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増税してバラマキは許されない
政府・与党は財政の長期推計を公表せよ
2013年10月10日(木) 小黒 一正
安倍首相は10月1日の臨時閣議で、2014年4月から消費税率を現行の5%から8%に引き上げることを決定した。その影響を緩和するための「経済政策パッケージ」も合わせて公表した。
この経済政策パッケージには、以下の4項目が盛り込まれている。1)与党が同日に決定した「民間投資活性化等のための税制改正大綱」に関する約1兆円の投資減税等(「設備投資を促す法人減税(0.73兆円)」)。2)所得拡大促進税制(0.16兆円)。3)住宅ローン減税の拡充等(0.11兆円)。4)約5兆円の「新たな経済対策」の策定(12月上旬予定)。現在、政府・与党は、この新たな経済対策パッケージの策定に向けた「2013年度補正予算案」の編成を本格化しつつある。
4)約5兆円の「新たな経済対策」のうち、中身が決まっている可能性が高いのは、a)低所得世帯への現金給付(0.3兆円)、b)住宅取得等に関する給付措置(0.31兆円)、c)震災復興事業(1.3兆円)の3つである。
一方、12月中に結論を出すとしているd)復興特別法人税の前倒し廃止(0.9兆円)のほか、「残り2兆円の枠」――e)競争力強化策やf)高齢者・女性・若者向け施策に対応するもの――が固まっていない。このため、各省庁や族議員はこの2兆円の枠を巡って予算獲得の争奪戦を開始しており、従来のバラマキ型政治が復活したような印象を受ける。
約5兆円もの経済対策を策定する目的が、消費増税による景気腰折れリスクへの懸念やデフレ脱却にあることは間違いない。だが、せっかく増税してもその増収分が財政赤字の削減でなく、歳出の膨張に(増税の痛みを強いることになる国民への「アメ」として)回ってしまっては増税する意味がない。これでは「砂漠に水を撒くような行為」と言っても過言ではない。
今回の増税だけで増大する社会保障費は賄えない
政府・与党から「財政再建に対する強い危機感」が伝わってこないのはなぜか。この理由の1つには、政府・与党が、財政の長期推計を公表していないことが関係しているように思われる。
2013年の直近4〜6月の実質GDPは年率で3%超の伸びであった。それに、2020年の東京オリンピック開催決定という朗報が加わり、日本経済には明るいムードが漂いつつある。だが、今回の増税で日本財政が抱える問題が解決できると「楽観」するのは時期尚早である。というのは、増税を予定通り実施しても、社会保障改革をしっかり推進しない限り、財政はすぐに厳しくなるからである。
いかに厳しくなるかは、内閣府が今年8月上旬に公表した「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」という)を延伸することで、簡単に確認できる。
この試算は、「経済再生ケース」と「参考ケース」の2つのシナリオを提示している。本論では「参考ケース」を延伸する。慎重な成長率を前提としているからだ。世界標準の財政見通しは、慎重な成長率を前提とするのが常識である。
基本シナリオである「経済再生ケース」は、今後10年の平均成長率を実質2.1%、名目3.4%と想定している。これは「(名目成長率が)1〜2%程度の民間調査機関の予測に比べるとかなり強気」(日経新聞・2013年8月9日朝刊)だ。財政見通しとの関係では「楽観的な」ものとなっている。このため、専門家の間では、「経済再生ケース」は非現実的と批判されている。
図表:内閣府(2013)「中長期の経済財政試算」(参考ケース・復興対策を含む)の延伸
注:PB=プライマリーバランス
(出所)内閣府(2013)「中長期の経済財政に関する試算」等を参考に筆者作成
基礎的財政収支の国際公約は守れない
図表には、上から順番に、@国・地方の基礎的財政収支(対GDP、左目盛)、A国・地方の財政収支(対GDP、左目盛)、B国・地方の公債等残高(対GDP、右目盛)の実績・予測を描いている。このうちの黒線は内閣府の「中長期試算」(参考ケース)、赤線は参考ケースを延伸した筆者の簡易推計である。赤線(筆者の予測)と異なり、黒線(内閣府の予測)が途中で終了しているのは、内閣府の推計が2023年度までしか公表していないためである。
筆者の簡易推計は、2015年度頃までは内閣府の推計と似た動きをしている。ただし全く同じというわけではない。2015年以降、@ABのいずれにおいても、黒線(内閣府の予測)と赤線(筆者の予測)間には若干ズレが生じる。
2015年度頃まで似た動きをしている理由は、内閣府の推計と同様、筆者の簡易推計においても、2014年4月の増税(消費税率5%→8%)と、2015年10月の増税(消費税率8%→10%)を予測の前提に盛り込んでいるからである。
問題は、2015年度以降の財政の姿である。政府は国際公約として、「2015年度に基礎的財政収支(対GDP)の赤字幅を2010年度比で半減し、さらに2020年度に黒字化する」目標を掲げている。だが、筆者の簡易試算では、2020年度の基礎的財政収支は赤字であり、その達成は困難である可能性が高い。
しかも、2025年度以降は「団塊の世代」のすべてが75歳以上の後期高齢者となることから、社会保障費が急増することが見込まれている。現行制度のままでは、特に医療費や介護費がこの頃から急増していく。この影響を受けて、筆者の長期推計では、2014年度と15年度に消費増税を実施しても、2050年度の国・地方の基礎的財政収支(対GDP)は7.9%の赤字、公債等残高(対GDP)は約500%となり、財政は非常に厳しい状態になる。
2050年度の基礎的財政収支を均衡させるには(消費税率換算で)、2014年度と15年度の増税に加えて、16%の追加増税が必要となる。これは現行5%の消費税率を26%にすることを意味する。この多くが中長期的な社会保障費の膨張に関係すると言っても過言ではない。
長期予測の公表が不可欠
以上の筆者の推計では5%増税の実施を前提としたが、その程度の財源確保では今後の社会保障費の急増に対応できないことは明らかである。「中長期の社会保障コスト」に関する分析や議論を行うためには、財政の長期推計が不可欠であるが、現在のところ、政府・与党は長期推計を公表していない。
他方、諸外国では、より長期の財政に関する将来推計を公表している。例えば、欧州委員会が「Fiscal Sustainability Report」を公表していることは有名だ。同委員会は3年に1回の頻度で「Aging Report」も作成し、社会保障費(年金・医療・介護)について、2060年までの規模(対GDP比)を推計・公表している。
また、米国連邦議会予算局(CBO)は、「Long-term Budget Outlook 2012」において、今後75年間(2087年まで)の将来推計を実施し、「ベースライン・シナリオ」と「代替シナリオ」の2種類を公表している。
さらに、イギリスの財務省は、1998 年・財政法(Finance Act 1998)を制定して以降、今後30 年間の長期的な財政見通し(Illustrative long-term fiscal projections)を毎年公表している。さらに、それの補完(厳密には、予算編成方針を明らかにする「Pre-Budget Report」の付属資料)するものとして、約50年間に及ぶ長期財政報告書(Long-term public finance report)を2002年から毎年公表している。
今回の増税を無駄なものにせず、財政の持続可能性を高めつつ、世代間格差の是正を図るため、政府・与党は財政の長期推計を早急に公表することが望まれる。
このコラムについて
子供たちにツケを残さないために、いまの僕たちにできること
この連載コラムは、拙書『2020年、日本が破綻する日』(日経プレミアムシリーズ)をふまえて、 財政・社会保障の再生や今後の成長戦略のあり方について考察していきます。国債の増発によって社会保障費を賄う現状は、ツケを私たちの子供たちに 回しているだけです。子供や孫たちに過剰な負担をかけないためにはどうするべきか? 財政の持続可能性のみでなく、財政負担の世代間公平も視点に入れて分析します。
また、子供や孫たちに成長の糧を残すためにはどうすべきか、も議論します。
楽しみにしてください。もちろん、皆様のご意見・ご感想も大歓迎です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20131007/254252/
安倍首相よ、次の矢を放て
真の評価は消費税増税より成長戦略
2013年10月10日(木) The Economist
1997年。時の首相、橋本龍太郎氏は財政の健全化を願い、不人気な消費税増税をあえて断行。当時、たまごっちと呼ばれるゲームが一世を風靡していた。人々は電子メールを使い始め、日本経済は中国の5倍の規模を誇っていた。橋本氏が消費税を引き上げた直後から日本経済は急速に失速。橋本氏はほどなくして政権の座から滑り落ちた。それ以来、日本の政治家はだれ一人として消費税の引き上げに手をつけてこなかった。
前回の消費税増税の記憶が今も色濃く残る中で、10月1日、安倍首相は来年4月に消費税を現在の5%から8%に引き上げる決断を下した。同首相はその18カ月後には消費税を10%に引き上げる意向だとされる。消費税を引き上げるべきか否かを巡って安倍首相を取り巻く面々が過去数カ月にわたって態度を決めかねたのは当然と言える。
安倍首相が決断を下した今、首相の支持者は「今回の消費税増税は日本の財政健全化に向けた歴史的な転換点になる」と主張している。政府債務はGDP(国内総生産)の200%を優に上回り、先進国の中で最悪の水準にある。1990年代初期に金融・不動産バブルがはじけて以降、政府支出は増加の一途をたどっているのに対し、歳入は低迷し続けている。
日本が不況からの脱却を試みて、ケインズ政策を追求したことが、歳出が拡大した理由の一端だ。だがより大きな原因は、医療費や年金コストの上昇にある。しかも、急速な高齢化に伴い、これらの費用は今後、大幅に増加すると見込まれる。福祉関連支出は今や一般会計予算のほぼ3分の1を占めるまでに膨らみ、その比率は1990年のほぼ2倍に拡大した。
こうした背景を勘案すれば、小幅な消費税引き上げは、注目されるようなものではない。事実、日本が財政を健全化しようと思うなら、消費税を最終的には欧州諸国並みの20%程度にまで引き上げる必要がある。
日本の財政健全化を一貫して妨げてきたのは、景気の足取りが定まらず、一進一退を繰り返してきたことだ。1997年の悪夢に付きまとわれ、日本の政策当局者は長い間、消費税増税に二の足を踏んできた(折からのアジア金融危機が、景気後退を引き起こした一因となったことは間違いないが)。
しかし、今回は事情が異なる。政策当局者は何年も前から消費税引き上げに取り組んできた。消費税の引き上げを先送りすれば、財政規律の維持を標榜する安倍首相に対する信認は地に堕ちていただろう。さらには、「アベノミクス」は効果を発揮しており経済は再び成長軌道に戻りつつある、という首相の主張も説得力を失っていたはずだ。
来年早々には景気が足踏みする可能性
実際、一見したところ、アベノミクスは機能しているように見える。アベノミクスの第1の矢と第2の矢は、財政支出の拡大と金融緩和だ。年初来、公共支出は急増した。春には、長引くデフレ脱却に向けて日銀が大きく舵を切った――2%のインフレ目標を導入するとともに、国債買い入れによる超金融緩和政策を打ち出した。景気がちょうど回復局面に当たるなどタイミング的にラッキーだった面があるにせよ、今のところ、アベノミクスは成果を上げつつあるかに見える。
今年第1四半期の経済成長率は年率4.1%と目覚ましい伸びを記録。第2四半期の成長率も3.8%に達した。何年にもわたってほぼ一本調子に下落を続けてきた消費者物価は、8月までの1年間に0.9%上昇した。実質金利を押し下げて成長を支援するとの日銀の目標通り、物価上昇に伴って実質借入コストはマイナスに転じた。安倍首相が消費増税を発表する直前には、9月の日銀短観で企業景況感の改善が鮮明になった。
とはいえ景気回復はいまだに流動的である。中小企業は景気の先行きを大企業ほど楽観視してはいない。インフレ率が上昇した理由の一端は、円安によって燃料コストが上昇したことにある。企業に従業員の賃上げを要請し、消費の底上げを図ろうという政府の努力は、さしたる成果を生んでいないように見える。来年早々には成長が足踏みする可能性がある。
消費税増税がもたらす景気の鈍化を相殺するため、安倍首相が総額6兆円規模(減税措置を含む)の経済対策を発表したことは正しい――あくまでも、この措置が一時的な政策である限り、という条件付きだが。
果敢な成長戦略を打ち出せ
アベノミクスの第3の矢、すなわち日本の潜在成長率を長期的に押し上げるための構造改革は、不透明であるがゆえに、一段と大きな注目を集めよう。6月に安倍首相が約束した広範な成長戦略は失望を呼んだ。安倍首相は数週間以内に再び矢を放つと述べた。
次の矢には、農地集積を推進するための大胆な施策、医療サービス分野における一段の競争導入、雇用・解雇にかかわる規制の緩和が含まれるべきだ。こうした重要な改革を推し進める困難さと比較すると、消費税増税はむしろ容易と思えるかもしれない。安倍首相自身と「日本は復活を遂げた」とする同首相の主張の真価は、増税ではなくこれらの改革が実現できるかどうかによって問われることとなろう。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20131008/254291/
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