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2013-12-27 23:30 世に倦む日日
昨日(12/26)の安倍晋三による靖国参拝に対して、米国政府が「disappointed」の厳しい表現で批判を加えた。「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに米国政府は失望している」。 United States is disappointed that Japan's leadership has taken an action that will exacerbate tensions with Japan's neighbors. しかも、この発表は、米国大使館から即座に発表され、サイトにプレスリリースとして公表された。このことの意味は重大だ。昨日、ネットで安倍晋三の靖国参拝の報を知ったとき、千鳥ヶ淵にケリーとヘーゲルの2名を献花させてメッセージを発していた米国が、どういう反応をするだろうかと関心を持ったが、すぐに厳しい批判が飛び出し、私は正直に驚かされた。異例だ。これまで、米国政府が日本の首相の行動について文書で直接批判した例はない。思い浮かばない。しかも、即日に発表された。昨夜のNHK-BSのニュースで、鎌倉千秋が、DCは12/25のクリスマスの夜なのに、対応を協議して声明を東京の大使館に発表させたと、その異例ぶりに言及していた。NHKのニュースでは、安倍晋三は朝の参拝直前、米国大使館に電話を入れたと伝えている。テレ朝の記事では、米国に事前通知しなかったとあるが、これはNHKの報道の方が正確だろう。臆病な安倍晋三が、米国に事前連絡しないはずがない。
安倍晋三が米国大使館に電話を入れたとすれば、当然、電話に出たのは大使のケネディである。そこで何が会話されたか。それを推測するのはたやすい。共同の報道によると、ホワイトハウス当局者が、安倍晋三が靖国参拝に踏み切った場合の対応を以前から協議していて、動きを掴んだ瞬間に批判のメッセージを発する準備を整えていた。米国側が、以前から靖国参拝は控えるよう求めていたにもかかわらず、安倍晋三がそれを無視して強引に決行したため、米政府声明も「遺憾」ではなく「失望」という強い批判の表現を選んだのだと、そう米政府当局者は語っている。率直な説明だ。米国政府が同盟国の首脳を直接批判する、それも"disappointed"の語で公式文書で痛烈に、そうした事例はこれまで見たことがない。英国首相、ドイツ首相、韓国大統領に対して、米国が「失望」の言葉の厳しい批判を浴びせるという図は想像できない。これは米国の強い姿勢を示していて、二度と靖国参拝は許さないぞというメッセージだ。靖国問題について、米国は中国・韓国と認識を一致させ、日本の歴史認識の問題で日本を批判する側に明確に立った。7年前、小泉純一郎が終戦の日に参拝したとき、米国はこのような対応をしていない。状況が変わったのであり、アジア・シフトの米国が態度を変えたのだ。安倍晋三にとっては誤算だろう。外務官僚は大慌てに違いない。
これまで、論壇とマスコミとネットの右翼は、靖国参拝の正当化において、アーリントン墓地を引き合いに出し、アーリントンに首脳が赴くのは当然なのに、何で靖国参拝が問題視されるのかという論法を立ててきた。どの国にもある戦没者の慰霊施設であり、国のために戦死した兵士を弔う国家施設であり、首脳外交では必ず訪問すべき神聖な場所なのだと論じてきた。この主張は、現在の国会議員の8割以上の思想信条であり、この国の支配的なイデオロギーとなっていて、NHKもこの立場で報道している。最近のマスコミの世論調査で、閣僚の靖国参拝を支持する意見が過半数を超えるのは、この右翼の言説が国民に浸透し、「常識」になっているからだ。その言説が、今回の米国の批判を契機に説得力を失って崩壊するかもしれない。米国は、アーリントン墓地に該当するのは千鳥ヶ淵の戦没者墓園であると指定し、わざわざ国務長官と国防長官に献花のパフォーマンスを演じさせ、日本国民にそのことを啓蒙し訓示した。靖国神社は違うのだと、そこは国家神道の軍国主義のシンボルなのであり、米国はそこを認めないと宣告したのである。この意味は大きい。日本のマスコミ報道の論説は、基本的に米国の立場や発想が標準の指針になっている。今後、靖国について右翼の言説を通そうとすれば、米国の判断基準とバッティングする異端に立つことになり、論者は慎重にならざるを得ない。
今回、米国の即時の批判に続き、台湾、ロシア、EUが安倍晋三の靖国参拝を批判した。国際包囲網が出来上がった構図となり、右翼日本が国際社会から孤立した様相を呈している。そして、重大な国際政治上の問題になった。各国のテレビのニュースとなって報道されている。尾を引くだろう。嚆矢となった米国の批判を歓迎したい。これまで、靖国参拝は、「中韓が批判する」外交問題だった。小泉純一郎の靖国参拝以降、右翼とマスコミは、この問題を外交問題に矮小化してスリ替え、しかも中国と韓国だけが日本を攻撃する問題だと言い立て、中韓の反発を逆に利用し、ナショナリズムを煽る燃料にして、中韓への対立感情をテコに靖国を正当化してきた。中国と韓国をマイナスシンボルにし、中韓への反感と嫌悪の意識を多数化することで、右翼の思想と政策の全てを正当化する試みと企てに成功してきた。右翼の思想的立場を国民標準に据えてきた。だが、今回、靖国参拝を不当視するのは、中国と韓国だけではなく世界中で、国際社会全体が一致してそれに反対だという事実が突きつけられている。最早、「反対しているのは中韓だけ」という右翼の論法は通用しない。本来、この問題は外交問題ではないのだ。われわれ自身の問題であり、深刻な国内問題であり、戦争と平和と憲法に関わる問題なのだ。「中韓が批判するから」、「外交に支障が出るから」、靖国参拝が問題なのではない。履き違えられた問題認識は、小泉純一郎以降、10年以上にわたってこの国の人間を騙してきた。
日本のマスコミ報道は、米国の立場と発想が基準である。論壇も学界もそうだ。2000年代以降、米国は日本の政治と言論の世界への支配を強め、自在にコントロールして日米同盟真理教を刷り込んできた。米国が絶対的な存在で、米国の言うことは全て正しく、日本は米国の指示に従った政策を採ることが当然の空気になった。マインドコントロールが定着し、普天間問題にせよ、TPPにせよ、金融緩和にせよ、集団的自衛権にせよ、何から何まで米国のご託宣に従い、要求に従い、盲目的に追従する国と国民性になった。米国の息のかかった、CIAの要員と思われる者が、マスコミの言論世界を跳梁闊歩し、米国の国益を日本の国益だと説明し、日本人を観念倒錯させ、不利益を利益だと言いくるめ、騙して納得させて行った。米国の意向と発言は、この国では常に絶対的な真理でなければならない。となれば、米国は、今回の靖国批判について、その主張が正当であると日本国民に納得させなければならない。米国と右翼との間で生じたイデオロギーの齟齬について、それを埋め、破綻を繕い、米国の正当性を確実にする努力をしなければならない。すなわち、日本のマスコミの世論調査で、靖国参拝に反対が70%で賛成が少数という、そういう現実を作り出さなくてはいけない。日本人の現在の意識を改造する必要がある。それは、右傾化への批判ということになり、安倍晋三の相対化であり、右翼論者のマスコミへの登場機会の減少ということになるだろう。そうした方向に進むことを期待したい。
今日(12/27)の新聞記事を見ると、朝日も、毎日も、靖国参拝について正論での批判が掲載されている。最近のマスコミ報道では珍しいことだ。特にポイントと思われるのは、靖国参拝が憲法が禁止している政教分離に違反する行為だとする指摘で、朝日の社説で論点として構成され、毎日でも記事が上がっている。2001年8月の小泉純一郎による参拝は、大問題になって国内と東アジアを激震させたが、これが訴訟となった裁判において、2004年に福岡地裁が、2005年には大阪高裁が違憲判決を出している。いずれも確定した。司法がこうした判断を出しているにもかかわらず、NHKなどマスコミはそれを無視、ここ数年、閣僚の靖国参拝を当然のこととして報道した。朝日も、毎日も、麻生太郎(副首相)の参拝のとき、あるいは終戦の日の閣僚参拝をめぐる報道で、政教分離の視角からの批判を全くしていない。昨夜(12/26)、NHKニュースの中で野党の反応が紹介され、福島瑞穂が政教分離違反だと語った場面があったが、何とも迫力を欠いた弱々しい印象で、博物館の化石のような古い言説のイメージすら漂っていた。マスコミが口を閉ざし、福島瑞穂しか正論を言う者がいなくなったから、靖国参拝が政教分離に抵触する違憲行為ではなくなっているのだ。正論が異端となり、議論を封印されているのである。ようやく、米国による批判の援護射撃を得て、マスコミが正論に目を向け、靖国参拝を批判する根拠として表に出した。靖国参拝の問題は、断じて中韓との外交問題ではない。平和と憲法の国内問題だ。
天皇陛下が12/23の会見で言っていた、戦争と平和と民主主義の問題だ。
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