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政権発足1年に合わせた安倍晋三首相の靖国神社参拝について、Yahoo意識調査で8割近くが「妥当」と回答。産経1紙が「国民との約束果たした。平和の維持に必要」と主張、他は批判一色というマスメディアとは正反対の反応になっている。
Yahoo 意識調査は安倍首相が参拝した26日、サイト上で「安倍首相は政権1年を迎えた26日の午前、靖国神社に参拝。現職の首相が靖国神社に参拝するのは、小泉純一郎首相以来7年ぶりですが、あなたはこの靖国神社参拝を妥当だと思いますか?」と問いかけた。
意識調査は1月5日まで行われる予定だが、28日夜の時点で34万3190人が投票。26万7931人(78.1%)が「妥当」と回答、7万5259人(21.9%)が「妥当でない」と答えた。回答者の内訳は男性80.1%、女性19.9%と男性が圧倒的に多い。
Yahoo意識調査は、統計理論に基づいた標本調査ではなく偏りが避けられないが、8割近くが安倍首相の靖国参拝を「妥当」と考えているという結果は衝撃的である。主要メディアによる正規の世論調査がどうなるのか、是非とも知りたい。
追悼施設としての靖国神社
靖国神社をめぐる問題を大きく3つに分けて考えてみたい。まず、国のために命を捧げた軍人や軍属らの霊を追悼し、国家指導者が頭を垂れるのはごく自然な感情の発露である。赤紙1枚で召集され、戦地に散った兵士とその遺族に対して国家が知らぬ顔をして済まされるわけがない。
靖国神社をめぐっては戦後、連合国総司令部(GHQ)による焼却計画もあったが、GHQの 宗教政策を担ったバンス宗教課長は後に 「靖国神社は戦争で肉親を失くした遺族の方々の気持ちの安息所」と靖国神社を存続させた理由を振り返っている。
Yahoo 意識調査で8割近くが「妥当」と答えたのは、戦没者の追悼を妨げようとする中韓への反発、安倍首相の靖国参拝を厳しく批判する日本メディアへの失望もあったのだろう。
「日本の国内問題について外国からとやかく言われたくない」という思いが靖国参拝支持の背景にある。
東京裁判を受け入れるか
第二に、東京裁判の判決で処刑されたA級戦犯が昭和53年に合祀されたことで靖国問題は複雑さを増す。「首相が、A級戦犯が祀られる靖国神社を参拝するのは、東京裁判史観を否定するものだ」という批判が中韓や一部の日本メディアで繰り返されるようになった。日本にとって先の大戦は「侵略戦争」ではなく、東京裁判は勝者が敗者を一方的に裁いたもので受け入れられないという主張は保守派の中に根強くある。
しかし、先の大戦はドイツ、日本といった新興勢力の拡張主義が引き金になったとの見方を覆すのは難しい。さらに日本軍による残虐行為があったのも歴史的な事実である。
日本の戦争責任を否定するかどうか、東京裁判を受諾したサンフランシスコ講和条約を否定するかどうかと聞かれた場合、国論は大きく二分するだろう。
国民精神の原動力だった靖国
第三に、靖国神社と国家神道は国民精神総動員の原動力として利用され、軍国・日本の興隆と破滅をもたらした。あの時代、国民国家のナショナル・アイデンティティーは戦争によって形作られた。まさに「戦争の世紀」だった。
国家の命運を賭けた戦争で死ねば皆、平等に靖国神社に祀られるという信仰が明治維新後の国民精神をつくった。GHQが最も怖れたのは、靖国神社が持つこの精神作用だ。
尖閣や竹島といった領土問題が日本国民のナショナリズムを高揚させ、靖国神社に再びスポットライトが集まっている。靖国神社にナショナル・アイデンティティーを求める空気には同調できない。
靖国神社は「戦争の世紀」の遺物であって、21世紀の日本のナショナル・アイデンティティーは自由主義と民主主義に根差すものでなければならない。国家主義より、それぞれの国民が自立した個人主義こそ21世紀に求められる価値観だ。
それが、戦前の軍国・日本と同様、経済力と軍事力を背景に拡張主義に走る中国と、戦後・日本を隔てる大きな違いである。安倍首相はこうした論点についてもっと明確な考えを示すべきだ。
靖国参拝の影響
安倍首相の靖国参拝は今後、どんな影響を及ぼすのか。(1)日韓、日中関係
当たり前のことだが、日韓関係、日中関係の改善は安倍政権の間は見込めなくなった。「これ以上悪くなりようがないので、中韓への配慮は不要」との意見も政権内から聞こえるが、中国の習近平国家主席も韓国の朴槿恵大統領も「やはり安倍首相と会談しなくて良かった」と胸をなでおろしているだろう。
それでなくても、韓国や中国では「親日」は大きな政治リスクをはらんでいる。いつ靖国神社に参拝するかわからない安倍首相と協調するのは、朴大統領、習国家主席にとっては自殺行為に等しい。
今回の靖国参拝が、少しずつ改善していた対中輸出にどんな影響を及ぼすのか予断を許さない。尖閣国有化の時と同じように対中輸出が冷え込めば、来春の消費税増税後の景気回復が危うくなる恐れもある。
(2)欧米諸国の対応
欧米の主要メディアが安倍首相を「ナショナリスト」「歴史を美化する修正主義者」と批判する中で、「プラグマティスト(現実主義者)」と理解を示してきた安倍擁護派の主張が説得力を持たなくなる。
中国も日本も欧米メディアにそれぞれの立場を理解してもらおうと水面下で情報戦を繰り広げている。しかし、人員や資金面で中国は日本を圧倒しており、欧米メディアや研究者の多くが中国の影響を受けるようになっている。
安倍首相の靖国参拝が「軍国主義の肯定」「日本の戦前回帰」と受け取られるのは避けがたく、「中国は戦前の日本と違って平和勢力」という中国の主張を支持するオーストラリアのラッド前首相のような親中勢力が拡大する恐れがある。
(3)オバマ政権
在日本米国大使館は「近隣諸国との緊張を悪化させる行動を取ったことに、米政府は失望している」という異例の声明を出した。
ケリー米国務長官とヘーゲル米国防長官が千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪問。中国が尖閣を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定した際、米政府は中国のADIZを無視する日本政府の方針とは違って、飛行計画書を提出するよう自国の航空会社に指示した。
尖閣をめぐって中国と突発的な戦争に陥ることを恐れるオバマ政権は、安倍政権から見れば中国寄りの姿勢が目立つ。「中国が尖閣を実効支配しようとした際、米国の出方がわからない」。そんな不安が払拭できない。
安倍首相による靖国参拝は、オバマ政権に対するフラストレーションの表現とも、「自国防衛は自国で」という決意の表れとも見ることができるだろう。
アジアへのリバランス(回帰)政策をとる米国にとって、在日米軍基地、自衛隊のアセットは必要不可欠だ。「靖国参拝に踏み切っても、オバマ政権との関係は悪化しない」という読みが安倍首相にはあったのかもしれない。
(4)憲法改正
靖国参拝で中国との関係が悪化すれば、尖閣をめぐる緊張も増す。そうすれば集団的自衛権の行使を容認する世論が増え、憲法改正の動きにも追い風が吹く。それが安倍首相の狙い。英BBC放送はそんな見方を掲載している。
安倍首相の最終的な政治目標は「憲法改正」で、財政発散、ハイインフレという大きなリスクを伴う経済政策アベノミクスは政権基盤を固めるだけの手段に過ぎないのだろうか。
安倍首相がいう「戦後レジームからの脱却」がどういう意味を持ち、アベノミクスや国家安全保障会議(日本版NSC)、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、憲法改正がその中でどう位置づけられるのか。
安倍首相はこの1年、国家色の強い政策を避け、経済優先の安全運転に徹してきた。しかし、特定秘密保護法から強硬な姿勢が目立ち始めた。首相として靖国参拝に踏み切った今、安倍首相は「恒久平和への誓い」という短い談話にとどまらず、国民の前で明確に政治信条やビジョンを語るべきではないのか。
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