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「ムードに流される非合理的な投票者? 〜カレッジフットボールの試合結果が大統領選挙の行方を左右する?〜」 BY TYLER COWEN AND KEVIN GRIER
以下は、Tyler Cowen and Kevin Grier, “Will Ohio State’s Football Team Decide Who Wins the White House?”(Slate, October 24, 2012) の訳。
「民主主義に対する最も説得的な反論を知りたいのであれば、平均的な有権者と5分間ほど会話することをお勧めする。」(“The best argument against democracy is a five-minute conversation with the average voter.”) −ウィンストン・チャーチル
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2012年の大統領選挙は−選挙人団の投票と一般投票のどちらもともに−どうやら接戦となりそうな見込みである。有権者の投票行動を理解しようと努めることはいつであれ重要だが、選挙戦が緊迫したものである場合にはその重要性はなお一層増すことになるだろう。
有権者が挑戦者に希望を託して票を投じたり、現職に「ノー」を突きつける背後には一体どのような要因が控えているのだろうか? 有権者は投票にあたって失業率やGDP、インフレ率の水準やそれらの変化の方向性[1] を考慮に入れるのだろうか? 投票の行方は各陣営が明らかにする政策方針書(position papers)や候補者のこれまでの履歴(personal history)に左右されるのだろうか? テレビで放映される候補者の選挙用CMや討論会でのパフォーマンスの出来は有権者の行動に影響を及ぼすのだろうか?
有権者を突き動かすのはこれらのどれでもなく何か別の要因であるのかもしれない。最近の研究によると、有権者が抱える非合理性(voter irrationality)は我々が考える以上に恣意的なものであるようだ。紙一重のきわどい選挙においては有権者の非合理的な振る舞いが最終的な結果に決定的な違いをもたらす可能性があるわけだが、それでは有権者が抱える非合理性はどのようなかたちをとって表れるのだろうか? 最近の研究によれば、投票が実施されるまさにその同じ州で直前に行われたカレッジフットボールの試合結果がホワイトハウスへの切符を賭けたレースの行方を決定づける可能性があるという。
このことは、経済学者であるアンドリュー・ヒーリー(Andrew Healy)とニール・マルフォートラ(Neil Malhotra)、そしてセシリア・モー(Cecilia Mo)が共同で執筆し、『米国科学アカデミー紀要』(Proceedings of the National Academy of Science)に掲載された大変魅力的な論文で実証的に明らかにされている。この論文では大統領選挙や上院議員選挙、州知事選挙の直前に行われたカレッジフットボールの試合結果が有権者の投票行動に影響を及ぼすかどうかが検証されており、投票日前の1週間内に行われたゲームで地元チームが勝利すると現職の得票率がおよそ1.5%ポイントだけ上昇するとの結果が見出されている。さらに、観客動員数トップ20のチーム−ミシガン大学やオクラホマ大学、南カリフォルニア大学といったビッグチーム−に関しては、そのチームが投票の直前に勝利すると現職の得票率は3%ポイントだけ上昇するということだ。これはかなりの数の票であり、接戦の選挙戦で勝利を掴む上で決して無視はできない規模である。なお、以上の結果はごく限られた試合や少数の選挙期間のデータに依拠して得られたわけではないことを指摘しておこう(実証分析では1964年から2008年にかけて行われた全米62のトップチームのゲームのデータが利用されている)。
この論文が伝える良いニュース−と思われるのだが−は、スポーツは我々を元気づけ、日々の生活に一層の輝きをもたらしてくれる、ということである。応援するチームの勝利を目にしたスポーツファンは、競技場においてだけではなく競技場の外でも幸せを感じ、満足感に浸ることになるだろう。幸せや気持ちの高ぶりを感じている時、人は現状(status quo)に一層の満足を覚えがちとなる。そして、現状への満足感が人をして現職の政治家への支持(投票)に向かわせるというわけだ−それがどんなに非合理的な振舞いであるとしても−。
論文では経済的・人口的・政治的な諸要因に対してコントロールが加えられており、それゆえ先の結果は単なる相関よりもずっと精緻なものであると言える。また、人々の予想を考慮に入れた分析にも踏み込まれており、特に予想外の勝利によって有権者がかなり強く影響されることが見出されている。地元チームが予想外の勝利を収めた場合、現職の得票率はおよそ2.5%ポイントだけ上昇するというのだ。
このような現象はフットボールだけに限定して見られるわけではない。この論文では他にも2009年度に行われた全米大学体育協会(NCAA)主催のバスケットボールトーナメントのケースも検討されており、(フットボールのケースと)ほぼ同様の結果が得られている。さらには、1948年から2009年の間に実施された市長選挙を対象として、バスケットボール、フットボール、野球のプロの試合が市長選挙にどのような影響を及ぼしたかを検討している別の研究があるが、その研究結果によると、地元チームがシーズンを通じて好調な成績を残した場合、現職の得票率が幾分か上昇することがわかっている。
ただし、カレッジフットボールや野球の試合こそが選挙結果を決定づける「主要な」要因だ、とまで語るつもりはない。オクラホマ大学のスーナーズ(Sooners)が100連勝を収めたとしても(現職の)オバマ大統領がオクラホマ州で勝利を得ることができない可能性もあるし、UCLA(カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校)のフットボールチームがボロ負けを喫したにもかかわらず(挑戦者の)ミット・ロムニーがカリフォルニア州で敗れる可能性もある。ESPNスポーツセンターが報じる試合のスコア以外の要因もまた大いに重要であることは言うまでもない。
とは言っても、これら一連の結果が驚くべきものであることに変わりはない。それというのも、論文の著者らも指摘していることだが、現職の政治家はゲームの行方とは全く関係が無いにもかかわらず、ゲームの結果に対して称賛を受けたり責任を問われることになるわけだからである。我々がいかに気まぐれでムードに流されやすい存在かを示す証左であると言えるだろう。スポーツを含めたポップカルチャーが「投薬」された状態で日々の意思決定を行っているかもしれないと考えるとちょっとゾッとする思いだ。また、スポーツのスコアがこんなにも重要な役割を果たしている可能性があることを考えると、果たして有権者は政治に関する基本的な情報−経済のパフォーマンスに関するデータなど−を合理的に処理(解釈)しているのかどうかについても疑ってかかるべきかもしれない。
さて、ここで極端なシナリオを想定することにしよう。今のところ現職のオバマ大統領が挑戦者のミット・ロムニーをわずかながらリードしているように見えるが、大半の専門家は今回の選挙は接戦になるだろうと予測している。共和党陣営が勝利を収める上では、フロリダ州、オハイオ州、ヴァージニア州の3つの激戦州(swing states)での選挙の行方がキーとなる可能性がある。
来る10月27日−投票日の1週間とちょっと前−、オハイオ州とフロリダ州で2つの大きなフットボールゲームが実施される。オハイオ州では地元のバッキーズ(Buckeyes)−オハイオ州立大学−がニタニー・ライオンズ(Nittany Lions)−ペンシルベニア州立大学−を相手に、そしてフロリダ州では地元のゲイターズ(Gators)−フロリダ大学−がブルドッグス(Bulldogs)−ジョージア大学−を相手にそれぞれ一戦を交える予定である。今後も引き続き接戦のままであるとすれば、これら2つの州での2つのフットボールゲームがこれからの4年間において誰がホワイトハウスで指揮を執ることになるかに影響を及ぼす可能性がある。夜遅くにバッキーズのヘッドコーチであるアーバン・マイヤーのもとにオバマ陣営から電話があり、ブリッツ(守備の戦術)に関する提案がなされるということはあるだろうか? 「ブルドッグスのラン・プレイを防ぐにはこうしたらどうか?」とロムニー陣営からゲイターズに対してアドバイスが寄せられるということはあるだろうか? 大事なフォース(4th)ダウンにおける決断−パントを選ぶか、それともタッチダウンを狙うか−はフットボールチームのコーチ陣以外の人々の前途にも影響を及ぼす可能性があるのだ。
地元チームの勝利はビール・ゴーグル効果の選挙版みたいなものである。地元チームの勝利によって判断が曇らされ、翌朝になって後悔する、というわけだ。ビール・ゴーグル効果に屈した人々が目覚めて最初に口にする言葉を借りると、「そんなはずはない(That just ain’t right)」、ということになるわけである。
訳注;失業率が改善しつつあるのか、それとも悪化しつつあるのか/GDPの成長ペースが加速する気配を見せているのか、それとも減速気味であるのかetc [↩]
http://econdays.net/?p=8820
- 自然災害に対する有権者の破滅的な投票行動 SRI 2013/10/14 11:16:35
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