子srcはタンパク質キナーゼの遺伝子だが、この遺伝子は正常の細胞内でカスケード反応に関与するタンパク質キナーゼを作っているという証拠をつかまえた。
これでウイルス感染と発がんの理論が統一的に説明されるので、「ラッカー・スペクター」理論はノーベル賞に値すると大反響を呼んだ。
一連の実験でスペクターは、タンパク質分子を識別するのに「ウェスタン・ブロッティング法」というラジオアイソトープを標識として用いる電気泳動法を駆使した。電気泳動というのは、サンプルを載せた泳動用の培地=ゲルを陽極と陰極の間に置くと、タンパク質分子は分子量と表面の荷電に応じて、二次元に展開する。
レーンを2本用意し、片方にアイソトープでラベルしたサンプルを置き、片方にこれから抽出すべき資料を置く。泳動後、写真フィルムを当てて感光させ黒いバンドの位置からサンプルがある位置を割り出し、それに相当する2本目のレーンからゲルを切り出し、タンパク質を回収する。
研究はこの繰り返しである。普通、ボスが見せられるのは感光後に現像したフィルムである。標識にはP32が用いられた。
スペクターが、コーネル大学の別の生化学教授ヴォークトと共同研究した時、事態が変わった。彼は「なぜスペクターでないと実験を再現できないのか」と疑い、泳動を終わった元のゲルそのものにガイガーカウンターを当てたのである。すると音が違った。
P32はベータ線を出す。ところが音はガンマ線の音だった。つまり標識にはベータ線以外にガンマ線も出すI-131が用いられていたのだ。つまりスペクターは、問題のタンパク質がどの位置にバンドを出すべきかを決めて、用意した標準タンパク質からそれに合うものを選び、標識しやすいI-131で標識した後、電気泳動にかけていたのである。
その後行われた身元調査で、スペクターには学士号も修士号もなく、学歴詐称をしていたこと、約5000ドルの小切手2枚を偽造した前科があることが判明した。
(このDr. Laquerは、私がNCIに留学していた頃に、一度会ったことのある人物だと思う。ユダヤ系のドイツ人で、アウシュビッツを生き延びた人だった。当時はNCIのラボにいて、その後コーネル大学に移動したのかも知れない。)
<嘘がばれたときに大きなリスクを負い、かつすぐばれる嘘をつく 人間はいない。>と2Chである人物が断言していたが、「捏造者」にとって「ばれる」不安は回を重ねる毎に薄らいで行くのが普通で、次第に大胆になる。だから発覚した時には、捏造行為をずうっと過去にさかのぼって確認できる、「常習的捏造者」であるのが普通である。
28年間にわたり、旧石器時代の地層に縄文石器を埋め込むことにより「旧石器遺跡」を捏造してきた藤村新一がその典型例だ。しかし、常習的捏造者の動機や心理についてはほとんど明らかにされていない。
<ハーヴァード大学の共同研究者がいるのだから信頼できる>という意見もネットで見かける。ハーヴァード大学が世界で最もレベルの高い、信頼されている大学だというのはその通りだろう。
しかし、1980年に発覚した「ジョン・ロング事件」では、捏造を行ったロングはハーヴァード大学医学部卒で、マサチューセッツ総合病院に勤務する病理医の助教授だった。彼はこれまで誰も成功したことがない、ホジキン病患者の腫瘍から立て続けに4株の培養細胞株を樹立し、脚光を浴びていた。
データの書き換えに気づいたラボの技師の内部告発により、病院が調査委員会を設置して調べたところ、4株のうち3株の細胞はヒト由来でなくサル由来の培養細胞であり、残り1株はヒト由来だが摘出された患者脾臓には腫瘍がなく、由来不明とわかった。
(培養細胞が汚染により他のより増殖能力の高い培養細胞にとって代わられることは、ヒーラ細胞の場合はよく知られている。)
アメリカの科学研究費は研究室の維持費、人件費にも充てられるのが普通で、当時ロングはNIHから1976〜79年分21万ドル、1979〜82年分55万ドルの科研費支給が決まっていた。
この2回目の科研費申請がパスしなければ、ラボを閉鎖しなければならないかもしれないというプレッシャーが、審査員に「有望な研究」と信じてもらうためにロングをデータ捏造に走らせたのだ、といわれる。
事件発覚後、ロングは数値データの捏造を認め、病院を辞職した。NIHは今後ロングに科研費を支給しないことを表明した。科学界を追放になったロングは、中西部の田舎町の病理開業医に転じた。
(この事件がロングの特異的な性格とからんでいたことは、それから10年ほどして、今度は彼が自らの病理診断が医療過誤として訴訟の対象になることを怖れて、過去の病理診断書を改ざんした事件が起きて明らかになった。
ロングはこれですでに追放されていた科学界からだけでなく、医師免許抹消の処分を受けてアメリカ医師会からも追放された。)
ロング事件では汚染事故による培養株の置換というアクシデントと意図的なデータ改ざんとが混在しており、スペクター事件のような一貫した作為性はないが、ハーヴァード大医学部卒の「超エリート」が引き起こしたものである。だから「ハーヴァード大がからんでいるから」と過度な信用を寄せるのは禁物なのだ。
理化学研究所では2004年12月に研究員二人が、「血小板の形成メカニズム」に関してデータの改ざんを行い、米科学誌に3本の論文を発表した事件が起きている。この事件後、理研は所内に「監査・コンプライアンス室」を設置し、日本の研究機関としては最初に不正防止措置を取っている。今回の疑惑でも、ここが直接の調査を担当しているとみられる。
「ネイチャー」第1論文のDNA電気泳動の写真(レーン3)に「Germline=GLのバンドがないのはおかしい」という意見がメールで寄せられた。「はめ込み」ではないかという疑惑が生じている問題のレーンだ。
確かにレーン1(ES細胞)、レーン2(線維芽細胞)、レーン4, 5(培養で得たSTAP細胞)にはGLのバンドがあるが、レーン3(マウス脾臓から採取したT細胞)にはない。論文のテキストにあるように脾臓T細胞のDNAを抽出し、そのまま電気泳動にかけたのなら、再構成したT細胞受容体の遺伝子DNAだけでなく、再構成していない他の遺伝子DNAも含まれているから、当然GLバンドが出ないとおかしい。
(しかし、これがあると免疫遺伝子の再構成を知らないレフェリーや知識のない読者を混乱させる恐れがあるのも事実だろう。
事実「補強データ図2」として論文1に付加されている図集では、このような電気泳動写真が掲げられている。
ここでは「リンパ球」のところにGLがはっきりと認められる。が、レーン2と3は同じ画像でレーン2のGLの白いバンドは手書きで加筆したものだ、と思われる。)
そうするとこういう可能性は考えられないだろうか。
こうしたトラブルを回避し、「T細胞の遺伝子はすべて再構成している」(すなわち末梢細胞へ分化している)ことを強調するために、電気泳動後のゲルからGLの箇所を切り落としてDNAを回収した。それをPCR法で増殖し、再電気泳動を行えば、レーン3のパターが得られ、GLバンドは消失する。(これだと回収したT細胞の中にすでに「小型幹細胞が含まれていた」という批判をかわせる。)
ついで新しいレーンの写真を画像処理により図iの本来のレーン3の位置にはめ込んだ。
この解釈だと、レーン3にはめ込みを思わす不自然な直線があることと、レーン3にあるべきGLバンドが欠けていることが上手く説明されるように思う。
確かにこの図1-iは、著者らの主張「脾臓のT細胞は遺伝子再構成を起こした細胞で、それを弱酸処理後に培養すると7日目に幹細胞が出現してくる」を、眼で見て分からせるには有効である。
しかし局地的には説得力があるように見えるこの図は、全体の見取り図の中ではより大きな矛盾を生みだす。そのことに著者らは気づいていたのだろうか?
挿入された(と思われる)レーン3の細胞を出発点にすると、この細胞の遺伝子はすべて再構成していてGLがないから、他のいかなる細胞の母細胞になることもできない。レーン2の線維芽細胞が増殖できるのは、GLのところに必要な全遺伝子がそろっているからだ。
ところがレーン4,5(培養7日目、独立した二つの実験とある)ではレーン3になかったGLバンドが出現している。一体この新しい遺伝子群はどこから来たのか?再構成したT細胞受容体β鎖遺伝子しか持たなかった細胞が、どうしてこのような遺伝多様に富む細胞に変化するのか?
外部専門家をふくめた理研の調査は2/17月曜日から開始されたが、2/18火曜日には「ネイチャー」が誌上で「調査チーム」の立ち上げを報じた。2/19水曜日夕刻の「毎日」は早稲田大学が小保方の学論文の調査を開始したと報じている。
http://mainichi.jp/search/index.html?q=stap細胞%20%20調査&r=reflink
ヴァカンティ教授が所属するハーヴァード大学大学院は彼の過去論文などの調査を開始すると2/20「毎日」が報じている。
http://mainichi.jp/select/news/20140220k0000e040231000c.html
「ネイチャー」小保方の生データの提出を求めているという。これが引き渡され一般に公開されると、たぶん問題は一挙に解決するだろう。
遺憾ながらネイチャー調査チームが結論を出した後で、3月になって理研調査委員会が別な結論を出しても世の中は信用しないだろう。理研が独自に早急に結論を出し、その後からネイチャーの結論がそれを裏づけるという展開が望ましい。
「ネイチャー」1/30号の第1論文を見ると、8人の著者がいる。
(Obokata H, Wakayama T, Sasai Y, Kojima K, Vacanti MP, Niwa H, Yamato M & Vacanti CA)
うち日本側の「上級著者(シニア・オーサー)」は東京女子医大の大和雅之教授、ハーヴァード側はC.A.ヴァカンティ教授となっている。他にハーヴァード側は小島こうじ、と小保方晴子(これは給料が一部ヴァカンティから出ていたためだろう)にMP Vacanti。これはCA ヴァカンティの弟で、今はカンザス州の陸軍病院で病理医をしている。
論文執筆者は小保方とYoshiki Sasaiが担当したとある。
実験を担当したのは、小保方、若山照彦、笹井Yoshihiko、移植実験は小島が行った。
小保方、若山、笹井、丹羽、CA Vacantiは実験計画を立てた。
MP Vacantiと大和は実験計画とその評価に協力した。
それぞれの分担について論文には以上のように記載されている。
ヴァカンティの仕事はハーヴァードではまったく評価されていなかった。が、2008年、小保方が留学し、研究に進展がみられた。しかし相変わらず他の幹細胞研究者はヴァカンティの研究を受け入れようとしない。
そこで2010年に、フロリダで開催された学会で女子医大の大和がヴァカンティと小保方に会った時に、「細胞分離の過程が幹細胞を作り出している可能性があるから、自分のラボに戻って、それを追求したらどうか」という提案を行い、小保方が帰国したとBoston Golobe紙のキャロライン・ジョンソン記者は2/2付紙面に書いている。
その後、東北大震災が起こり、小保方は理研の若山と共同研究するようになり、2012年4月ネイチャー誌に論文を投稿されたが、これはリジェクトされた。
「若山のような幹細胞研究のトップにいる研究者と共同研究することは、仕事の信頼性を増す上で決定的に重要だ」と同記事で、ボストン小児病院のD.Q.ディリィ博士が述べている。
以上が、今回の論文(2013/3投稿、2013/12受理)が発表されるまでの背景である。
要するに受け入れられなかったVacantiの2001年論文では、「すべての組織に微小な<芽胞様細胞>が存在していて、これが多潜能幹細胞である」と主張していた。2008年にVacantiのラボに留学した小保方は、つぎつぎにこれを実証する実験を行った。
「抽出操作で多潜能幹細胞が活性化される」という新たな仮説を証明すべく日本に戻った小保方は、理研の若山照彦を共同研究者に巻き込み、2012/4にネイチャーに論文を投稿したが却下された。以後、クレームが付いた箇所を追加実験棟で修正し、2013/3に再投稿し今回の発表論文になった。
これ自体は、事実経過として何も不審な点はないのだが、「天才科学者」としての小保方のひらめきのようなものがどこにもうかがえない点に違和感を覚えるのは私だけだろうか…
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