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秘密保護法の報道で“強行採決”と言わない日本テレビ 「みなさま」より「安倍さま」重視のNHK
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizushimahiroaki/20131208-00030456/
2013年12月8日 1時52分 水島宏明 | 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
■秘密保護法の成立に”手を貸した”マスコミ
「報道の自由」を奪い、「国民の知る権利」を事実上、大きく制限する天下の悪法、特定秘密保護法がついに成立した。国民の間で懸念が広がり、連日、国会周辺で反対する声が鳴り響くなかでの国会での可決だったが、法律が誕生した背景として、マスコミ報道が手を貸した側面は否定できない。積極的ではないにせよ、少なくとも消極的な形で。犯罪にたとえるならば”未必の故意”として。
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たとえば、11月26日に衆議院の国家安全保障特別委員会で、12月5日には参議院の同委員会で行われた”強行採決”。
それをマスコミはどう伝えただろうか。たとえば参議院の委員会は映像を見ても、話し合いの途中で、突然、1人の自民党議員が立ち上がり、それに続いて他の与党議員も立ち上がって、怒号のなかで一気に採決が行われ可決された。「強行採決」としか形容のしようがない事態だ。ところがこれについては日本テレビがニュースのタイトルやナレーションに「強行」という表現をいっさい使わなかったことが目を引いた。やはり同じグループの読売新聞が「強行採決」という言葉を使わなかったことに従ったのだろうか。
テレビの民放各局のニュース番組を見てみると、テレビ朝日、TBS、フジテレビは字幕やナレーション、読み原稿で「強行採決」という言葉を使用している。
ところが日本テレビだけがこの言葉を使用していない。日テレは「衆院を通過」「衆院で可決」などの字幕を使って報道し、あたかもごく正常な形で採決が行われたように印象づけた。実際のところ、国会運営のあり方としては異常な形で採決が行われたことを国民に知らせようとしなかった。
■腰が引けていたNHK
公共放送であるNHKも日本テレビ同様だ。「強行採決」という言葉をタイトルなどに使っていない。だが、内容は日本テレビよりもさらにひどい。10月下旬に特定秘密保護法案の国会への提出が決まって以降、NHKはこの問題を「政治部ニュース」としてしか扱わなかった。この問題が個々の市民にとってどんな影響がありうるのか、という解説はいっさい行わない。調査報道にどのような影響がありうるのかも詳しく報じない。ニュースでは各政党や団体の動きを伝えるだけ。通常は様々なテーマについて実施する記者によるニュース解説もごくわずかしか行わなかった。
12月4日、参議院国家安全保障特別委員会で行われた特定秘密保護法案をめぐる党首討論。テレビ朝日の『報道ステーション』はトップニュースでこの模様を扱い、安倍首相がこの日になって初めて情報保全監視委員会などの組織名を明らかにしたという付け焼刃ぶりを報道した。この後で海江田・民主党代表による質問と安倍首相の答弁を長い時間をかけて放送。とりわけ、特定秘密の指定が適切かどうかのチェックをする機関を官僚が担う点を「官僚による官僚のための機関だ」とする海江田代表の追及に対して、防戦に回った安倍首相の説得性に乏しい答弁が目立った。
同じ日のNHKの『ニュースウォッチ9』はどうだったか。トップニュースは北朝鮮の権力中枢での粛清の話で、権力の不安定化によって安全保障面で不安が広がるとして、北朝鮮によるサイバー攻撃を特集した。元担当者の話として「日本もサイバー攻撃の対象」だとする内容。次のニュース項目がバイデン米副大統領による訪中で、中国による「防空識別圏」の問題。このように2つ続けて、近隣諸国との軍事的緊張の話だった。特定秘密保護法を早く成立させてアメリカと軍事的な情報を共有する必要がある、と暗に強調する並びだ。
その後で、やっと特定秘密保護法案の国会審議のニュースになった。『報ステ』ほど安倍首相や海江田代表の質疑のやりとりに長く時間を割いていないので、『報ステ』で印象づけられた安倍首相の緊張や苦しい答弁という印象は薄れていた。
■”強行”とは言わないテレビ
翌12月5日、参議院の特別委員会で「強行採決」が行われた。テレ朝『報ステ』は、強行採決の瞬間の与党議員の動き(採決の動議を訴えて起立した議員。議長席の近くで手振りで与党議員に起立を求める議員。起立する与党議員たちなど)を詳しく映像で見せた他、社民党の福島瑞穂副党首と森まさこ秘密保護担当相との質疑を詳しく見せた。どういう場合に教唆に当たるのか、政府側の定義の不明朗さが浮き上がるやりとりといえた。
NHK『ニュースウォッチ9』はここの部分がすっぽり抜けていた。そればかりか、タイトルの字幕で『報ステ』のように「強行採決」という言葉を避けていた。ナレーションも同様で、強行採決したとは言わず、可決した、という表現にとどめていた。
福島第一原発の問題などでは、スタジオ解説で真っ先に出てくる「解説委員」などの記者が、特定秘密保護法案に関して登場しなかった。やっと登場したと思ったら、事実上、成立が決まった後のことだった。解説委員が専門的なテーマを解説する番組『時論公論』で、特定秘密保護法を取り上げたのも、参議院の特別委員会で強行採決が行われ、法の成立はもはや時間の問題となった段階だった。専門記者によるニュース解説の仕事は、視聴者が羅針盤を求めている時に一番良いタイミングで行うのが最大の役割のはずだ。大勢が決した後で、制度の解説をするのが仕事ではないだろう。
特定秘密保護法案をめぐっては、NHKは大事な場面での国会中継を放送していない。意識的に外したと思えるほど、いろいろな面での「配慮」が働いたと考えざるえない。
NHKには経営委員として、「安倍首相のお友だち」が次々と送り込まれた。来年1月24日に任期満了となる会長人事でも「お友だち」が就任するのは確実とみられている。
NHKの内部では、報道局を中心に「次の会長」に配慮した放送が先取りするように実施されている。特定秘密保護法案をめぐる一連の不自然な報道も、近々やってくる「首相のお友だち」に配慮したものだろう。
こうなってしまっては「みなさまのNHK」という看板はもう捨てた方が良い。
こちらの方が似合っている。
「安倍さまのNHK」。
水島宏明
法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロン ドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレク ターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ 親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。
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