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2013年11月27日
国民の目と耳をふさぎ、主権者が国政の重要な情報を得る道を閉ざす「世紀の悪法」が、成立への階段を一つ上った。その審議は「強権国家化」を暗示する、国民不在の醜悪な展開を見せた。
国家機密を漏らした公務員や市民らに厳罰を科す特定秘密保護法案は、自民、公明の与党とみんなの党が賛成し、衆議院を通過した。それに先立つ特別委員会は、数の力に頼った強行採決だった。
報道関係者だけでなく、「知る権利」に携わる研究者、市民団体など、分野を超えて反対する国民が日ごとに増している。だが、危機感は国会に反映されない。
1度きりの公聴会
これほど重要な法案に対する国民の意見を聞く公聴会が1回しか開かれていない。国民に背を向けた為政者の姿を際立たせる。
米軍基地の重圧にあえぐ沖縄で、基地運用の情報は、住民生活を守る不可欠な情報である。その大半が入手できなくなる恐れが強い法案であるだけに、沖縄公聴会は最優先で開かれるべきだが、それもなされないままだ。
広く国民から意見を聞く公聴会もほとんど開かず、国会での審議も尽くそうとしない。官僚による恣意(しい)的な秘密指定を許し、指定期間が半永久的になるなど、法案の問題点はきりがないが、みんなの党や維新の会との修正協議を経ても全く改まっていない。
安倍首相は秘密指定の在り方を検証する第三者機関を設けるべきだと初めて発言したが、その担保も何もない。なぜ、首相と与党はこれほど危険な法案の性急な成立に走るのか。全く理解不能であり、成立は断じて容認できない。
国民の「知る権利」など、民主主義国家にとって欠かせない憲法にのっとった権利が確実に侵害される。問題点を全て洗い出し、徹底的に審議を尽くすのが国会の責務である。
会期末に近い今国会での成立をにらみ、強引に衆院を通過させたことは罪深い。法案が送られる参議院は、良識の府の存在意義をかけて熟議を重ね、廃案にすべきである。
25日に福島市で開かれた衆院特別委の公聴会では、与党側が推薦した人を含め、7人全員が法案への懸念や反対を唱え、慎重審議を求めた。このままの成立を望む声は皆無だった。
沖縄出身で、原発の保守管理会社を営む名嘉幸照さんは、原発内部で法に反した作業が実施される場合を挙げ、「告発者がいることは大事だ。命に関わる原発の安全性について、国民は知る権利がある」と訴えた。
原発と基地情報の封印
名嘉氏発言の「原発」は「米軍基地」にそのまま置き換えられる。生命の安全に直結する情報さえ、関係省庁の恣意的な秘密指定に縛られた公務員らが萎縮して封印されるだろう。
特定秘密を漏らしたり、暴いたりした者には、これまでの最高刑の10倍となる懲役10年の厳罰が科せられる。成立の先には軍事に偏重した、戦前回帰の「秘密国家」が像を結ぶ。恐ろしいことだ。
法案への重大な懸念は、著名人の見方にも端的に表れている。
俳優の菅原文太さんは「先の戦争の片りんが影絵のように透けて見える」と危ぶんだ。不幸な戦争の時代が連想されるのだ。
「悪魔のような法案。何が秘密かを時の権力者が秘密のうちに決められる。ジャーナリストとしても、市民としても恐怖です」。音楽評論家の湯川れい子さんの危機感は多くの国民が共有できよう。
法案に対し、国連人権高等弁務官事務所の2人の特別報告者が声明を出し、「内部告発者やジャーナリストを脅かす」として、重大な懸念と透明性確保を要請した。
国際基準に照らしても、「知る権利」を基盤にした国民の自由を奪いかねない法案は異様だ。巨大与党の暴走に歯止めをかけねば、子々孫々の時代まで重大な禍根を残しかねないと銘記すべきだ。
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