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2014年01月03日 現代ビジネス
『日本政治のウラのウラ 証言・政界の50年』より【第4回】
■六 田中真紀子? 彼女だけはやめておけ
森 イルクーツク会談の時点ではまだ私は、後継者は加藤紘一だと思っていましたからねえ。山崎拓はダメだし、小泉純一郎はまだ本気ではない。だから、やっぱり加藤だと思っていた。
――へえ〜、森さんも加藤紘一だと思っていたのですか。
森 当時はまだ、佐藤優さんが外務省の分析官をしていたので、佐藤さんにも「私の後継は加藤になると思うけれども、加藤にも同じようによくしてやってくれよな」と頼んでおいたのです。佐藤はそのことを著書のなかで書いていますよ。
――そもそも、森さんと加藤紘一は決して仲が悪くない。
森 そうです。ところが、あの人は時々、血迷うんだな(笑)。加藤の乱を起こして失敗し、小泉さんになったわけですが、小泉さんが日ロ問題に関心があるかどうかというと疑問でしたね。彼は初当選の年次が私の一期下ですが、同じ福田派でもあり、政治活動をずっと見てきましたけれど、そもそも外交問題にはあまり関心がなかったようです。
――主に大蔵畑ですよね。
森 大蔵だけで、他はやっていないし、外国との関係はあまりありません。一番の問題は、組閣の時に田中真紀子を外務大臣にしたことです。ぼくはずいぶん「やめろ」と進言したけれども、最後まで聞かずに入閣させたのです。
――自民党総裁選挙の時に、田中真紀子がずっと小泉さんの応援をしたのですね。
森 小泉さんが首班指名を受けた後、院内の総理大臣室で私が待っていた。そして、組閣本部に向かう小泉さんに言ったのです。
「純ちゃん。もういっぺん言うぞ。田中だけはやめておけ」
「もうダメなんだよ。田中にする」
「そこまできみは約束したのか」
「約束した」
「それじゃ、仕方がないから、経産大臣でもいいし、他の省庁にしなさい。外務だけはいかん。何か問題が起きた時に、国内でおさまらなくなる。外交問題になるよ」
ぼくが自民党の幹事長時代のことです。河野洋平総裁に頼まれて田中真紀子を科学技術庁長官にして、もう大変だったのですよ。彼女にはすぐ調子に乗るクセがあって、誰の言うことも聞かない。千人単位の聴衆が待っているのに、「汗かいたから、私帰る」と言ってドタキャンを平気でやる。「そんな人を外務大臣にしたら大変なことになるから、やめておけ」と進言したのだけれど、「いや、外務大臣にするって約束しちゃったんだよ」ということだった。
ただ、田中真紀子は総裁選で小泉を応援する条件として、「もし選挙に勝ったら自分を外務大臣にしろ」と要求したわけだから、約束する方もする方だけど、させる方もさせる方ですよ。
――田中真紀子なら言いかねない。そういう条件を出す女性ですよ。
森 そういう人なんだよ。外務大臣になると、まず鈴木宗男をやっつける。それから、事務次官の野上義二をやっつける。とまあ、いろんなことをするわけですねえ。「小泉が鈴木を切るために田中を使った」という情報も流れましたが、事実かどうかは確認できていません。
それで、日ロ問題についても「イルクーツク会談? 何、それ」というわけで、田中真紀子が「日ロの話は田中角栄・ブレジネフ会談に戻すべきだ」と言ったから、ロシア側が怒ったわけです。
■七 日ロ問題の化石人類
森 一九五六年の宣言では、歯舞・色丹の二島をまず返還するということになったのですが、日本側が四島一括返還を求めて話が流れてしまった。ぼくがプーチンと話し合ったイルクーツク会談では、二島を返還することをもう一度確認したのです。
――橋本・エリツィン会談の時も、エリツィンは「二島を返してもいい」と言ったのに、なぜ、いまだに返還されないのですか。
森 いや、これがね。いまだによくわからないのだけれども、外務省のなかに四島一括返還をお題目のように唱えている人たちがいるわけです。
――実は橋本・エリツィン会談の時の自民党幹事長は加藤紘一なんです。彼は外務省出身で外交問題に長けていますから、ぼくは加藤に「せっかく二島返還が出てきたのになぜ、うまく行かないんだ」と聞いたら、「それが田原さん、難しい問題があるんだ」と答えていました。
森 それは、外務省内にあるアメリカンスクールやロシアスクール、チャイナスクールといった「派閥」のことでしょう。トップが誰になるかによって、政策の方向が変わるんだね。ロシアスクールのメンバーがみんな頑迷な四島一括返還論者かというとそんなことはないけれども、産経新聞の「正論」を書いている北海道大学名誉教授の木村汎やユーラシア21研究所理事長の吹浦忠正、青山学院大学教授の袴田茂樹らは「日ロ問題の化石人類」と呼ばれているようだね。彼らには、日ロ両国が相互に歩み寄って建設的に解決する気はない。とにかく四島一括でなければダメだと言っているわけです。
――森さんも橋本さんも、まず二島の返還を実現して、さらに交渉しようと言っているわけで、なぜそれが気に食わないのですか。
森 う〜ん。だからね、彼らは、島を返されたら困るんじゃないですか(笑)。
――そこなんですよ。何が困る?
森 四島と一括りに言っても、それぞれ特徴があり、島民の感情も違う。択捉・国後は面積も広く、人口も多いが、歯舞・色丹は狭いので、あまり返還のメリットがないと言うわけです。択捉にはロシア人の住民が多いだけでなく、ロシアの軍事基地があり、飛行場もある。そういう現実があるのに、二島返還でお茶を濁すのかという学者もいて、外務省内でもそういう意見に同調する官僚もいる。
しかし、歯舞・色丹は、確かに面積はたいしたことがないかもしれないけれども、漁業権の面では大変な影響がある。イルクーツク会談で両国の話がつい ていれば、日本の漁船がロシア側に拿捕されて漁民が殺される事件が起きることもなかったんですよ。政治というのは妥協であって、四対〇か、〇対四かどちら かということにはならない。
――四島一括返還を主張する外務省内の勢力はそんなに強いのですか。たかが外務省じゃないですか。
森 う〜ん。あるんでしょうね。だから、時の総理大臣、外務大臣が「こうだ」と言って方針を示し、引っ張っていかなければダメなんですよ。
――森さんが総理大臣の時、外務大臣は河野洋平でしたね。
森 一九五六年の日ソ共同宣言について、プーチンは「日本側も国会で批准している以上、日本政府は責任を持たなければいけない」と言っている。つまり、二島の返還についてはOKなのです。「残りの二島もただちに返せ」と言っても、プーチンの立場もあるから、お互いに知恵を出し合って実際的に考えるしかないのです。ガンの手術に例えれば、一度に四つを取り除く大手術ではなくて、まず取りやすいふたつを取って様子をみる方がいいだろうということです。にもかかわらず、この手術が終わらなければ、日ロの他の問題には一切応じないという頑なな姿勢を取ることほど、愚かな外交はないわな。
北方四島の返還については、〇対四、一対三、二対二、三対一、四対〇のどれかしか選択肢がないわけですよ。しかし、これだけでは解決は難しい。そこで、まず二島返還を受け入れる。後の二島は先延ばしにして、時代も首脳陣も替わった段階で、話し合いに入っていける方法をまた考えるのが一番いいというのがぼくの考えです。
――森さんが今回、ロシアに行く前にテレビ番組で三島返還について触れていましたが、あれはどういう意味ですか。
森 フジテレビ解説委員の反町理がインタビューで引っ掛けたんですよ。北方四島の返還問題についてはいろいろな考えがあるわけで、「こういう考え方もある」というひとつの可能性として言及しただけのことです。日本のマスコミが愚かなのは、ぼくが発言通りに交渉すると思い込んでいることです。
――新聞はまるで三島返還で決まったように書いていましたね。
森 ぼくはそんなバカじゃないんでね(笑)。交渉はあくまで政府がするのであって、ぼくはお膳立てを整える前座にすぎません。ただ、三島返還論で「けしからん」という声がどのくらいあるかと思って注目していたけれど、ほとんどなかった。
――「けしからん」と言ったのは、例によって化石人類だけだ。
森 産経の木村汎は「あんなヤツを行かしちゃいかん。三島返還などやらせてはダメだ」と言っておったね。
――化石人類がなぜ相変わらず、こんなに力を持っているんですかね。外務省も四島一括返還と言っていますね。
森 そう言っておけば、無難だからでしょう。化石人類の連中を力づけるためのようなものですよ。
――そうか。四島一括返還と言えば、具体的な交渉をしなくてすむからね。森さんの案でやるとなったら、具体的に動かなければいけないから大変だ。
■八 戦争の時代は終わったが
森 戦後六十八年も経って、日ロ両大国の間で未解決の問題は北方領土問題だけですよ。解決する方法が見つからず、お互いにそっぽを向いているけれども、反目しているわけでもない。両国とも解決したいと思っているのに放置しているのは政治家の責任だとぼくは思いますね。
先ほども触れましたが、「EUがノーベル平和賞をもらったのはおかしなことで、ノーベル賞の権威が下がるだけだ」というのがぼくの意見です。六十年間にわたって戦争がなかったことが評価されたというけれども、逆に言えば、それまで戦争ばかりしていたということだからね。ヨーロッパの国どうしで戦争し、アフリカやアジアを植民地にするために戦争し、第一次世界大戦を起こし、十九世紀半ばから二十世紀半ばまで百年余りはずっと戦争が続いた。最後は原子爆弾が開発され、実験的に日本に落とされたけれども、それをきっかけに「これはまずいよ」ということになって、戦争がようやくストップした。
――核兵器を使ったら、人類が破滅すると。
森 人間は賢にして愚、愚にして賢と言うけれども、破滅の危機を迎えて初めて「核兵器を二度と使わないようにしましょう」ということで核軍縮に動くわけですよ。相変わらず、発展途上国では民族紛争や宗教紛争が絶えないけれども、大国の間では戦争をせずに何とか均衡を保ってやってきている。
――第二次世界大戦後は、確かに大国どうしの戦争は起きていない。
森 そういう時代に入っているのに、ですよ。たかだか、島の問題で日ロ両国が話し合いもできないというのはどんなものか。日ロがうまく行かないのを一番喜んでいるのは中国でしょう。
――そうですか。ぼくは外務省が四島一括返還と言っているのは、アメリカンスクールの圧力じゃないかと思っているんですけどもね。外務省のアメリカンスクールがアメリカの機嫌を損ねないように、日本とロシアが仲良くするのを妨げていると。違いますか?
森 それは間違いないんです。日ソ共同宣言で二島を返還するとなった時に、クレームをつけてきたのはアメリカのジョン・ダレス国務長官ですよ。東西冷戦という状況のなかで、ソ連に有利になることは絶対するなということだったようです。
――冷戦時代で、アメリカの意思が強く働いていたと。
森 日本は敗戦国だから反論する力はなかったかもしれません。敗戦国だったから、吉田茂総理といえども、何も言えなかったのでしょう。だけど、それがいまだに尾を引いているのだから、こんな不幸な話はないですよ。
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