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法人税率引き下げに消費税を使えるか
2013年10月17日(木) 田村 賢司
「見勝り(みまさり)」と書くと、また変な若者言葉ができたのかと思われそうだが、これがれっきとした“正規用語”。誰もが知る「見劣り」の反対語で、「予想より、またはほかのものよりまさって見えること」(三省堂現代新国語辞典)だそうな。
見劣りはしばしば使うのに、見勝りはその存在すらろくに知られないのは、世に「予想よりまさって見えること」が少ないせいか。
では、安倍晋三首相が来年4月からの消費税引き上げ決定と共に発表した経済対策はどうか。
消費税引き上げが景気に悪影響を及ぼすのを防ぐためとする経済対策の中身は既に知られる通り(下表参照)。東日本大震災からの復興事業1兆3000億円と、公共投資で約2兆円を投じる。家計にも配慮して低所得者に1人当たり最大1万5000円、住宅取得者に最大30万円を給付し、予算規模はそれぞれ3000億円、3100億円だという。
この効果を云々する分析は世の中に既に多いし、筆者も何度か書いてきているのでここではあまり触れない。しかし、安倍首相が「企業が立地しやすい環境に」とこだわり抜く法人税改革については、将来別の姿があり得るのではないか。
減税が大きくなった
主な経済対策と減税の概要
項目 規模 概要など
経済対策 復興特別法人税の1年前倒し廃止 約9000億円 2013年度末での廃止を検討する
住宅購入者向けの現金給付 約3100億円 −
低所得者向けの現金給付 約3000億円 −
公共事業など 2兆円規模? −
震災復興事業など 約1兆3000億円 −
減税 設備投資など投資を促す減税 約7300億円 −
賃上げ促進など税制 約1600億円 −
住宅ローン減税の拡充 約1100億円 −
注:震災復興事業は、公共事業に含まれると見られる予算もあり、それを合算すると約1兆8000億円になる。住宅購入者向け現金給付には、他に東日本大震災の被災者向け500億円がある
法人税下げは首相の独走ではない
経済対策のもう1つの柱、復興特別法人税の前倒し廃止は、震災の復興財源確保のために2012年度から3年間、法人税額の10%を上乗せしている特別税を1年前倒しで2013年度末に廃止しようという案である。これによって、現在38.01%(東京都)になっている法人税率は、本則の35.64%に下がる。それを橋頭堡に、「次は法人税率の引き下げを探ろうというのが官邸の本音」とは、霞ヶ関、永田町界隈に流布した見方である。
根拠がないわけではない。元々、自民党は前回の参院選の政権公約で、法人税率を20%台に下げるとしており、その意味では安倍首相の“独走”ではないからだ。ただし、誰もが考える通り、最大の課題は財源。法人税率を下げるには、1%で4000億円といわれる税収の代わりを見つけない限り、単に財政悪化をもたらすだけとなる。そこは官邸も分かっているから、復興特別法人税の前倒し廃止以降のスケジュールについては、あからさまには言おうとしない。
だが、事実上、経済対策の一部として同時に出された減税策とそれに付随した動きを子細に眺めてみると、「衣の下の鎧」のようなものが見えてくる。
減税策の主なものは上の表の通りだが、設備やベンチャーなどへの投資を促す減税策をまとめた自民党の「民間投資活性化等のための税制改正大綱」にこんな一文がある。
「(法人税の)表面税率を下げる場合には…略…課税ベースの拡大や、他税目での増収策による財源確保を図る必要がある」
課税ベースとは、単純に言えば、法人税を軽減する政策減税を縮小し、課税対象所得を増やすこと。企業が設備投資に伴う減価償却の税法上の期間を延ばし、短期償却できなくするといった類の減税策を縮小するのが課税ベースの拡大。これを表面税率の引き下げと一体で実施すれば、減税と増税を同時に行うようなものだから、税収はそれほど減らない。
というのは、これまで法人税減税に関して散々繰り返されてきた議論であり、目新しくもない。だが、それに続く一文は読み方によっては重大な問題になる。「他税目での増収策」。つまり、法人税以外の税目で増収が図れれば、それを財源に法人税を引き下げられるというわけだ。
しかし、仮に5%下げれば2兆円、10%となると4兆円に及ぶ巨額の財源を捻出できる可能性のある他の税目となれば1つしかない。消費税である。ここからは頭の体操的だが、この一文を読む限り、今後、消費税引き上げによって生まれる財源を法人税引き下げに使う可能性が感じられる。
税制改正大綱に謎の一文
即座に指摘が来るだろうから、大急ぎで付け加えれば、もちろん、消費税は社会福祉目的税である。その税収は社会福祉以外には使えない。だが、今回、2015年秋の引き上げまでできたとして上がる5%のうち、4%分は既に社会保障費として使い、事実上国債で賄っている部分を埋めるもの。この分は、実態として財政再建に使われることになるのである。
カネに色が付いていないことをたてにあえて言えば、消費税引き上げで国債発行が減る割合を縮小すれば、財源はできることになるのである。そこまで官邸と財務省が考えているかは、もちろん不明である。しかし、筆者の知る限り、税制大綱のこの種のテーマで、「他税目での増収策」という一文が書かれたのは初めてのことだ。税制大綱はあくまで自民党のものだが、こと法人税に関しては与党の意向より官邸の方が前のめりの現状を見れば、最後はそこまで踏み込むということか、と思えてくる。
傍証もある。日本経団連の幹部は、アベノミクス発動以来、法人税引き下げ論が出てくると、とまどったような表情をのぞかせていた。「表面税率下げの替わりに、研究開発減税や設備投資減税(加速度償却など)が縮小され、課税ベースが広げられるのは好ましくない。それなら税率下げはなくてもいいくらいだ」と。
仮に、法人税率が大幅に下がれば、海外企業の日本進出が活発化し、国内の競争が激しくなる恐れもある。いささか身勝手だが、それを嫌がる本音も透けて見える。
一方、財務省は当初から麻生太郎・財務相に加え、今回の経済対策・減税策作りで官邸に押しまくられた自民党税制調査会の幹部ら財政健全化派の議員らに盛んに吹き込み続けた。「法人税率下げは長期の課題」。つまり、税率下げなど短期の課題にはとてもならないというわけだ。
課税ベース拡大を嫌う経済界、財政悪化を招きかねない無理な減税を嫌がる財務省・一部議員、そして法人税率下げに執念を見せる安倍首相…。そのトライアングルの中心に落としどころがあるとすれば、消費税増税効果を法人税減税に充てることはあり得ない話ではない。
税制改正大綱に書き込まれた小さな一文。その本当の姿は、見勝るものなのか、見劣りなのか…。
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
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