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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131108-00010000-fsight-pol
フォーサイト 11月8日(金)18時43分配信
経団連会長の米倉弘昌(76)と首相の安倍晋三(59)の不仲は昨年12月の自民党政権復帰前から指摘されていたが、関係は修復されるどころか、その後一段と悪化しているとの観測が絶えない。最近では、任期切れが来春に迫った「財界総理」が、参院選大勝と東京五輪決定で勢いづく首相にまったく相手にされなくなっている。日本放送協会(NHK)経営委員をはじめ、政府が関与する要職人事で経団連の影響力はゼロ。ポスト米倉の次期会長人事も「官邸に近い人が選ばれる可能性が高い」(経済団体幹部)との声がもっぱらだ。「財界トップの人事権を永田町に渡して良いのか」と嘆くのは、現役を退いたOBの元幹部ばかり。求心力の欠如したトップを抱えた経団連のメルトダウンは危機的なレベルにまで進行している。
■潰えた「財界復権」の仕組み
10月23日、経団連は政党への「政策評価」を4年ぶりに復活させ、その結果を発表した。「政策評価」は2代前の経団連会長、奥田碩(80)が2004年に加盟企業への政治献金斡旋を再開した際、重要政策についての各政党の取り組みをチェックし、貢献度や達成度をA−Eの5段階で評価することにしたもの。企業にとって政治献金は「政府与党に見返りを求めれば贈賄になり、見返りを求めなければ経営者として背任行為になる」というジレンマがつきまとう。要は、「政財界の癒着」「自民党べったりの体質」と批判の多かった企業献金を「社会貢献の一環」と客観的に説明するために編み出されたのがこの「政策評価」だった。
若干説明を加えると、これは事実上自民党への献金を説明するツールとして始めたものだったため、09年に民主党政権が誕生すると不都合な事態が生じた。例えば、08年の「政策評価」で自民党はA評価が10、B評価が15だったのに対し、民主党はA評価がゼロでB評価が5。この評価をもとに経団連の加盟企業は自民党に約27億円を献金した一方、民主党にはわずか約1億円の献金にとどまっていた。
09年当時、「政権交代があっても自民党支持の姿勢を変えず、従来通りの『政策評価』を続けるべき」との声が財界内には少なくなかったが、奥田の後任の経団連会長、御手洗冨士夫(78)は政府与党と事を構える覚悟がなかった。09年10月に急きょ正副会長会議を開いて5段階の「政策評価」を中止した御手洗は、その半年後の10年3月に「従来の『政策評価』の仕組みは硬直的で柔軟性に欠け、時代の変化に対応していなかった」と批判し、企業に対する一切の政治献金斡旋を再び取りやめると発表した。前任者の奥田が「カネも出すが口も出す」と財界復権を目指して再開した新方式の企業献金の仕組みは、スタートから5年と持たなかったのである。
■広がる官邸と経団連の「すき間」
経緯の説明が長くなったが、ここに来て経団連が「政策評価」を4年ぶりに復活させたのは自民党の政権復帰がきっかけであり、もちろん政治献金斡旋再開の地ならしとも見られている。
ところが、今回、経団連が発表した「政策評価」は5段階方式を採用せず、対象も政府与党に限定して、「円高を是正」「TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加」といった文言で実績を示しただけ。「他党との比較がなければ自民党への献金理由の説明に使えない」と、早くも加盟企業の間から戸惑いの声が上がっている。
冒頭に触れたように、安倍政権に冷遇されている米倉にとって献金再開は関係修復の格好の機会になるはずなのだが、米倉自身は「(政治献金は)企業の自主性に任せるべき」と相変わらず腰が重い。
「そのあたりが米倉さんの政治センスの無さであり、財界総理としての資質に欠けている部分」
と経団連の事情に詳しい大手商社幹部は解説する。
「政策評価」はアベノミクスについて、「経団連が主張する政策を積極的に推進しており、高く評価できる」と賛辞を送ってはいるものの、同日の記者会見で経団連の「政策評価」について質問を受けた官房長官の菅義偉(64)は、「政府としてコメントすべきではない」と無視する姿勢を貫き、官邸と経団連のすき間の大きさを印象づけた。
一方、経団連側は腰が重い会長の判断に従ってばかりはいられない。このところ加盟企業の間から「政治に物を申せないならば何のために経団連に加盟しているか分からない」(大手化学メーカー幹部)などと早々とレームダック化した米倉に対する不満が噴出しているのだ。
「政策評価」再開を発表した記者会見で経団連事務総長の中村芳夫(70)は、5段階方式や民主党など他党に評価対象を広げるかどうかについて、「これから議論していく」と含みを持たせた。多くの関係者がこの発言で「米倉退任後の献金斡旋再開にゴーサインが出た」と解釈した。
中村は1968年に慶応大大学院経済学研究科を修了し、経団連に入ったプロパー職員で、2010年から副会長を兼務している。いわば米倉体制を支える大番頭であり、その中村が次の会長を意識した方針転換(献金斡旋再開)を示唆せざるを得なかったところに、リーダー不在で機能不全に陥った経団連の病状の深刻さが垣間見える。
■なくても困らない「経団連マネー」
かつては首相のクビを飛ばすほどの権勢を誇った経団連が、なぜここまで落魄したのか。最も分かりやすい理由は、「カネの切れ目が縁の切れ目」ということかもしれない。
周知のように、1990年代前半に相次いだ金丸信元副総理の巨額脱税事件や一連のゼネコン汚職事件を受け、諸悪の根源は政治献金であるとの考えから、「政治とカネ」を巡る大改革が実行された。95年に施行された政党助成法によって、一定の要件を満たす政党には助成金が交付されるようになった。つまり血税で政治家を養う仕組みで、国民1人当たりの負担は250円、その総額は318億7083万円(2013年分)に達する。
議員数や選挙の得票率に応じて助成金は分配される。7月の参院選で大勝した自民党の13年の交付額は150億5858万円。先に触れたように、経団連が企業献金斡旋をしていた08年でも献金額は27億円だった。加えて、日本自動車工業会(11年度献金額6030万円)、日本鉄鋼連盟(4000万円)などの業界団体やトヨタ自動車(5140万円)、キヤノン(2500万円)、住友化学(2000万円)など、個別企業が経団連経由でない献金を続けている。
自民党にとって、かつては「死活問題」だった経団連マネーが今では「あれば有り難いが、なくてもさほど困らない」程度に格落ちしているのである。いくら高い内閣支持率を背景にしているとはいえ、安倍が「財界総理」と呼ばれる地位にある米倉の面子を潰す強硬姿勢に終始していられる理由はそこにある。
■タガが弛んだ「政府関与人事」
とはいえ、安倍が経団連という組織そのものを敵視しているという訳ではない。第1次政権(06年9月−07年9月)当時、経団連会長だった御手洗との関係は良好で、その後もゴルフ仲間として親しく付き合っている。おそらく、経団連会長在任中に安倍の「美しい国」に合わせて「希望の国、日本」というビジョンを発表し、国歌斉唱や国旗掲揚の必要性を唱えた御手洗のことは好きで、異次元の金融緩和を「無謀」と批判したり、対中韓外交で「あなたは愛国主義者だと警戒されている」などと苦言を呈した米倉のことが嫌いという、その程度のことなのだろう。
ただ、リーダーが同調者や仲間だけに囲まれる組織が暴走しがちなことは史実として枚挙に遑がなく、「お友だち内閣」と呼ばれた第1次安倍政権が大コケにコケたことも記憶に新しい。同じ過ちを繰り返さないように、第2次政権では閣僚や党3役人事で配慮した様子がうかがえるが、昨今の政府関与人事ではそのタガが弛んできているフシもある。
10月25日に衆参両院の議院運営委員会理事会に提示したNHK経営委員5人の人事案もその1つ。このうち新任は、作家の百田尚樹(57)、哲学者の長谷川三千子(67)、日本たばこ産業(JT)顧問の本田勝彦(71)、海陽中等教育学校校長の中島尚正(72)の4人。いずれも安倍の熱烈な支援者や近い関係にある人物だ。
■「影の財界総理」も
例えば、百田は『永遠の0』や『海賊とよばれた男』で知られる売れっ子小説家で、昨年来、月刊誌『WiLL』で安倍と3度も対談。民主党政権時代末期の昨年9月に「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の発起人に名を連ねた。
「戦後長らく左翼的な勢力が跋扈しているのが、新聞やテレビなどのメディアの世界、そして教育界です。(中略)第一次安倍内閣は『朝日新聞』をはじめとする新聞やテレビに過剰なまでにバッシングされ、短い期間で残した実績が国民に十分に伝わらないまま、退陣に追い込まれてしまいましたね」(月刊誌『Voice』2013年4月号。評論家渡部昇一との対談から)
作風そのままに「憂国の士」のイメージが強い。ただ、同志社大学在学中から朝日放送の恋人探しのバラエティ番組『ラブアタック!』の常連出演者として知られ、大学中退後はフリーの放送作家となって『探偵!ナイトスクープ』などの人気番組に携わった、いわゆる「ギョーカイ人」でもある。
長谷川も百田と同じく、昨年9月の「有志の会」の発起人の1人。東京大学大学院修了後、埼玉大学教養学部助教授を経て、87年から同大教授。東京裁判を批判的に論じた「戦後世代にとっての大東亜戦争」で注目を集め、熱心な改憲論者としても知られる。
「民主主義というものはバイキンにとてもよく似ている。(中略)二一世紀のこの世界を生きてゆくわれわれは、好むと好まざるとにかかわらず、この民主主義というバイキンとつき合ってゆかなければならない。(中略)『国民の、国民による』政治という道が、本当に最良の道なのだろうか……」(『日本の論点2012年』から)
民主主義はバイキン――というのが長谷川のレトリックであることは分かるし、言葉尻をとらえて批判する気もないのだが、百田と同様にバランス感覚に危うさを感じるのは筆者だけではないように思う。メディア、とりわけ公共放送であるNHKに求められるものがそのバランス感覚であることは言うまでもない。
このほか、本田は安倍の小学校3、4年当時の家庭教師であり、中島は日本のエリート養成を目指して06年に愛知県蒲郡市で開校した海陽学園傘下の中高一貫校の校長を務める。同学園の発起人企業はトヨタ自動車、JR東海、中部電力の3社であり、中でも学園運営に熱心なのはJR東海会長の葛西敬之(73)である。
その葛西は、安倍を支援する財界人が参加する「さくら会」の有力メンバー。第1次政権崩壊後も関係を絶やさず、いまや安倍が最も信頼する財界人であり、その影響力の大きさから「影の財界総理」とも呼ばれている。10月10日付で原子力損害賠償支援機構委員を葛西は退任したが、後任にやはり「さくら会」メンバーである西武ホールディングス社長の後藤高志(64)を送り込んでいる。
■留任を封じられたNHK会長
今回のNHK経営委員人事で安倍が露骨に息のかかった人物を抜擢したのは、「NHK会長を更迭したい」という葛西の一念に応えたからではないかと少なからぬメディア関係者が推測している。標的となっているNHK会長というのは松本正之(69)。元JR東海副会長であり、つまり葛西のかつての部下である。
松本は2011年1月に、前任の元アサヒビール会長・福地茂雄(79)の後任としてNHKのトップに就いた。在任中は受信料引き下げや職員給与削減を断行して実績を上げたが、原発の再稼働問題などで葛西の意に添わぬ番組が目立つ(葛西は熱心な原発推進論者である)ことに加え、05年に連続不祥事で引責辞任した海老沢勝二会長の側近で、元NHK理事の諸星衛(67)を副会長に登用する人事案を松本が拒んだことが葛西の不興を買ったといわれている。
諸星は政治部出身で安倍らの覚えもめでたく、松本の後任会長に推す声もある。11月1日付読売新聞が朝刊1面で「NHK会長 交代の公算」と報じたように、元上司の強力な政治力の前に松本は留任の道を封じられつつある。会長人事決定には、12人の経営委員のうち9人以上の賛成が必要。すでに昨年末の自民党の政権復帰以降5人の経営委員が交代しており、前述の百田ら5人が着任すれば計10人が安倍人事による選任となる。
経団連の衰退は政権に近い財界人の発言力を増し、見識よりも親しさが要職人事のカギとなりつつある。次期経団連会長も当初下馬評で有力視された日立製作所会長の川村隆(73)や三菱重工業会長の大宮英明(67)は本人の固辞や政権との距離がネックとなり、最近では「さくら会」メンバーの三菱商事会長、小島順彦(72)の
ジャーナリスト・杜耕次
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