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JR北海道の相次ぐ重大事故、安全無視の無責任体制に対して、驚きと批判が広がっている。マスメディアは、「企業体質」や「国鉄以来の労使関係」なるものに原因を求めている。しかし、それは大量の人員削減をもたらした分割民営化の破綻の結果だ。元国労名寄闘争団の佐久間誠さんに寄稿していただいた。(編集部)
車輌火災、貨物列車の脱線事故、燃料漏れ、ブレーキ故障……JR北海道で相次ぐ事故。そして、運転士の覚せい剤使用やATS破壊など、不祥事続きの事態に、各方面から「どうなっているのか?」との問い合わせが多数寄せられた。
本来は、事故の連続するJR北海道会社の、現職のJR社員が最もその発生要因を掴んでいるわけだが、どうやら外部には「話すな」との箝口令(かんこうれい)が敷かれているようである。
企業の姑息な「隠蔽体質」は、ますますその病巣を広げ、取り返しのつかない死傷事故を引き起こすことにつながりかねないと危惧される。
元・国鉄保線職員という視点から、「JR北海道で今、何が起きているか」をひもといてみたい。
1 国鉄時代の財産を食いつぶしてきたJR北海道
二〇一三年九月一九日、函館本線大沼駅構内で貨物列車四両が脱線した。事故現場のレール幅の許容値超えを昨年一〇月に把握しながら、一年間放置していた末のことだった。
この事故の原因は、木の枕木を使用していた「副本線」(待避線)で、ただでさえレール幅が広がっていたところに、重量の重い貨物列車が載ったことで車輪に押されレール幅が広がる「押し出し」と呼ばれる現象によって限界値を超え脱輪、脱線につながったものと思われる。
今、JR北海道の保線現場は検査に修繕が追いつかない状況にある。人がいない、予算がない、資材が来ないという「無いないづくし」で、どうやって安全を保つことができようか? JR北海道の野島社長は「人もいる。予算もつけている」と記者会見で話したが、これは現場状況を把握していないのか、知っていながら「隠す」という、企業風土から来るものなのかあきれるばかりである。報道によると「副業重視が極まった。ある時期から、(線路の補修など)安全対策は経営問題と位置付けられ、本社に声を上げにくくなった」(同社幹部)というから、どうやら「知っていながら何もやってこなかった」という確信犯のようだ。
保線の現場からは「一七項目に及ぶ検査項目を調査し、期日までに上に報告するのが精一杯で、とても補修にあたる余力がない」という悲鳴が漏れ伝わってくる。国鉄分割・民営化で多くの職員を解雇し、JR会社発足時に定められた北海道一四〇〇〇人の基準要員すら減らし、現在のJR北海道は半分以下の六七八九人しか社員がいない。しかも、線路補修にあたるべき頼みの綱の外注業者が、予算がつかず立ち行かなくなったことで地方から撤退して都市部へ移った。検査項目をチェックするだけで精一杯の社員に対して、本社は補修の予算付けをするわけでもなく「現場任せ」にし、「直轄を基本に修繕せよ」と口先で言うばかりだという。そうすると、現場では手が回らないから優先順位をつけ、まずは旅客列車の走る本線を重視し補修することになる。
事故の起きた「副本線」(待避線)は、後回しにせざるを得ない中での事故だったのだ。
国鉄時代の末期に、大量の枕木交換が行われた。JR会社発足に向けた「餞別」代わりだったといえる。しかし、この時交換した枕木も耐用年数をすでに過ぎ、どれも交換しなければならない時期となっている。今回の事故は、設備投資を暫時計画的に行ってこなかったツケが一気に噴出し始めた表れであろう。
同様のことが車輌にも言える。国鉄の「分割・民営化」当時、北海道・四国・九州の三島会社はその地理的・経済的条件から経営基盤に不安があり、将来的な車両置き換えにも困難を来すことが予想された。そこで分割民営化前の一九八六年、特に普通列車用気動車を製作し、あらかじめ老朽車の置き換えを済ませる措置が図られたのだ。
以来二六年経ったが、国鉄時代に導入した車輌が古くなっても新型車輌を導入すると金が掛かることから、「部品交換」でお茶を濁してきた。
事故や不具合で走らせることが出来ない車輌が出ても、予備車が少なく回せない。だから車輌編成を短くしたり、間引き運転をすることになる。混雑を予想し、前もって指定席を求めても売り切れで買えず、自由席に座れることを期待して早めに乗車しても編成が短いため混雑し、長距離区間を立ちっ放しということになる。こうしてシワ寄せは利用者に回される。鉄道営業`二四九九qのJR北海道の車輌数合計が一〇九五両に対して、JR九州は営業`二二七三qと短いにも関わらず、所有車輌数合計では一七〇四両と六〇九両も多く、いかにこれまでJR北海道が設備投資に資金を回していなかったかが一目瞭然である。
しかも、北海道は冬期間には豪雪地帯を抱え、車輌に掛かる負荷は九州の比ではないというのにだ。
特急北斗のスライジングブロックが破損した事故では、取り付けミスが原因だったということが後に報道されたが、白煙騒動は結局、「人為的ミス」であり、設備投資の問題と同時に、企業風土、技術継承のひずみも指摘せざるを得ない。
決定的なのは老朽化だ。自動車を思い浮かべればわかるように、いくら部品交換で凌いでも車輌本体の老朽化が進めば腐食もするし、穴もあく。それが車輌の燃料漏れであったり、ブレーキの故障となって現れる。限界がきているのだ。
JR北海道は、設備投資に回すべき資金を回さず、国鉄時代に引き継がれた財産を食って今日まで来たといえる。しかし、それらを食いつぶした今、老朽化した車輌や安全の根幹を支える鉄路にまでもついに危険が及んできた。
2 技術継承と歪んだ組織機構に問題
国鉄分割・民営化以降、JRでは一〇年間余り新規採用をとらなかった。その結果四〇歳代の社員が極端に少ない、いびつな社員構成となっている。
分割・民営化時に、国労所属の組合員などの首を大量に切ったこともあって、すぐに「新規採用」をとるわけにも行かず(新規採用をとるなら清算事業団職員から優先雇用しなければならなかった)、私たちが当時から指摘してきた「技術断層が生まれる」というツケが回ってきたといえる。
現場で技術を伝える者が少なければ、技術力は落ちてゆく一方だ。
そしてまた、相変わらずの「差別」により優秀な社員の芽が摘まれている。
JR北海道の社員数は、先に記したように六七八九人。この内、JR総連系が八〇%、JR連合系が八%、国労が二%といわれている。組織構成で解るとおり、JR総連系が労使一体で職場を牛耳り、本来、公正であるべき昇任試験を受けても国労であればはじかれる。現場の管理者が推薦したとしても、上にあげれば「国労だろう」といわれつぶされるという実態がまかり通っている。
聞く耳をもたない経営幹部と労使一体で優秀な人材を排斥する組織機構。
一方で、ミスを隠すためにあろうことかATSをハンマーで叩き壊した運転士への処分が、僅か一五日間の出勤停止で、列車の検査や修理を担当する部署に異動(10月1日)だというのだから、あきれるばかりだ。その構図は推して知るべしというものだろう。
また、教育・訓練を行う「鉄道学園」の講師の数が、人材と共に不足しているとの指摘もあり、学んだことが現場で生かされているのか甚だ疑問である。さらに専門の技術職を育成する場が(会社分割で)なくなったことも技術力低下の要因としてあるのではないだろうか。
こうした歪んだ企業風土を一掃しない限り、安全を守り、指導するべき優秀な技術者は育たない。
また、保線業務というのは多岐に亘っており、覚えなければならない項目も多い。特に担当線区の特徴をつぶさに把握しておかなければならない。例えば、この区間は泥炭地帯だから、冬期間はレールが凍上し高低差を注意しなければならないとか、ここは大雨が降ると冠水しやすいとか、土砂流失の恐れがあるというように、現場を知り、レールの癖を知らなければ緊急対応が利かない。頻繁な人事異動が行われると、また一から地形を把握せねばならず、それこそが「非効率的」といわなければならない。
かつての国鉄では「主(ぬし)」と呼ばれる先輩が地区ごとにおり、気象状況の変動に気をつけながら、昼夜を厭わぬチェック体制で警戒に余念がなかった。
「職人」といわれるプロの技術者が、プライドをもって安全運行を支えていた。そして後輩を指導していたからこそ「安全で正確」な、世界に冠たる国鉄の運行が可能だったのである。
そんな良き伝統を破壊したJR経営幹部のみならず、国鉄『分割・民営化』を推進した国の責任も問われなければならない。
3 どう立て直すか
安全な鉄路をどうやって取り戻すのか、結論を一口で言うなら「要員を増やし、設備投資に予算をつけるしかない」といえよう。
「赤字だから設備投資をしない」というのでは危なくてとても列車には乗れない。
安全を守るにはコストが掛かることを、改めて利用者も国も考えるべきであろう。
JR北海道の経営陣は、本業を忘れ副業に走りすぎたのではないだろうか? もちろん、会社である以上、営利を追求するなとはならないだろうが、札幌におけるJRタワー、エキナカビルなどの商業施設に力を注ぎ「鉄道事業者」としての本来業務を、余りにもお留守にしてきた本末転倒の経営が、現場との溝を生んでいる。
北海道は私鉄がなく、JRの代替交通機関としてはバスだけだ。車を運転する者は別にして交通弱者と呼ばれるお年寄りや、通勤・通学に利用する者にとっては、移動手段=交通権をJRに委ねているにも関わらず、それをまっとうできない経営幹部であれば、鉄道事業者としての資格がないといえる。
人心一新。歪んだ企業風土を改めさせるには、これを機会に、JR北海道の病巣の「膿」をすべて出し切らなければ、崩れ去ったJR北海道の信頼を回復するのは難しい。
(2013年10月3日)
http://www.jrcl.net/frame131014e.html
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