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数の力におごった権力の暴走としかいいようがない。
民主主義や基本的人権に対する安倍政権の姿勢に、重大な疑問符がつく事態である。
特定秘密保護法案が、きのうの衆院本会議で可決された。
報道機関に限らず、法律家、憲法や歴史の研究者、多くの市民団体がその危うさを指摘している。法案の内容が広く知られるにつれ反対の世論が強まるなかでのことだ。
ましてや、おとといの福島市での公聴会で意見を述べた7人全員から、反対の訴えを聞いたばかりではないか。
そんな民意をあっさりと踏みにじり、慎重審議を求める野党の声もかえりみない驚くべき採決強行である。
繰り返し指摘してきたように、この法案の問題の本質は、何が秘密に指定されているのかがわからないという「秘密についての秘密」にある。これによって秘密の範囲が知らぬ間に広がっていく。
■温存される情報の闇
大量の秘密の指定は、実質的に官僚の裁量に委ねられる。それが妥当であるのか、いつまで秘密にしておくべきなのかを、中立の立場から絶え間なく監視し、是正を求める権限をもった機関はつくられそうにない。
いま秘密にするのなら、なおのこと将来の公開を約束するのが主権者である国民への当然の義務だ。それなのに、60年たっても秘密のままにしておいたり、秘密のまま廃棄できたりする抜け穴ばかりが目立つ。
こうして「情報の闇」が官僚機構の奥深くに温存される。
「これはおかしい」と思う公務員の告発や、闇に迫ろうとする記者や市民の前には、厳罰の壁が立ちはだかる。
本来、政府が情報をコントロールする権力と国民の知る権利には、適正なバランスが保たれている必要がある。
ただでさえ情報公開制度が未成熟なまま、この法案だけを成立させることは、政府の力を一方的に強めることになる。
■まずは国家ありき
「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」という文書がある。
この6月、南アフリカのツワネでまとめられた。国連や米州機構、欧州安全保障協力機構を含む約70カ国の安全保障や人権の専門家500人以上が、2年にわたって討議した成果だ。
テロ対策などを理由に秘密保護法制をととのえる国が増えるなか、情報制限の指針を示す狙いがある。
国家は安全保障に関する情報の公開を制限できると認めたうえで、秘密指定には期限を明記する▽監視機関はすべての情報にアクセスする権利を持つ▽公務員でない者の罪は問わないなど、50項目にのぼる。
法案は、この「ツワネ原則」にことごとく反している。
安倍首相は国会で、欧米並みの秘密保護法の必要性を強調したが、この原則については「私的機関が発表したもので、国際原則としてオーソライズされていない」と片づけた。
これだけではない。国会での政府・与党側の発言を聞くと、「国家ありき」の思想がいたるところに顔を出す。
町村信孝元外相はこう言った。「知る権利は担保したが、個人の生存や国家の存立が担保できないというのは、全く逆転した議論ではないか」
この発言は、国民に対する恫喝(どうかつ)に等しい。国の安全が重要なのは間違いないが、知る権利の基盤があってこそ民主主義が成り立つことへの理解が、全く欠けている。
■世界の潮流に逆行
一連の審議は、法案が定める仕組みが、実務的にも無理があることを浮き彫りにした。
いま、政府の内規で指定されている外交・安全保障上の「特別管理秘密」は42万件ある。特定秘密はこれより限られるというが、数十万単位になるのは間違いない。
これだけの数を首相や閣僚がチェックするというのか。
与党と日本維新の会、みんなの党の修正案には、秘密指定の基準を検証、監察する機関を置く検討が付則に盛り込まれた。
首相はきのうの国会答弁で第三者機関に触れはしたが、実現する保証は全くない。
有識者会議の形で指定の基準を検証するだけでは、恣意(しい)的な指定への歯止めにはならない。役所が都合の悪い情報を隠そうとする「便乗指定」の懸念は残ったままだ。
独立した機関をつくるならば、膨大な秘密をチェックするのに十分な人員と、指定解除を要求できる権限は不可欠だ。
この法案で政府がやろうとしていることは、秘密の保全と公開についての国際的潮流や、憲法に保障された権利の尊重など、本来あるべき姿とは正反対の方を向いている。
論戦の舞台は、参院に移る。決して成立させてはならない法案である。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_gnavi
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