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安倍晋三首相は、先の大戦における日本の戦争責任をあいまいにしたいのか。首相が政権発足1年を迎えた26日、東京・九段北の靖国神社を参拝したことは、首相の歴史認識についての疑念を改めて国内外に抱かせるものだ。外交的な悪影響は計り知れない。中国、韓国との関係改善はさらに遠のき、米国の信頼も失う。参拝は誤った判断だ。
「二度と再び戦争の惨禍によって人々が苦しむことのない時代をつくる不戦の誓いをした」。安倍首相は、現職首相として2006年の小泉純一郎首相以来7年ぶりに靖国参拝した理由を説明した。本殿に加え、氏名不詳の国内外の戦没者をまつっているとされる鎮霊社も参拝した。
◇侵略を否定するのか
私たちは、国の指導者が戦没者を追悼するのは本来は自然な行為であり、誰もがわだかまりなく戦没者を追悼できるような解決策を見いだすべきだと主張してきた。しかし靖国は首相が戦没者を追悼する場としてふさわしくない。先の大戦の指導者たちがまつられているからだ。
靖国神社は、第二次世界大戦の終戦から33年たった1978年、極東国際軍事裁判(東京裁判)で侵略戦争を指導した「平和に対する罪」で有罪になったA級戦犯を、他の戦没者とあわせてまつった。合祀(ごうし)の背景には、東京裁判の正当性やアジアへの侵略戦争という歴史認識に否定的な歴史観がある。
戦後日本は、52年に発効したサンフランシスコ講和条約で東京裁判を受け入れ、国際社会に復帰した。それなのに、こうした背景を持つ靖国に首相が参拝すれば、日本は歴史を反省せず、歴史の修正を試み、米国中心に築かれた戦後の国際秩序に挑戦していると受け取られかねない。
昭和天皇が靖国を参拝しなくなったのは、A級戦犯の合祀に不快感を持っていたからとされる。それを示す富田朝彦元宮内庁長官のメモが明らかになっている。
首相は参拝は戦犯崇拝ではないと釈明している。だが首相の歴史認識には、靖国の歴史観に通じる東京裁判への疑念や侵略を否定したい心情があるとみられる。首相は国会で、大戦について「侵略の定義は定まっていない」と侵略を否定したと受け取られかねない発言をした。東京裁判についても「連合国側の勝者の断罪」と語った。
首相自身に歴史修正の意図はなかったとしても、問題は国内外からどう見られるかだ。それに無頓着であっていいはずがない。
米国のオバマ政権はこれまで安倍政権の右傾化に懸念を持ち、靖国参拝しないようけん制してきた。ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が10月に来日した際、靖国でなく、無名戦士らの遺骨を納めた東京都千代田区の千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れたのもその一環とみる向きが多い。
このタイミングで首相が靖国参拝したのは、沖縄県の米軍普天間飛行場の移設など、同盟強化の安全保障政策に見通しが立ち始めたため、参拝しても日米関係への悪影響を最小限にとどめられると判断したのではないかともみられている。
だが甘い見立ては早くも崩れつつある。東京の米国大使館は「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに、米政府は失望している」と同盟国としては極めて厳しい声明を発表した。
◇米国の信頼を失う
米国は中国と対立しながらも、中国との新しい関係を模索している。日本外務省が先に発表した世論調査では、米国民にアジアで最も重要なパートナーを聞いたところ、中国が1位で、日本は2位に転落した。
首相は、いったい米国との信頼関係をどう再構築するつもりなのか。
中国、韓国との関係改善については、首相は「対話のドアはオープンだ」という。しかし、ドアの前に靖国参拝という障害物を自ら作り、東アジア地域のビジョンは示さない。それでドアを開けない相手が悪いと言わんばかりではないか。
沖縄県・尖閣諸島周辺の海や空では、不測の事態が起きる危険性が高まっている。中国が東シナ海に防空識別圏を設定したことで、危険度はさらに増した。危機回避のメカニズムを早急に作るべきなのに、話し合いはできそうにない。
首相は来春以降、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認を目指すとみられる。しかし、大戦の歴史認識を疑われるような行動をとっているようでは、国民や関係各国の理解は得られないだろう。
戦没者の追悼のあり方をめぐって割れる国内世論にも悪影響を与えかねない。過去にA級戦犯の分祀や無宗教の国立追悼施設の建設が検討されてきたが、首相は議論を封じたまま、国内でも異論のある靖国参拝に踏み切った。賛成、反対両派の溝は深まりそうだ。
首相は前回の首相在任中に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と語ってきた。参拝は、そうした個人の政治信条を、国益よりも優先した結果にみえる。首相は自ら靖国を外交問題化し、日本を国際社会で孤立させ、国益を損ないかねない誤った道を歩み始めたのではないか。そんな危惧を抱かざるを得ない。
http://mainichi.jp/opinion/news/20131227k0000m070122000c.html
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