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日本の農業は決して過保護ではない。にも関わらず、日本は諸外国の圧力にさらされている。そして、日本政府は外圧に対して弱腰である。
いかにこの圧力を弾き飛ばすか、そのための戦略が必要だ。
『月刊日本』10月号
鈴木宣弘「農業は過保護ではない」より
http://gekkan-nippon.com/?p=5628
日本の農業は決して過保護ではない!
── TPP推進派は「日本の農業は過剰に保護されてきたから、競争力がない。TPPに参加して、過保護な日本農業を競争にさらして強くすべきだ」などと主張している。
【鈴木】 とんでもない暴論だ。そもそも、日本の農業は過剰な保護などされていない。TPPによって利益を得ようとしている一部の勢力が、意図的に「日本は農業鎖国だ、過保護だ」と主張しているに過ぎない。
アメリカでも、TPPで儲かるのはごく一部の人々だけだ。なぜそうしたわずかな人たちの利益が尊重されるのかを考える必要がある。アメリカでは、選挙資金がないと大統領になれない政治家、「天下り」や「回転ドア」で一体化している一部の官僚、スポンサー料でつながる一部のマスコミ、研究費でつながる一部の学者などか、「1%」の利益を守るために、国民の99%を欺き、世論を操作しているからだ。
日本でもまた、TPPで利益を得る一部の巨大企業の経営陣が、世論を操作しようとし、政治家も官僚もマスコミも研究者もそれに協力している。「今だけ、金だけ、自分だけ」という発想で、自らの目先の利益だけを追求するため、日本の農業の実態を捻じ曲げて批判している。国民はマインドコントロールされ、冷静な議論ができなくなっている。
わが国のGDPに占める農林水産業のシェアは1・2%。欧米各国は、これと同じくらいか、1%を下回っている。にもかかわらず、農業生産額に占める農業予算額は、わが国が3割を切っているのに対して、イギリスは約8割、アメリカは約6割と、わが国よりもはるかに大きいのだ。
農業所得に占める政府からの直接支払い(財政負担)の割合を見てもらいたい。日本は平均15・6%ほどしかないのだ。これに対して、フランス、イギリス、スイスなどの欧州諸国では90%以上に達している。
こう言うと、「日本の直接支払いが少ないのは、いまだ政府による価格支持に依存しているからだ」という反論が出るが、それも誤りだ。わが国は、農産物価格が低下したときに政府が買入れして価格を一定水準に維持する価格支持政策を率先して廃止した。
価格支持政策を温存しているのは、欧米諸国の方だ。欧米は価格支持政策から直接支払いに転換したと言われることがあるが、実際には価格支持政策に加えて直接支払いを行っている。つまり、価格支持政策と直接支払いとを併用し、それぞれの利点を活用し、価格支持の水準を引き下げた分を、直接支払いに置き換えているのだ。
── アメリカは農業の国際競争力があるから輸出国になり、100%を超える自給率が達成されていると認識されている。
【鈴木】 それは誤解だ。アメリカの自給率・輸出力の高さは、競争力のおかげではなく、手厚い戦略的支援の結果だ。
アメリカでは、農家が農産物を安く売っても増産していけるだけの所得補填がある。いくら増産しても、海外に向けて安く販売していく「はけロ」が確保されているのだ。アメリカは、ローンレートと呼ばれる農産物を担保とする融資単価に基づいて、農家が政府に穀物を質入れし、質流しを可能とする仕組みを導入している。市場価格がローンレートを上回ると、生産者は質入れしたコメを返してもらって市場で販売することができる。そして、市場価格がローンレートを下回ったままの時には、そのまま政府に引き渡して清算することできるという仕組みだ。それに加えて、輸出販売を促進するため、安い販売価格と農家に必要な価格水準(目標価格)との差額を不足払いする制度まである。
このアメリカの不足払い制度は、輸出向けの分については、明らかに実質的な輸出補助金だと考えられる。輸出補助についてはWTOルールで撤廃しなければならないはずだが、「お咎めなし」で放置されている。
アメリカの理屈は、不足払い制度は、国内向けにも輸出向けにも支払っているので、輸出補助金にはならないというものだが、これは詭弁だ。(以下略)
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