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もともとネットで使われていた「ブラック企業」という言葉を、政治家やニュースキャスターが普通に使うようになった。そのきっかけの一つといえるのが、昨年11月に発売され、大きな反響を呼んだ新書『ブラック企業〜日本を食いつぶす妖怪』だ。
その著者である今野晴貴さん(NPO法人POSSE代表)が、9月5日に開かれたブラック企業被害対策弁護団のシンポジウムに登壇し、ブラック企業について語った。そのなかで、なぜ「ブラック企業」という言葉が生まれ、どのように広がっていったのかを説明したくだりが印象的だったので、ここで紹介したい。【取材・構成:亀松太郎/辻翔太】
IT企業では正社員として採用されても、「35歳定年」と言われていた
「ブラック企業」という言葉自体はスラング、単なる悪口なので、それ自体になにか明確な意味があるわけではありません。しかし、なぜその悪口が出てきたのか。そして、なぜこの悪口が無視できないようになってきたのか。なぜ政府がブラック企業の対策をするというところまできたのか。
「ブラック企業」という言葉には、それが生まれてきた背景があります。ある種の社会的な問題が存在します。どこから出てきたかというと、IT労働者たちが2000年代半ばに使い始めた言葉です。
では、なぜIT労働者たちは「ブラック企業」という言葉を悪口として書き始めたか。彼らは正社員として採用されているのに、35歳定年と言われていました。IT企業では、体がボロボロになって、やめるしかなくなっていく。長期雇用ができない状態でした。こういう働き方は、いわゆる「日本型雇用」ではありません。長期雇用でもなければ、安定雇用でもないという正社員のあり方は「ブラック」じゃないか。そういうことから、「ブラック企業」という言葉が出てきたんです。
この言葉はその後、就職活動生たちが使って、世の中で急激な広がりを見せました。就職活動生たちは「就職しても、ボロボロになってやめざるをえない会社があるらしいぞ」と恐れて、「ブラック企業」という言葉を使いました。
では、そういう企業というのは、どこに広がっているのか。考えてみると、ITというのは新興産業です。ここには、労使関係は成立していないんですね。昔からある製造業のように、労働組合があって、労使関係があり、労務管理のあり方が決まっていくという「日本型雇用」が、確立していない産業です。
ここでは「正社員」といっても、製造業とは全く意味が違います。今までの正社員の意味ではない。新興産業や外資、介護や保育といったところ。急激に成長している産業で、経営者たちは人事・労務についてろくに知らない。労働法も知らない。日本型雇用なんて守る気がない。そういう企業が新興産業のなかでどんどん広がっている。
こういう企業に入ると、使い潰されてやめさせられてしまうぞ――就職活動生たちはそう恐れて、「ブラック」「ブラック」と書き始めたわけです。それがネットスラングとして広がっていった。これは、労働組合や労働研究者の人たちがこれまで見てきた世界とは全然違っていました。労働研究者も、組合が組織されている企業しか調査できなかったので、そういうところで見えている問題とはミスマッチが生じていました。
新興産業では「正社員」のあり方が従来型企業と全然ちがう
「ブラック企業」は新興産業なので、その実態が調査できていなかったんです。労働研究者は、自分たちから見える昔ながらの企業とのアナロジー(類比)で新興産業の企業を見ていたから、全然問題を発見できなかったんです。労働研究者が見ていたのは、10人必要なら10人をきっちり採るような企業です。ここだと、1人辞めると大変な問題になってしまう。だから、離職率の高まりというのは、若い人の選り好みで、企業が困る問題だと見えていたんです。
ところが、ブラック企業では、100人が必要なところに200人も300人も採用して、使い潰して、また採る。こういうことをやっていて、従来型の企業とは全然違う。結局、ここでの問題はどこにもすくい取ってもらえないので、IT労働者たちはネットに「ブラック」「ブラック」と書くしかなかったんですね。
この「ブラック企業」という言葉の背景にあるのは、新興産業では正社員のあり方がまったく変わってきているということです。企業に育ててもらおうと思って入ると、すぐ使い潰されてしまう。こういうことが日本の中で、知らない間にすごい勢いで広がっていたんです。若い大卒の新入社員を入れて、使い潰して、うつ病にまでさせてしまうということが繰り返し、繰り返し、ある種の戦略として行われるようになりました。
「グローバル競争が厳しいんだ」とか「不景気だから」とか、よく言われますが、全然違うんですね。ブラック企業というのは、好業績企業なんです。利益を出すためにやっている。最初から使い潰すつもりで、たくさん採用する。こんなことが、かつて行われていたことがあっただろうか・・・ないわけです。こういうことは国家的な問題です。だから、厚生労働省も政府も、見過ごすことができないという事態になっていったわけです
これからどのように対策を進めていくべきなのかということに関しては、この「ブラック企業」という言葉の震源地をよく捉えて、的確に他の問題に広げていくことが大事なんだと思っています。
たとえば、「過労死」という問題。これは昔から日本にある問題ですが、その延長線上に「ブラック企業」というもっと凶悪な形態が表れているといえます。また、学校教育についていえば、労働法をきちんと教えないで、とにかく企業に入るれば大丈夫なんだという教育をやってきたのが、いまの帰結でもあるわけです。そうすると、教育のあり方も変えていかないといけない。
こういう周辺のいろいろな問題をつなげて、問題提起を行って、社会問題としての輪郭をはっきりさせていくことが、「ブラック企業」問題について、政府に対策をうながしていくためのカギだろうと思っています。
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