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いいデモだった!!
心から、そう思った。
いろんな人の涙に触れて、いろんな人の笑顔に触れて、そして私自身、何度も泣きそうになった。
それは9月22日、新宿で行なわれた「差別撤廃・東京大行進」。
「差別をやめよう」「仲良くしようぜ」と訴えるデモに、3000人が集結し、新宿・新大久保を練り歩いたのである。
在日コリアンの人たちが多くいる新大久保や鶴橋などで、少し前から民族差別の「ヘイトスピーチ」が繰り広げられていることはご存知のとおりだ。
「ゴキブリ」や「殺せ」といった聞くに堪えない言葉が公然と街に響きわたり、差別的な言葉の踊るプラカードが乱立する。デモ行進を行なっているのは、この連載の265回でも触れた「在日特権を許さない市民の会」をはじめとする団体だ。
「とうとうここまで来たか」というのが、動画を見ての最初の感想だった。そうして、このデモに出くわした在日コリアンなどの人たちの気持ちを思うと、絶望に似た気分が込み上げてきた。ある日突然、自分たちの住む街に、自分たちを「殺せ」と叫ぶデモ隊が現れたのである。その恐怖はどれほどのものだろう。もしかしたら「日本人」の多くがそんな考えを持っていると思うのではないだろうか――。何かしなくては。そう思いながらも、何もできないでいた。一方で、ここ最近、こういったヘイトスピーチに対して、様々な抗議行動が始まっていることも知っていた。が、私は現場に行けないままでいた。なんとなく、動画ではなく生でヘイトスピーチを見るのが怖かったのだ。何か、立ち直れないほどの衝撃を受けてしまいそうな気がしたのだ。
だからこそ今回、「差別撤廃」を掲げたデモという形で行動が開催されると聞き、「これは絶対に行かなくては!」と嬉しくなった。ヘイトスピーチへのカウンターという形での抗議はちょっと怖いけれど、デモだったら、大分敷居が低い。そうして午後一時前、集合場所の新宿中央公園に駆けつけ、目の前に広がる光景を見た瞬間、胸が熱くなった。
そこには、想像していたよりもずっと多くの人がいたからだ。
みんなが掲げるプラカードに踊る言葉は様々だ。
「仲良くしようぜ」「差別反対!」「愛し合ってるかい?」
そうしてデモの第一梯団は「スーツ隊」!
50年前、アメリカで人種差別撤廃を訴えて開催された「ワシントン大行進」へのリスペクトを込め、スーツを着てブラスバンドとともに行進する梯団だ。キング牧師による演説「I Have a Dream」で有名なワシントン大行進には、なんと20万人が参加したという。これによって、黒人差別が行なわれていたアメリカでは公民権法が成立。人種などによる差別が禁止されることになったという歴史的な大行進である。
そんな第一梯団のブラスバンド隊は総勢40人以上。サックスやクラリネット、ドラムによって奏でられるのは「自由への讃歌」と「We Shall Overcome」。
第二梯団は脱原発デモでおなじみのラッパー・悪霊さんやATS氏によるサウンドカー。「差別はいらない!」「仲良くしようぜ!」「一緒に生きよう!」「みんなで生きよう!」という声が街中に響き渡った。
そうして第三梯団のサウンドカーには5人のドラァグクイーンが乗車。ゲイやレズビアン、その他さまざまなマイノリティの人々によるプライドパレード系の梯団だ。鮮やかなドレスに身を包んだドラァグクイーンたちは「ぼくらはもうすでに一緒に生きている」というプラカードを掲げ、サウンドカーの上でポーズを決める。
そうして私たちは、「一緒に生きよう!」とコールしながら新宿、新大久保を大行進した。ヘイトスピーチによるデモが何度も行なわれていた新大久保にさしかかった時、ちょっと緊張した。このデモの趣旨が、正確に理解されるだろうか、と。
だけどデモ隊が新大久保に入った瞬間、そんな懸念は吹き飛んだ。笑顔でデモ隊に手を振ってくれる韓国料理店の人々。ピースサインを送ってくれる人。その中には、涙ぐんでいる人もいた。歌舞伎町では、黒人男性が満面の笑顔で手を振ってくれた。
デモの中盤、サウンドカーの上で、自身が過去「ネトウヨだった」という女性が泣きながら叫んだ。
「ヘイトスピーチをするよりも、自分の大切な人を大切にしよう!」
この日の打ち上げは、大久保の韓国料理店で行なわれた。
ちょうど打ち上げの最中にNHKのニュースでこの日のデモが報道された。
みんなでテレビの前に集まり、映像が変わるたびにあちこちから歓声が上がった。
なんだか、2011年4月10日の高円寺「原発やめろデモ!!!!!」を思い出していた。
あの日、私は「デモの力」と、そして「人間の善なる部分」を心から信じることができた。
差別をやめよう。仲良くしよう。一緒に生きよう。
訴えは、あまりにもシンプルだ。
でも、シンプルなことこそ、時にちゃんと訴える必要があるのだと、そう思った。
そうして3000人もの人が集まったという事実に、「みんなこういう機会を待ってたんだ」と心から嬉しくなった。
とにかく、2013年9月22日、ヘイトスピーチに対して、真っ向から差別撤廃を訴える「東京大行進」が行なわれた。
このデモの大成功は、歴史的なことだと思うのだ。
このデモにかかわったすべての人々、そして参加したすべての人々に、最大限のリスペクトを込めて。
差別撤廃・東京大行進!! の巻 雨宮処凛
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