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小泉元首相の「原発即ゼロ」要請に安倍首相はどう答える?
http://diamond.jp/articles/-/44439
2013年11月14日 田中秀征 政権ウォッチ :ダイヤモンド・オンライン
小泉純一郎元首相は、11月12日に日本記者クラブで会見し、安倍晋三首相に「原発即時ゼロ」の方針を打ち出すよう強く迫った。
彼の記者会見は退任後初めてのこと。誰よりも彼自身が、もう記者会見は永久にしなくてよいと思っていただろう。
ところが、講演内容が大きく報道されるようになると、各メディアから取材依頼や出演依頼が殺到。ものぐさな彼は、いちいちそれに応じるのは面倒だし、公正、公平を欠くことになりかねないと思う。それなら1回だけ公平で公正な取材ができる機会をつくる他はない。それで今回の記者会見に至ったのだろう。私のこの推察は的はずれではあるまい。
■「即時ゼロ」「安倍首相への訴求」 記者会見で見せた新たな2つの展開
さて、今回の記者会見での話の内容は、当然のことながら、報道されてきたこれまでの講演内容と同じである。
違いをあえて指摘すると、原発ゼロの時期を「即時ゼロ」と明言したことと、標的をさらに明確に安倍晋三首相に絞ったことの2つが挙げられる。
「即ゼロ」の意向は記者の質問に答えたもの。だが返答は即座で断定的であった。
その理由は、「再稼働をするにしても、そんなに多くは再稼働できない」し、「核のごみも増えていく」し、「どうせ将来やめるんだったら今やめた方がいい」ということ。要するにいかなる再稼働にも反対ということだ。
「原発ゼロ」をめざして、原発依存を減らしていく方針だと、当面は安全性の高い原発の再稼働を容認することになるが、彼はその可能性さえきっぱり否定。従来よりもう一歩踏み込んだのだ。
また、今までは政府方針の転換を、自民党、政権、安倍首相に迫ってきたが、今回は、明確に安倍首相本人をにらみ、しかも、その判断力、決断力、洞察力など首相の資質そのものに迫っている。
首相は政治の師匠である小泉氏の言動に困惑しつつ、ここまで正面から挑まれると黙っているわけにはいかない。9日に放送されたBS朝日の番組で「いま原発ゼロと約束することは無責任」と述べた。だがこれでは全く説得力はない。誰でも「問題の先送り」が一番無責任だということを知っているからだ。
既に本欄で述べたが、安倍首相は利権政治とは縁遠く、それ故に、自分の判断で方針を転換できる立場にある。小泉元首相が安倍首相に期待するのは、それができる自由な立場を維持してきたと認めているからだろう。今回の会見でも「彼ならできる」「彼ならやってくれる」という確信が言外に滲み出ていた。
自民党の石破茂幹事長は、自民党や現政権が「原発依存度を下げていく。目指す方向は一致している」として小泉氏の言動を容認している。小泉氏に同調する彼の姿勢にも期待が集まるのは当然だ。石破氏だけでなく、多くの自民党議員も「できれば脱原発」を望んでいるだろう。小泉氏の言うように、脱原発へ舵を切ることはそんなに難しいことではないのだ。
■元首相である小泉氏だからこそ“標的”を安倍首相に絞った理由
今回の小泉発言は、日本の首相の権限の強大さを熟知している人の発言だから説得力がある。
実は、日本の首相は、単なる議院内閣制の首相ではない。その実質的な権限、権力は他国の首相や大統領も及ばないほど強大になり得るものだ。
日本の官僚組織は長年かかって、「首相の決断」によって重要事項が決まる仕組みを築いてきた。そして、その首相をできる限り包囲して孤立させ、彼らの意向によって決断させる装置を巧妙につくり上げてきたのである。
野田佳彦前首相は、それによって消費税増税、TPP交渉参加、原発事故収束宣言を決断させられた印象が強い。首相経験者のプライドは「決断させられた」という風評に耐えられないから、誰でも「自分が決断した」と言わざるを得ない。それもまた官僚組織にとっては願ってもないことなのである。
「首相1人を取り込めばよい」、それが霞ヶ関の常識で、首相1人を操れば官僚の意向が貫徹されるのだ。それほど日本の首相の裁量権は大きく権限が集中している。
その「首相決断のからくり」をよくよく知っている小泉氏だからこそ、首相の資質、判断と決断に狙いを定めて攻めているのだ。
それどころか、安倍首相をよく知る小泉氏は、彼なら将来の日本を見据えて決断することができると期待しているのだろう。
これから原発維持派も小泉進撃を放置できなくなるだろう。そうなれば、原子力ムラの権益を共有するような政治家が強く反発するようにならざるを得ない。それは逆に脱原発を支持する世論を一段と強めていくことになろう。
安倍首相の方針転換の決断は早ければ早いほどよい。小泉元首相が言う通り、「こんな運のいい首相はいない」とも言える。歴史はいまページを空けて首相の格別の業績を待っているのだ。
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