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2013年10月26日
あまりに問題の多すぎる法案だ。政府は特定秘密保護法案を閣議決定し、国会に提出した。だがこれは国民を目隠しし、国民主権を根底から壊しかねない。成立させてはならず、廃案にすべきだ。
問題は、何が特定秘密に当たるか、閣僚など「行政機関の長」が恣意(しい)的に決められる点だ。
確かに、法案の別表は「外国との交渉内容のうち国民の生命、領域保全その他の安全保障に関する重要なもの」などと対象を列挙する。だが何が「重要」か、なぜ「重要」なのか、国民には点検のしようがない。これでは恣意的運用を排除したとは到底言えない。
単なる努力義務
有識者会議で統一的な運用基準を作ると政府は強調する。だが有識者を選ぶ段階で批判的な識者は排除されるだろう。恣意的指定に歯止めがかかるとは思えない。
併せて審議される情報公開法改正案で、秘密指定が適切かどうか裁判所が内々に見て判定する「インカメラ審理」を規定するから、透明性は確保したと政府は主張する。だが裁判所は、「統治行為論」の名の下に政府決定の追認を繰り返してきた。全権委任の対象になり得るのか。
政府はまた、法案に「知る権利」や「報道・取材の自由」の記述を追加したと強調する。だがそれは単なる努力義務にすぎない。
報道機関の行為が「不当でない限り正当な業務」とするというが、何が「不当」か決めるのは政府だ。恣意的運用はいくらでも可能である。事実、森雅子担当相は、沖縄返還密約を暴いた時のような行為は処罰対象と公言した。恣意性を告白したようなものだ。
従来の国家公務員法の守秘義務規定は罰則が最大懲役1年だ。法案はそれが10年となる。行政内部の善意の告発者に対する萎縮効果は計り知れない。
「不当でない限り」という条件は「違法性阻却事由」である。無罪の要件になるというだけであり、逮捕も家宅捜索もありうる。報道機関を家宅捜索すれば告発者の身元を示す資料が国の手に渡る可能性がある。内部告発者を萎縮させるには十分であろう。
何しろ日本は密約の「実績」にはこと欠かない。隠蔽(いんぺい)圧力が強まる秘密保護法ができれば、時の政権や官僚に不都合な事実が今以上に隠蔽されるのは間違いない。
そもそも政府は公僕の集合体であり、政府の情報は国民の共有財産であるはずだ。情報がなければ正しい判断もできない。秘密保護法は国民主権の基盤も壊すのだ。
市民社会への威嚇
さらに問題なのは、市民社会への威嚇になっている点である。
空証文にせよ「報道の自由」は法案に記されたが、NPOや市民団体が行政情報に接近する行為は何ら保護されていない。
例えば、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの普天間基地配備計画について、17年前に政府は知っていながら米側に隠すよう求め続けた。それを示す「高見沢文書」は、市民団体が米国の公文書から見つけ出したが、そのような行為すら「秘密保護法違反」に問われかねない。その意味でこの法案はまさに「政府保護法案」であり、「国民監視法案」なのである。
情報が闇から闇に葬られかねないのも問題だ。今も防衛秘密は、秘密解除した例が制度創設以来1件しかなく、秘密のままの廃棄は直近5年間で約3万4千件に上る。期限が来れば自動的に文書を公開する仕組みがないからだ。秘密保護法案も同様なのである。
そもそも法案が必要なのか。政府が事例として挙げた過去の情報漏えい事件は、いずれも現行の法体系で防止できた。日弁連の提言する通り、むしろ情報管理システムの適正化を急ぐべきであろう。
法成立後は、例えばテロ対策が名目の公共事業は、税金の使途として妥当か検証できなくなる。原発事故も秘密にされかねない。そんな暗黒社会を招来しそうな法はやはり「悪法」と呼ぶほかない。
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