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恍惚宰相、マー君を見よ
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2013年11月05日 永田町異聞
東北に縁もゆかりもなく知人もいない。楽天市場で買い物をすることもめったにない。
それでも、今年は楽天イーグルスの応援に力が入った。映画よりもドラマティックな日本一決定のシーンにしびれた。
昔、南海ホークスの鶴岡監督は「グラウンドには銭が落ちている」と言って選手を鼓舞したというが、短期決戦にのぞむ選手の心中は、ゼニカネのことなどどこかに吹っ飛んでいるだろう。
「勝ちたい」、というその一点に凝縮された選手ひとりひとりの心と体の激突が、想像をはるかに超える感動的な出来事を、ほぼ完璧といえるかたちで生み出してしまう。どんなシナリオライターがいかに筆を尽くしても、この迫力には及ぶまい。
そこには、ウソというものの介在する余地はない。真実のもつ迫力が、感動を呼ぶ。
未曽有の大震災で、肉親を亡くし、家を失い、いまも立ちあがれない方が大勢いる。楽天の勝利を願った多くの人々には、そういう思いがあったにちがいない。田中将大という日本のヒーローが、東北の球団から誕生したのも嬉しいことだ。
それは素直な日本人の心情だろう。かつて万年最下位だった球団が、巨人を打ち砕いて日本一になるという物語も痛快だ。
しかしそれ以上に、震災や原発事故で労苦を背負わされることになった人々に、「楽天、よかったね」「みんなもがんばって」と、心の中でつぶやける、ささやかな幸福感が日本中を包んでいるように思えるのがいい。
しかし、その熱くも爽やかな一陣の風が吹き抜けたあとに、欲ぼけた政治家や銀行家、企業人が、ウソ満載のくだらぬ議論をしたり、心にもなく「申し訳ございません」と頭を下げる姿をテレビで見るのは、いつも以上に不快である。
この気持ちは、公共事業ばらまき政策を復活させ被災地から復興の労働力を奪っている現政権と自民党に対するいらだちや、東京電力の隠ぺい体質への怒りと通底しているかもしれない。
福島の原発事故対応には、コストの勘定など度外視してベストを尽くさねばならない。
にもかかわらず、対策を小出しにして、いつも後手を踏み、汚染水漏れが深刻化している。戦力を逐次投入して失敗した旧日本軍のようだ。
東電が利潤を追求する普通の株式会社であるかぎり、経営の論理と事故収束への作業は、ねじれた関係のまま、そこから脱することはできない。
シビアアクシデントへの備えさえ不十分だった殿様商売の巨大電力会社が、人災というほかない事故を起こしたあげく、おカネが足りないからといって、懲りずにまた原発を動かそうとし、それがだめなら電気料金を値上げするしかないと国民を脅すような姿勢をとる。
その狂った姿勢を容認し、原発再稼働を進めようとする政府は、事故収束にも、廃炉にも、核のゴミの最終処分にも、なんら打つ手を見出し得ていないのが現状だ。
安倍政権はすみやかに東電を法的整理して解体し、事故対応にあたる部門を政府が引き取って資金や人材をさらに投入し、公的な組織として独立させるべきだ。
送配電部門を発電部門と分離し、送配電部門を政府が買い取って、電力の完全自由化を実現し、地域独占の廃止につなげるべきだ。
しかし、五輪招致のために世界に平然と大ウソのつける総理大臣をかかえていることは、この国にとってきわめて深刻な事実である。
自らの思想や政治行動にうっとりし、批判する人たちをいちいち攻撃する一方、賛同するメディアを大絶賛する“恍惚宰相”安倍晋三。
「積極的平和主義」という名の戦争肯定論を掲げ、米国との共同軍事作戦を進めるために特定秘密保護法の制定をめざすのは、平和を願う大多数の国民に対する大いなる欺瞞であろう。
被災地に希望の灯をともすのは楽天球団だけなのか。チームを日本一にするため、大リーグ挑戦前の身体さえも守ろうとせずに投げ続けたマー君の、うそ偽りのない白球の力を見よ。
楽天ナインを勇気づけた彼のような心意気を持つ政治家や財界人がこの国にもいないわけではないだろう。国家権力の手先となった大メディアが悪評を立てて邪魔をしなければ、ペテン、詐欺、ごまかしがまかり通る政界、官界、業界にも、多少はまともなリーダーが現れるはずである。
新 恭 (ツイッターアカウント:aratakyo)
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