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12月2日(ブルームバーグ):安倍晋三首相は中国の習近平国家主席に感謝すべきかもしれない。
習国家主席は論議を醸す防空識別圏を設定することで、物事のすり替えを図っているとの見方が日本のネット上で飛び交っている。中国の動きは日米との緊張を 劇的に高めた。同国家主席が国際社会を騒がせているのは、中国の国民の関心を所得の不平等や官僚の汚職、大気汚染といった国内問題からそらすためだろうと いうのが最も有力な説だ。
しかし、この騒ぎから最も恩恵を得ているのは安倍首相かもしれない。中国の一方的な防空識別圏設定が日本国民を怒らせたので、首相には特定秘密保護法案の早期議会通過のチャンスが巡ってきた。
この一連の動きを見ると、ジョージ・オーウェルの未来小説を思い出す。法成立となれば、政府省庁は何でも特定秘密に指定できる。国家の秘密に詳しい人物か ら情報を探ろうとしても違法行為になりそうだ。つまり、官僚と酒を飲んだ際にまずい質問をしてしまったら、手が後ろに回るのかもしれない。
石破茂自民党幹事長は先週、私のように法案を問題視するような人物に警告を発した。ブログで、法案への反対運動は「テロ行為と変わらない」と記載したのだ。
福島の声
これがシリアやキューバなら、曖昧に書かれた法によって記者や内部告発者が簡単に長期の刑務所送りになっても驚かないだろう。しかし、日本は先進7カ国の民主国家ではなかったか。国際的なジャーナリスト組織である国境なき記者団は 11月27日、法案が通ってしまったら「福島の原子力発電所事故の惨禍に激怒した国民から強まる透明性を求める声に政府はどのように応えるのだろうか」と 問い掛けた。さらに、日本政府がしようとしていることは「調査報道を違法とするものであり、記者の情報源を特定しないことや国民の利益という基本的な原則 を踏みにじっている」とも論じた。
ジャーナリストのジェイク・アデルスタイン氏も11月30日にジャパン・タイムズ紙に「日が沈む国へようこそ。どれだけ暗くなるのだろうか」と寄稿した。 同氏も指摘するようにこの法案は、政府に従わない個人を逮捕・投獄する裁量が政府に幅広く与えられた戦前の治安維持法と似ている。
日本の報道の自由度ランキングは既に急落している。世界179の国・地域の中で、日本は2013年は前年から31ランク下げて過去最低の53位。南アフリカ共和国やコモロ連合さえ下回っている。順位低下の元凶は福島での放射能リスクに関する報道のぜい弱さだったが、メディアの自己検閲が増せば、状況が悪化するのは目に見えている。
規制緩和は放置
不可思議であり、日本国民が大いに懸念すべきだと思うのは、この法案を安倍首相が緊急に通そうとしている点だ。首相は就任から1年弱の間に構造改革の一つ も実行していない。一つもだ。がんじがらめの経済を作り直し、規制緩和していく重要な措置を講じていない。それなのに、この秘密保護法案は即刻可決されな くてはいけない雰囲気だ。このエネルギーの10分の1でも首相が税制改正や女性の活用に使ってくれたらどんなにいいことだろう。
同志社大学法科大学院のコリン・ジョーンズ教授も法案について、「選挙の際にほとんど言及されなかったのに、なぜここまで急ぐのか謎だ」と語る。
同法案は11月27日に成立した日本版NSC(国家安全保障会議)と歩調を合わせている。米中央情報局(CIA)元職員エドワード・スノーデン容疑者によ る情報監視活動の暴露以降、米政府は機密情報の共有にこれまでないほどピリピリしている。だから日本が世界的にこうした情報を共有し続けていく上で、特定 秘密保護法は必要なのだと賛成派は訴える。しかし、安倍首相が握りたい権力は行き過ぎだ。
日本国民はデフレを退治し、中国に立ち向かう安倍首相を支持するが、秘密保護法に関してはそうではない。朝日新聞の最新の世論調査によると、安倍内閣の支 持率は50%を下回った。首相は12月6日までに法成立に持ち込みたがっているが、それをストップできるかどうかはテロリスト、おっと失礼、不安を感じる 国民が声を上げるかどうかにかかっている。(ウィリアム・ペセック)
【コラム】私もテロリストと呼ばれるのか−W・ペセック
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MX70FH6JIJVG01.html
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