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[中外時評]世襲政治家の北東アジア 反目しつつ支え合う
論説委員 飯野克彦
「太子党」という中国語がある。共産党政権の高官の子弟たち、といった意味だ。現在の中国の最高指導者、習近平国家主席は典型といえる。
ここではもっと範囲を広げて、血縁をバックにした政治家、という意味で使いたい。そうすると、太子党トップは東アジア全域で目につく。わが安倍晋三首相、韓国の朴槿恵大統領、北朝鮮の金正恩第1書記、フィリピンのアキノ大統領、タイのインラック首相、シンガポールのリー・シェンロン首相――。
東アジア17カ国・地域のうち4割を超える7カ国を太子党が率いている。特に北東アジアでは6カ国・地域の3分の2に及ぶ。安倍首相と習主席、朴大統領、金第1書記。4人の太子党が北東アジアを動かしている。
習主席と朴大統領がわりあい仲良くみえるのを除けば、彼らの関係はどれも緊張をはらんでいる。それぞれに根深い背景があるが、4人に共通する一つの心情的な傾向が緊張を増幅している印象は強い。未来志向ではなく過去志向の傾きだ。26日、象徴的な出来事があった。
この日は中国共産党政権にとって「建国の父」毛沢東主席の生誕120周年。習主席は北京・天安門広場の一角にある施設に安置された毛主席の遺体に、敬意を表した。1時間ほど後、東京・靖国神社に安倍首相が参拝した。
かたや事前の手配に沿った公式行事。こなた「私的」とも指摘される電撃的な行動。形の上では対照的だったが、いずれも「自国の過去に正しく向き合っていない」という批判を浴びた点で、よく似ていた。
靖国を巡ってはA級戦犯の合祀(ごうし)を軸にいろんな意見があるのは周知の通り。一方の毛主席には、3千万を超える餓死者につながったとされる大躍進運動や中国全土に破壊と混乱をもたらした文化大革命を発動した責任などを問う声がある。
安倍首相や習主席は行動によって、過去を問いただす意見を無視し自らの歴史認識を声高に主張したといえるだろう。
振り返れば、安倍首相と習主席は就任前後に掲げたキャッチフレーズも似通っていた。「日本を取り戻す」と安倍首相。「中華民族の偉大な復興こそ中国の夢だ」と習主席。自分の手で未来を構想するのでなく、過去の幻影を追いかけているのでは、といぶかりたくなる。
そして北朝鮮の金第1書記は2年前に亡くなった父親の「遺訓」を大々的に掲げている。韓国の朴大統領は未来をにらんで日本と国交を結んだ父親に反発するかのように、未来志向の日韓関係に背を向けている。
「胡錦濤前国家主席は番頭(ショップキーパー)だった。対して習主席は太子党なので果敢に大胆な決断ができる」
世界的な人権擁護団体、ヒューマン・ライツ・ウォッチの高級研究員として中国の人権問題に取り組んでいるニコラス・ベクイリン氏は先ごろ、こんな見解を披露した。
確かに、習政権が発足から1年余りでなし遂げたことは少なくない。特に11月に明らかにした改革の青写真は、優柔不断な印象が強かった前指導部との違いを内外にみせつけた。
ベクイリン氏の見解は安倍首相にも当てはまりそうだ。黒田東彦日銀総裁を起用しての強力な金融緩和や、特定秘密保護法の制定、国家安全保障会議の創設などが目につく。
金第1書記にいたっては、果敢とか大胆といった言葉では足りないほどに激しい動きをみせてきた。2年ほどの間に後見役とみられていた幹部を次々と失脚させた。義理の叔父にあたる張成沢・元国防委員会副委員長に対する粛清は衝撃的だった。
ベクイリン氏の言うとおり、太子党には果敢で大胆な面があるのかもしれない。それは一概に悪いわけでもなかろうが、未来の構想より過去の幻影を追う姿勢には危うさが漂う。
ともに繁栄できるアジアを目指し協力を深めるため国内のナショナリズムを制御するのではなく、ナショナリズムをあおって政権の求心力を高めようとしているようにみえるのだ。事実、北東アジア情勢は不穏だ。
緊張の高まりは国民の自由への制限を強めたり、軍事費を増やしたりするのに格好の口実ともなっている。その結果さらに緊張が高まる、悪循環。
太子党たちは反目し合うことで実は支え合っているようでもある。割を食うのはもちろん、各国の国民だ。
[日経新聞12月29日朝刊P.9]
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