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自らの歴史を書けない国に成り下がる日本
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★「田中良紹氏の視点ー(2013/12/02)」★ :本音言いまっせー
国会の会期末まで一週間を切った。特定秘密保護法案の採決まであとわずかである。国会審議を見る限り、修正協議で合意したはずのみんなの党所属議員が答弁に納得できない様子を見せている。
法案の中身はいよいよ良く分からない。良く分からないまま法案が成立すれば、日本は自らの歴史を自らの手で書く事の出来ない国になる。歴史認識で他国から批判されても立ち打ちする事など出来ない。アメリカと真偽不明の情報を共有するために、この国は自らの歴史を持たない国に成り下がる。
フーテンはかつてロッキード事件を取材した。右翼民族派の領袖である児玉誉士夫がロッキード社の秘密代理人である事をアメリカ議会が暴露したところから事件は始まった。なぜ愛国団体のリーダーがアメリカ軍需産業の手先なのか。素朴な疑問から取材は始まった。
ところが取材をしても占領下の日本がどのような仕組みで運営されていたのか良くわからない。歴史の教科書などで教えられてきたことは日本の一面に過ぎず、日本の歴史には「裏」がある事が分かってきた。
フーテンは戦時中に上海を舞台に活動した児玉機関の関係者や占領下の日本で謀略活動を行ったアメリカの「キャノン機関」関係者を訪ね歩き、戦後日本の成り立ちを調べていったが闇は深まるばかりだった。そのうち事件のターゲットが田中角栄元総理に向かうようになる。児玉から始まった事件なのに児玉は忘れ去られていった。
歴史の発掘作業は途中で打ち切られ、国際的な「反共ネットワーク」を切り捨てようとしたアメリカの思惑とは裏腹に、事件は御用評論家やメディアによって「政治とカネ」の問題にすり替えられた。
こうして国民は自らの国の歴史を正視する機会を失った。ところがそれから数年後にアメリカでCIAの関係資料が情報公開され、児玉誉士夫がCIAの協力者であった事実が明らかにされた。フーテンはアメリカの情報公開によって闇の一部に光が当たり、日本の戦後史の輪郭がようやく見え始めたと思った。
しかし国民はいまだにロッキード事件を「政治とカネ」の事件、田中角栄の事件だと思い込まされている。菅直人元総理や野田佳彦前総理が、「ロッキード事件を見て政治を正そうと思い政治家を志した」と言うのを聞くと、まったくの見当違いをいまだに信じ込んでいる政治家が存在する事の馬鹿馬鹿しさを感じてしまう。
アメリカの情報公開によってついでに読売新聞社と日本テレビの経営者として日本のメディア界に君臨した正力松太郎や朝日新聞の主筆から政界入りし吉田内閣で副総理を務めた緒方竹虎もCIAの暗号名を持つ協力者であった事が判明した。日本のメディア界にもそうした「裏」があるのである。そうした事を歴史に書き込んでいかなければ日本は針路を誤ることになる。
日露戦争は日本が日本海海戦に勝利したところでアメリカが仲裁に入りポーツマス条約が結ばれた。戦争が長引けば日本の敗戦は必至だったが、アメリカは最大の脅威であるロシアの防波堤に日本を利用する事を考えて停戦を求めた。ロシアは日本に負けたとは思わないから賠償金の支払いに応じない。賠償金の代わりに日本が得たのは南満州鉄道と樺太の半分だった。
しかし国民は「大勝利」を信じ込まされ、歴史の事実を見ずに、西欧列強と肩を並べたと喜んだ。日本海海戦の勝利が時代遅れの「大艦巨砲主義」を生み、南満州鉄道を守備するために関東軍が誕生して、日本は敗戦への道を歩み出すのである。「日露戦争は勝利していない」と主張した石原莞爾らは軍の主流になれず、都合の悪い歴史を隠蔽する姿勢が日本の運命を誤らせた。
フーテンはロッキード事件によってこの国の隠蔽体質を実感したが、それ以前にも沖縄返還の密約問題では返還交渉の密使だった故若泉敬氏や西山太吉毎日新聞記者の告発が無視され続けてきた。言ってみれば日本の歴史には書かれざる部分が満載なのである。
そして2001年に情報公開法が制定されると、その直前に日本の官僚は保有していた情報を大量処分した。情報公開法では作成から30年以上を経た行政文書は各役所が延長して保管するか、国立公文書館に移管するか、廃棄するかの三つの選択肢があるが、日本の官僚機構はほとんどを廃棄した。
廃棄されてしまえば何が廃棄されたのかも分からないが、日本の歴史を書くために重要な文書が役所にとって都合の悪いものであれば、廃棄された可能性もある。このような体質を持つ日本がアメリカとの情報共有を理由に「特定秘密」を作り、アメリカとは異なる運営をしようとしているのであるから根本がおかしい。
異なる点は多々あるが、一つだけ例を挙げれば公文書を保管する国立公文書館の職員数が日本ではわずか42人である。アメリカは2500人で桁が二つ違う。ちなみに中国は560人、韓国は300人で、ベトナムでも270人である。いかに記録文書を残す事に力を入れていないかが分かるだろう。そんな国が偉そうに「歴史認識」などと言う資格はないのである。
日本人はまともな歴史教育を受けていない事を噛みしめるところからこの問題を考えるべきではないか。
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