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米国の国際政治雑誌フォーリンポリシーのブログに、オバマ政権と米国防総省の高官たちが、中国による東シナ海への防空識別圏の設定を、容認する姿勢を見せ始めたとする記事が載った。中国の識別圏設定に関して米国として容認できない点は、識別圏を設定したこと自体でなく、識別圏設定のやり方であると、高官らが言っている。識別圏に入ってくる外国の飛行機の中には、中国の領空に入らず、中国大陸に並行するコースで公海上を飛んでいくだけのものも多く、並行して飛ぶだけなら中国にとって何の脅威もない。それなのに中国政府は、識別圏に入ってくる外国の飛行機のすべてに、飛行計画の提出を求めている。こうした識別圏の設定方法が問題だと、米高官たちが言っている。
(Team Obama Changes Course, Appears to Accept China Air Defense Zone)
米高官らは中国に対し、できれば識別圏設定を撤回してほしいが、それは長期的に中国と交渉するとして、中国が、並行コースを飛ぶ飛行機を識別圏設定の対象から外す改善をしたり、日本との緊張を解く外交努力をするなら、とりあえず中国の識別圏そのものは一時的に認めるという新しい姿勢をとり始めている。米国が中国の識別圏設定を認めてしまうことは、日米が組んで中国に識別圏を撤回させようとすることで日米同盟を強化できる(中国は拒否するだろうから対立は長引き、ますます日米同盟が強まる)と考えてきた日本にとって失望になる。
問題の発言は、12月4日に米国防総省でヘーゲル国防長官とデンプシー統合参謀本部議長が行った記者会見で発せられた。国防総省が発表した記者会見録によると、記者が「中国は識別圏設定を撤回すべきだと考えるか」などと質問したのに対し、ヘーゲルは「識別圏自体は、新規なことでなく、特別なことでもない。最大の問題は、今回の措置が、非常に一方的に、関係諸国との事前協議なしに行われたことだ」とこたえた。デンプシーは「国際規範では、識別圏内に入る飛行機のうち、その先の領空に入る予定のものだけが、設定国に事前報告すればよい。それなのに中国は、識別圏に入ってくるすべてに対し、報告を求めている。この点が問題だ」と述べた。
(Department of Defense Press Briefing by Secretary Hagel and General Dempsey in the Pentagon Briefing Room)
米国はこれまでも、訓練と称して米軍機をあえて新設の識別圏に突入させ、中国の識別圏設定に絶対反対の態度を示した数日後、米国の航空会社に対し、中国の識別圏設定にしたがって飛行計画を出すことを求めるなど、強硬姿勢と宥和姿勢の間を行ったりきたりして態度が定まらない。「中国の識別圏設定に対する米政府の態度は日によって変わる」と揶揄されている。
(Obama admin. signals U.S. will accept China's Air Defense Zone)
(従属のための自立)
12月3日に来日したバイデン副大統領は、東京で、中国による識別圏の設定が、東アジアの緊張を高める動きであるとして懸念を表明した。しかし、日本側が望んでいた、日米で中国に識別圏設定の撤回を迫るところまで行かず、日米は懸念と不容認の態度を表明するだけで終わった。バイデンは、東京の後に訪問した北京で習近平主席と5時間も会談し、識別圏の話も出たとされるが、記者会見では識別圏の件を何も言わなかった(東京での安倍バイデン会談は1時間半だった)。バイデンは習近平に対し、識別圏の設定を撤回させようとするのでなく、日本との敵対を緩和する対話の仕組みを作るよう求める姿勢をとった。バイデンの言動からも、米国が、中国の識別圏設定自体を問題にしているのでないことがうかがえる。
(China gives no ground to Biden in air zone dispute)
バイデンが習近平に、日本との対話強化を要請した後の12月7日、安倍首相が、習近平に会談を呼びかけた。安倍は就任後、まだ習近平と会談していない。これまで中国を許さない態度をとってきた安倍が、急に習近平と会いたがるのは奇妙だ。安倍が本気で習近平と会談する気があるのか不明だが、バイデンが習近平に「日本との緊張を高めるな」と求めたら、習近平は「緊張を高めているのは日本の方だ。日本にも緊張緩和せよと言ってくれ」と切り返し、それを受けて米国側が安倍に「習近平と会うぐらいしたらどうか」と言ったのかもしれない。安倍の動きからも、米国が、日本と組んで中国と敵対する姿勢をやめて、中国に譲歩するとともに、日本をなだめに入っていることが見え隠れしている。
(Japan's Abe seeks summit with China's XI)
11月23日に中国が防空識別圏を設定した直後は、米国が日本を誘って中国との敵対を強め、日米対中国の戦争が近いと感じられる緊張状態だったが、結局のところ、米国は日本の中国敵視策を煽っておいて、日本がその気になり、国会が中国非難を決議した後になって、米国は、中国の識別圏設定を容認する譲歩をめだたないように開始し、日本が米国にはしごを外される懸念が強まっている。米国は今後、再び中国敵視を強めるかもしれないが、その場合、さらに後でまた中国に譲歩することが繰り返されるだろう。米国が中国に対して強い姿勢をとり続けられないことが判明するほど、中国は、真綿で首を絞めるように、隠然と長期的に、貿易・経済面などで日本に報復するだろう。イラン敵視策で米国にはしごを外されたイスラエルを見るまでもなく、同盟国にとって米国は、あてにできない国になっている。こうした状況について、日本国内でほとんど指摘する人がいないのもまずい。
(頼れなくなる米国との同盟)
日本はかつて国際政治上、米国と並んで、英国を模範としてきた。国際協調主義をとりつつ自国に好都合な世界体制を維持する英国の世界戦略は、過激でむら気があり不可解な米国の戦略より、日本にとってなじみがある。日本は「対米従属」でなく「対英従属」だったといってもいいぐらいだ。しかし今や、中国との関係において、英国は、日本とまったく逆の方向に進んでいる。英国のキャメロン首相は12月初め、百人以上の英財界人を引き連れて中国を訪問した。キャメロンは、中国との貿易や、ロンドンを対中投資の世界最大のオフショア市場にしたい金融分野など、経済での中国との関係強化を重視するあまり、中国がいやがる防空識別圏やチベット、人権問題などの話を、首脳会談や記者会見の席でまったく出さなかった。
(A painful lesson in how not to deal with China)
英国は、キャメロン自身がつい2年ほど前まで、あえてダライラマと面会して中国を怒らせるなど、積極的な中国敵視策ととり、米英同盟を最重視してきた。だが、米国の金融システムがリーマン危機後延命するだけで蘇生せず、いずれ米国覇権を崩壊させる金融危機再発が不可避と予測されるうえ、中国などBRICSが台頭して多極化が不可逆的に進んでいる。英国は財政破綻のふちにあり、経済難と貧富格差拡大が続き、英国民の4分の1が食糧難の貧困状態にある。キャメロンは中国政策を大転換し、中国との経済関係を強化して英経済を救う動きを開始している。国内の原子力発電所の建設を中国に発注し、中国の国際的な原発売り込みの宣伝役を買って出る半面、人権問題などで中国を困らせるのをきっぱりやめて、米国の右派に揶揄されている。
(Quarter of UK adults in food poverty)
英国は、米国が敵視をやめたイランにも接近し、外交関係を復活する半面、米国からはしごを外されてイラン敵視をやめられないイスラエルに対し、パレスチナ問題での非難を強め、容赦なく水に落ちた犬を打っている。英国はずるい国だが、国際政治の先読みをして機先を制するのが得意だ。日本が、中国にすり寄る英国を批判しつつ、中国敵視を続けていると、いずれ米国からはしごを外され、英国の後塵を拝するかたちで、日本自身が中国にすり寄らねばならなくなるかもしれない。中国は、すり寄ってくる者に対して傲慢に振る舞うので、中国に媚を売るのは良くない。しかし同時に、米国からはしごを外されて中国に負ける可能性が高いのに、中国との敵対を加速する今の日本も、ばかげたことをやっている。日本はできるだけ早く、自国の尊厳を維持できるかたちで、中国と和解していくべきだ。
米国にはしごを外されそうな日本 田中宇の国際ニュース解説
http://www.tanakanews.com/131209japan.htm
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