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日経新聞の大林編集委員が珍説だと言っているのは、「年金の支給開始年齢を上げても年金の運営は楽にならない」というものである。
珍説と言われている考えの意図について、厚労省官僚は、「04年の年金改革法は保険料の上限を定めた。今後100年間の支給総額は入ってくる総保険料と積立金の範囲でやり繰りする。だから支給開始年齢の変更は年金財政に影響しない」と説明したそうだ。
それに対し大林編集委員は、「要は、100年の時間軸で入りと出が釣り合うようにするので、仮に支給開始を65歳から68歳に上げると、そのぶん年金の月額を増やすことになる、と言っているのだ」と補足の説明を加えている。
年金制度だけを考えれば、年金の支給開始年齢を引き上げることで運営が楽になったり、現役世代の保険料引き下げが可能になるかもしれない。
しかし、引き上げられた支給開始年齢まで雇用の継続が保証されなければ、年金ではなく生活保護を受給するようになる。そうなれば、支給の原資が年金なのか税金なのかというだけの違いであり、国民経済的には中立とも言える。
(実状は、低額の年金受給者よりも割り切って生活保護を受けるほうが受給額は多いから、このようなシフトはマクロ経済に中立とも言いきれない。また、年金も生活保護も絞り込んでしまうような無慈悲な“弱者非救済政策”をとれば、国内需要が大きく落ち込むことから、雇用が失われ、年金保険料の徴収額も減少する)
年金積立金も、現状はデフレだから盤石に見えるが、非正規労働者の増加などですでに取り崩しが始まっているなかインフレに転換すれば、既受給者に対する年金額の上乗せにより取り崩しが加速する可能性がある。金利や運用利回りがどの程度アップするかわからないが、取り崩しが多ければ、積立金の実質残高は現在想定されている推移よりも早く減少することになるだろう。
最悪は、インフレで年金支給額が加算され、それがインフレに拍車をかけてしまう悪性インフレ状況の出現である。
世界を先駆けている「超長寿国家日本」を円満に維持していくためには、供給力の維持と増強を図るしかない。
設備投資減税・研究開発費減税・固定資産減税・賃上げ減税などの「減税総動員体制」は、そのための施策だとも言える。
設備投資や研究開発費や供給力の増強であると同時に需要の増大でもある。
需要の増大を政策の中心におくのではなく、供給力の増強が即需要の増大になる政策を中心に据えることこそが重要である。
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[けいざい解読]年金支給年齢、引き上げ阻む珍説 政府変節、危機感薄く
人口学は人口構成を年齢別に3区分している。14歳以下が年少人口、65歳以上は老年人口、残りを生産年齢人口と呼ぶ。東京五輪の1964年、日本の総人口9700万人のうち26%を年少が占め、老年は6%だった。
2020年はどうか。国立社会保障・人口問題研究所は総人口1億2400万人、年少はその12%、老年が29%を占めると推計する。56年の歳月は少子高齢化の語感をしのぐ変化をもたらす。
こういう言い方もできる。若く安く豊富な労働力が成長をぐいぐいと引っぱった人口ボーナス期の64年五輪。働く世代の激減が成長の足かせになる人口オーナス期の20年五輪。オーナスは英語で重荷の意。元経済企画庁長官の田中秀征氏は「簡素」を20年五輪のキーワードに、と提案する。
20年に向け、首相は原発汚染水漏れの解決を国際公約した。国家財政の基礎収支を黒字転換させる国際公約の期限も、20年だ。そのとき日本人の約3割が年金をもらい、医療サービスを旺盛に消費している。社会保障給付の膨張を抑えつつ財源の工面に道筋をつけるのが、五輪成功の鍵のひとつかもしれない。
しかし年金や医療費を抑える姿勢が甘いのは政治の常。先月解散した政府の社会保障制度改革国民会議が首相に出した報告書に、その姿勢に調子を合わせるような新説が登場した。「年金の支給開始年齢を上げても年金の運営は楽にならない」。珍説といってもいい。
報告書を起草した山崎泰彦神奈川県立保健福祉大名誉教授に代わって厚生労働省年金局がそのココロを説く。「04年の年金改革法は保険料の上限を定めた。今後100年間の支給総額は入ってくる総保険料と積立金の範囲でやり繰りする。だから支給開始年齢の変更は年金財政に影響しない」
要は、100年の時間軸で入りと出が釣り合うようにするので、仮に支給開始を65歳から68歳に上げると、そのぶん年金の月額を増やすことになる、と言っているのだ。
ところが国民会議の議論の大元になった11年6月の社会保障・税一体改革成案は支給開始年齢について次の趣旨を記す。
▼欧米を参考にして厚生年金は67〜70歳に引き上げることを検討する
▼基礎年金を1歳上げるごとに毎年5千億円の国費を節約できる
これを書いたのも厚労省年金局。2年間に同省を変節させたのは何か。
ふたつ考えられる。まず与党の圧力。国民会議の関係者は「自公の関係議員が報告書に支給開始年齢を盛りこまぬよう会議事務局に求めていた」という。もうひとつは「支給開始年齢上げ=雇用延長」と捉える産業界の反対だ。本来、イコールではないのに雇用と年金に空白期をつくってはいけないという観念をもつ経営者は少なくない。
世界最高水準の寿命は日本人の誇り。なのに年金の支給開始は欧米主要国より早い。ここは人口統計を坦懐(たんかい)に見つめ直すときだ。
(編集委員 大林尚)
[日経新聞9月22日朝刊P.]
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