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大阪地検特捜部事件の関係者一覧
マスコミが報じない陸山会・虚偽報告書事件に対する隠ぺい捜査の実態とは(3)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/maedatsunehiko/20130924-00028245/
2013年9月24日 6時0分 前田恒彦 | 元特捜部主任検事
2日目の取調べは、昨年(2012年)5月9日の午前10時ころから始まった。
前日同様、取調べ室には中村孝検事と男性の若い検察事務官の2名。
この事務官は、中村検事の横に付かず、その後方やや離れた位置に一人でポツンと座っていた。
私が席につくと、中村検事は、「こんな感じで作ってみたけど、これでいいかな」と言って、既に供述調書用紙に印刷されている完成済みの供述調書をそっと差し出してきた。
1.供述調書の問題
作成方法の問題
そもそも供述調書は、
(1) 検察官が供述人である被疑者や参考人の目の前で供述調書に記録する彼らの供述内容を口頭で述べ、彼らにこれを聞かせつつ、その申立てに応じて臨機応変に追加訂正を行う
(2) この供述内容を検察官自らまたは取調べに立ち会っている検察事務官が供述人の目の前で順次パソコンのワープロソフトに入力する
(3) 最後まで入力が終わると、パソコンに接続されたプリンターを使い、供述人の目の前で入力済みデータを検察庁の供述調書用紙に印刷する
(4) 検察官は、被疑者や参考人に対し、この供述調書の記載内容を最初から最後まで読み上げて聞かせ、改めて耳で確認させる
(5) 検察官は、供述調書を被疑者や参考人に手渡し、彼ら自身にも最初から最後まで閲読させ、目でも確認させる
(6) 被疑者や参考人から追加訂正の申立てがあれば、これを供述調書の最終ページに手書きで記載するなどし、追加訂正を行う
(7) その上で、被疑者や参考人の署名や印を得る
といった流れで作成され、完成されなければならないというのがルールだ。
検察内では、(1)(2)(3)を「面前口授(めんぜんくじゅ)」と呼び、(4)を「読み聞け」と呼ぶ。
実際には(4)と(5)を一本化し、(1)(2)(3)の過程を経て完成・印刷された供述調書を被疑者や参考人に手渡し、彼らに閲読させつつ、検察官がパソコン画面上の供述調書の内容を読み上げ、目と耳で同時に確認させるといったやり方が取られることもある。
それでも、(1)(2)(3)の過程を省略することは許されない。
しかし、中村検事の作成した供述調書は、この(1)(2)(3)の過程のみならず、(4)の過程まで省略されていた。
明らかなルール違反であり、前日の取調べ後、この翌日の取調べまでの間に、私のあずかり知らないところで作文されたものにほかならなかった。
しかも、既に検察庁の正式な供述調書用紙に印刷し終えた「完成版」であり、大幅な追加や訂正など事実上不可能なものとなっていた。
供述調書の内容
私が前日の取調べで中村検事に供述した具体的な中身は、拙稿「マスコミが報じない陸山会・虚偽報告書事件に対する隠ぺい捜査の実態とは(2)」に記載しているとおりだ。
しかし、中村検事が作成した供述調書の内容は、私のナマの供述の中から検察にとって都合の悪い「起訴方向に傾く事実」を全て割愛する一方、検察にとって都合の良い「不起訴方向に傾く事実」だけをつまみ食いして強調するという、つぎはぎだらけのパッチワークにほかならなかった。
【田代政弘元検事について】
例えば、石川知裕氏らの逮捕状取得に際して田代元検事が作成したという「1通目の虚偽報告書」の件や、私が田代元検事を「黒」だと断じた点などは、全て割愛されていた。
そもそも中村検事による取調べの目的は、田代元検事らを不起訴とする際に目障りな小沢公判での私の証言を潰すためだった。
もし「1通目の虚偽報告書」に関する問題が検察審査会の目に触れれば、陸山会事件で当初から小沢一郎代議士を狙った違法不当な捜査が行われていたとの疑念が生じ、田代元検事に対して起訴相当の議決が下されることは間違いない。
しかし、この件は潰したくても潰しようがないし、捜査を進めていけば、かえって様々な不正事実が明らかとなり、「やぶ蛇」となる危険性が高い。
そこで中村検事が取ったやり方は、私から聞いた「1通目の虚偽報告書」の件を全て割愛し、証拠として形に残さず、検察審査会に提出する事件記録の上では完全に「なかったこと」にするというものだった。
このほか、私が東京拘置所で田代元検事とお互いの立会(たちあい)事務官を介して担当被疑者の供述調書のコピーを交付し合っていたといった具体的な情報交換の状況なども、全て割愛されていた。
その上で、田代元検事が告発されていた事件のうち、虚偽報告書の件については、私が陸山会事件の捜査応援を解除された後に作成されているものであり、私は何も事情を知らないといった整理の仕方がなされていた。
また、偽証の件についても、拘置所で配布されていた資料のうち、田代元検事が具体的に何を見ていたのかまでは私には分からないといった、まさしく詭弁にしかすぎない整理の仕方がなされていた。
【田代元検事の元上司について】
田代元検事の元上司らに関しても同様であり、私が供述した「取調べメモ」の件は完全に割愛され、中村検事が私に対して70通の取調べメモを示したことなど「全くなかったこと」になっていた。
石川氏の弁護人によるクレーム申入れの件についても、私が述べた取調べの違法不当性などに関する部分は全て割愛され、他方でクレーム申入書が1通しかなく、その内容も取調べの全面録音録画を求めるといった一般的な記載にとどまるものだったという点がことさら強調されていた。
その上で、田代元検事の元上司らに対する告発事実を「無理筋」だと述べる私の単なる所感が念入りに強調して供述調書に記載されていた。
また、従前から検察では弁護人のクレーム申入書や取調べメモを事件記録とは別に綴って保管するといった取扱いが行われてきたという点も、それらの書類を悪意に基づいて事件記録から外したとまではいえないという論理に結びつき、同じく不起訴方向に傾くので、強調して記載されていた。
2. 中村検事との約束
呆れたことに、供述調書の最終段落には、「このほかに申し上げることは何もありません」といった趣旨の記載があった。
私が中村検事にそうしたことを述べた事実は一切なく、中村検事の完全なる作文にほかならなかった。
中村検事があえて供述調書の最終段落にそうした作文を盛り込んだのは、前日の取調べで私から聞いていた「1通目の虚偽報告書」の件など、不起訴を目論む検察にとって明らかに不利で目障りとなる様々な事実を私から「聞かなかったこと」にし、事件記録の上では「なかったこと」にするためにほかならなかった。
私は、中村検事が田代元検事らを不起訴とするため、実に細かい点まで配慮して上手く作文しているなと妙に感心し、「こんな紙切れなんかどうとでも作れるでしょうが、田代君は一生苦しむことになるでしょうね」と言った。
田代元検事らを全員不起訴にするという検察の強固な意思は火を見るより明らかであり、割愛された様々な重要事実の追加や訂正を求めたとしても、時間の浪費に終わるだけだった。
そこで私は、中村検事と「ある約束」をした上で、供述調書にそのままサインすることとした。
その約束とは、供述調書の存在や内容をマスコミに対して絶対にリークしない、というものだった。
小沢公判での私の証言は少なからずマスコミの注目を集めていたことから、検察がこの供述調書の存在や内容をマスコミにリークして大きく報道させ、不起訴の方向付けに使おうとすることが予想された。
しかし、この供述調書は私の真意に沿ったものではないし、私の供述を正確に記載しているものでもなかった。
供述調書にサインするとしても、リーク報道によってあたかも私の真意に基づく正確な内容のものであるかのように宣伝されることだけは絶対に避けたいとの思いだった。
こうした事情は中村検事もよく理解していたことから、検察内部でこの供述調書を慎重に取り扱い、マスコミにも絶対にリークしないとの約束に応じた。
それでも私は、私の真意に沿った供述調書ではないということを形に残しておくため、サインの際、署名の文字を雑なものにしておいた。
中村検事は、私が供述調書にサインしたことから、ホッと安堵した表情をしていた。
3. 大阪地検特捜部に対する捜査との対比
私は、中村検事が田代元検事の取調べを担当しているとのことだったので、「記憶の混同」などという子供じみた弁解に終始する田代元検事に対してどのような取調べを行い、検察がどのような態度で臨んでいるのかを尋ねた。
この中村検事は、私が2010年9月に大阪地検特捜部の証拠改ざん事件で逮捕された際、私の取調べを担当した検事だった。
私は、逮捕後の約1週間、私の元上司で犯人隠避罪に問われていた大坪弘道氏や佐賀元明氏をかばい、その関与を事実上黙秘し、いかなる調書の作成をも拒否していた。
これに対し、中村検事は、様々な言葉で私の説得を試みた。
例えば
●最高検は本気であり、徹底的にやる
●組織的な関与がうかがわれる状況で、中途半端には終われない
●君1人の起訴でハイ終わりということだと、世間は納得しないし、検察への信頼は取り戻せなくなる
●組織の中にウミがあれば、全部出しきって真の検察改革をし、国民の信頼を取り戻したい
●誰かをかばうとか、自分1人で全部背負っていくというようなバカな考えはやめた方がよい
といったものだった。
私はこの言葉を信じ、私の事件を真の検察改革の契機としてもらいたいとの思いから、大坪・佐賀両氏の関与を正直に供述するとともに、勤務地や上司、先輩、同僚、後輩を問わず、私が約15年間の現職時代に様々な場面で実際に見聞きしてきた検察官や検察事務官らによる不正事実について、関係者の実名を挙げ、詳しく述べた。
中でも、特に違法・不当性が高いと思われる4つの案件については、A4のコピー用紙と黒色ボールペンを借り、各案件ごとにその概要を実名入りの図面などにまとめ、念入りに説明した。
しかし、中村検事もその報告を受けた最高検も、大坪・佐賀両氏を逮捕起訴するのみで、厚労省虚偽証明書事件以外の他の検察官らによる不正事案を黙殺し、その捜査を一切行わないまま、「大阪特有の問題」という絵を描いて騒動の沈静化や幕引きをはかろうとした。
そればかりか、後で分かったことだったが、中村検事は私が取調べの中で手書きで作成した図面などを全て廃棄し、証拠隠滅に及んでいた。
これが最高検による捜査の実態だった。
中村検事は、私が田代元検事に対する取調べ状況などを尋ねると、「田代君がそういう説明をする以上、仕方がないよねぇ」と言って、ニヤリと笑みを浮かべた。
田代元検事に動機や背景事情などを語らせるつもりなど一切なく、真相解明を放棄した後ろ向きの姿勢であることは明らかだった。
これが私に対して「最高検は本気であり、徹底的にやる」「組織の中にウミがあれば、全部出しきって真の検察改革をし、国民の信頼を取り戻したい」などと言い、世話になった大坪・佐賀両氏を刺すように迫った人間の態度かと思うと、改めて失望を禁じえなかった。
4. 偽装工作
午前10時から始まった取調べは供述調書のサインなどを経て遅くとも昼食時間の午前11時30分には終わったが、取調べは引き続き午後1時ころから午後4時30分ころまで行われた。
といっても、大坪氏らの公判や小沢公判における私の証人尋問調書のコピーを渡され、取調べ室でこれをただ黙々と読むだけであり、何か新たな事情を聞かれるといったことは一切なかった。
これは、記録に残される見かけ上の取調べ時間を長くすることで、その日の供述調書が時間をかけて正式な作成プロセスの下できちんと作成されたものであるということを装うための偽装工作にほかならなかった。
5. 中村検事が犯した罪
中村検事は、陸山会・虚偽報告書事件の捜査主任として田代元検事らに対する捜査を取りまとめ、その処分を決する立場にあった。
にもかかわらず、田代元検事らを不起訴にするため、「1通目の虚偽報告書」の件など田代元検事らにとって不利となる犯罪事実を捜査せず、証拠に残さずに闇に葬り去り、逆にあえて不起訴に傾く事実のみを記載した供述調書を作文するなどし、実際に田代元検事らを不起訴とした。
大坪・佐賀両氏を起訴した最高検の論理を前提とすると、少なくとも犯人隠避罪が成立するだろう。
しかし、この事実はいくらでも弁解が可能だ。
むしろここでは、供述調書の作成過程という形式面に注目したい。
すなわち、中村検事らは、私がサインした供述調書につき、その末尾に「供述人の目の前で、上記のとおり口述して録取し、読み聞かせ、かつ、閲読させたところ、誤りのないことを申し立て、末尾に署名指印した上、各ページ欄外に指印した」との記載をしている。
この記載は、公文書である供述調書の一部をなすものであり、供述調書を作成するにあたり、面前口授や読み聞け、閲読といった正式プロセスを経てきちんと作成された信用性の高いものであるということを示すためのものだ。
しかし、この記載部分は全くの虚偽にほかならず、このことは中村検事もよく分かっていたことだった。
したがって、この記載部分に関して虚偽公文書作成罪が成立することは間違いないし、その記載が真実であるかのように装って他の事件記録とともに検察審査会に記録を交付し、11名の審査員らを騙している以上、行使罪も成立することとなる。
なぜ中村検事が安易にこうした犯罪行為に及んだかであるが、そもそも証拠改ざん事件の捜査過程においても、私の供述調書を作成する際、面前口授や読み聞けなどを一切行わず、他方でいずれの調書にもこれをきちんと行ったかのような虚偽の記載を繰り返すなどしており、常態化していたからにほかならなかった。
この点、田代元検事が作成した虚偽報告書の場合、上司らの添削があったとしても、基本的に田代元検事が1人で作成し、彼だけが作成者として署名押印する体裁となっていたので、「記憶の混同」という自己完結型の弁解を覆せないという結論となった。
これに対し、供述調書の場合には、検察官のみならず検察事務官も作成関与者として署名押印していることから、私がサインした供述調書の作成過程に関する虚偽性についても、私のほか、取調べに立ち会っていた東京地検の検察事務官が証人となる。
検察による隠ぺい捜査の実態が少しでも明らかとなるか否かは、検察色に染まりきっていないこの若い事務官の正義感や人間性にかかっていると言っても過言ではないだろう。
前田恒彦
元特捜部主任検事
1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。獄中経験もあり、刑事司法の実態や問題点などを独自の視点でささやく。
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