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[風見鶏]日米がぶつけた本音
編集委員 秋田浩之
外交では無数ともいえる合意文書が交わされる。美辞麗句が並んでいるだけの紙片のようでも、透かしてみると、当事国の妥協と打算が浮かび上がる。
日米は3日、外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、共同文書を採択した。国務、国防両長官が初めてそろって来日し、交わした肝煎りの合意だ。
中国による軍備の増強や北朝鮮の核開発を明記。サイバーやテロ対策にも協力を広げ、日米が共同でアジアの火種に対処していく路線をかかげた。結束をうたった内容だが、舞台裏を検証すると、やや違った構図がのぞく。
「中国には何もふれないのか」。2プラス2を翌月に控えた9月上旬。日本政府内でため息がもれた。
共同文書をつくるため、日米の実務者が集まり、ひそかに互いの草案を持ち寄った。尖閣諸島への中国の挑発、中国国防費の膨張……。日本案では北朝鮮に加えて、中国の懸念にもそれなりの行数を割いていた。ところが、米国案では具体的な国名が一切、入っていなかったのだ。
「共同文書の主眼は、同盟の将来像。特定の国に焦点を当てる必要はない」。米側はこう説いたが、尖閣で中国の攻勢にさらされる日本側も引かなかった。
共同文書では中国を名指しするが、尖閣諸島にはふれない。尖閣については共同記者会見で日米が発言し、中国にクギを刺す――。綱引きが続き、日米は結局、こんな妥協案で折り合ったのだという。
実際、ヘーゲル長官は会見で尖閣に言及した。事務方が用意したメモに沿って、力ずくの挑発を認めないと語り、日米安保条約を適用する原則も確認した。ところが、その直後に波乱が起きた。ケリー国務長官がメモを読まず、アドリブでしゃべり始めたのだ。
「大きな問題で中国と協力できる関係をめざす」「尖閣の当事国は挑戦的な行動をとらず、対話と外交で解決すべきだ」。その言葉からは、中国との対立を避けたい本音がにじみ出た。
日米同盟で中国をけん制したい日本。対中抑止力を強めこそすれ、中国を刺激したくはない米国。日米にはこんなズレがある。これは目新しい話ではない。
問題は、米国の底意がどこにあるかだ。別言すれば、腰のひけ気味な姿勢はオバマ政権に特有なものなのか、米国の孤立主義の前兆なのか、である。
「米軍は海外から撤収し、同盟国に安保の責任を持たせるべきだ」。有力な米安保専門家のバリー・ポーゼン氏は今春、フォーリン・アフェアーズ誌でこう提唱した。これが口火になり、米外交学会ではいま、米軍撤収論をめぐる論争が熱を帯びているという。
国防総省の長期計画にかかわる米戦略家、エドワード・ルトワック氏に米国の行方を聞いてみよう。
「米国は孤立主義には陥らないが、選別的介入主義に転じた。日本やイスラエルのような民主的な同盟国を守るためなら、多くの米国民も介入をいとわない。だが、価値を共有しないシリアなどイスラム諸国のために、米軍を投入することはない」
米政府内も一枚岩ではない。2プラス2の事前調整では、外交をになう国務省と、軍事戦略を仕切る国防総省の対中観の違いも浮き彫りになった。
アフガニスタンとイラクの戦争に疲れ、経済危機の傷を引きずる米国。彼らが北米大陸に引きこもったら、アジアの安定はおぼつかない。そうさせないため、何ができるか。その答えにこそ、日本が果たせる平和への貢献がある。
(編集委員 秋田浩之)
[日経新聞10月13日朝刊P.2]
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