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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130910-00000000-bshunju-pol
文藝春秋 9月10日(火)10時32分配信
異例の長期休暇を満喫した安倍が見上げた夏空には、雷鳴が轟いていた。
◇ ◇
8月23日夕、東京都庁で行われた「2020年東京オリンピック・パラリンピック招致出陣式」。
首相・安倍晋三は冒頭、約800人の出席者の前で熱弁をふるった。
「1964年の東京五輪招致が決定したのは59年だった。当時は敗戦から14年。日本は貧しかったが、みんなの燃えるような熱意が、成功につながった」
59年に誘致成功した時に首相だったのは安倍の祖父・岸信介。祖父に憧れを抱き、足跡をたどりたいと思う安倍にとって五輪招致は悲願だ。前日に発表された世論調査では「東京五輪開催が好ましい」と答えた人は92%にのぼっている。アベノミクスの「3本目の矢」とした成長戦略に迫力を欠き少々苦戦している今、五輪招致こそ、さらに支持を広げ、景気を刺激し、長期政権を築く矢となると思っている。
この後、壇上に上った元首相の森喜朗が「(支持率)92%。安倍さんもうらやむ数字だ」と、安倍の胸の内を見透かしたようなジョークを飛ばすと、場内からは笑い声が起き、安倍も苦笑してみせた。
安倍は表面上は、余裕に満ちた夏を過ごした。山梨県鳴沢村の別荘を拠点に、たまに公務を交えながら10日以上の休みをとり、6回ゴルフを楽しんだ。ただ、そこから漏れて来る肉声は、余裕綽々とは程遠いものだった。
例えば8月14日夜。安倍は東京・紀尾井町のホテルニューオータニ「なだ万本店山茶花莊」で官房長官・菅義偉、元自民党幹事長・中川秀直、シダックス最高顧問の志太勤らと会食。消費税増税や規制緩和が話題となった。
中川と安倍は、微妙な関係だ。第1次安倍政権で中川は党幹事長として安倍を支える立場だったが、しだいに安倍側近たちとの確執が目立つようになった。2007年の参院選で自民党が敗北すると、中川はいち早く安倍の辞任を迫る側に回った。この時は、当時外相だった麻生太郎らが安倍を守ったため当面続投となったが、安倍の心中には中川に対するわだかまりが残った。
過去の恩讐を超え、中川の意見に耳を傾ける機会をつくったのは、消費税増税の是非について、悩んでいるからだ。
中川は「上げ潮派」の代表格で「増税するより凍結して税収増を図るべきだ」という考え。14年4月に8%、15年10月に10%という増税を前提に政治日程が進む中、安倍は反対派の意見にもできるだけ耳を傾けようとしている。まだ熟慮中であることを内外に示すメッセージでもある。
中川は「日本と国民生活のために最善の決断をしたら応援するから、しっかり頑張ってください」と声をかけると、安倍は中川の話を聞きながら「(消費税増税の決断は)最大の問題だ」と語った。
安倍は自民党内では消費税増税には慎重な部類に入る。だが政治論では、上げない手はない。常識的には今後、3年間、国政選挙はない。民主党政権時に増税法が成立したことも、自民党にとっては格好の「弾よけ」になっている。まさに「いつ上げるか。今でしょう」だ。
安倍は26日、訪問先のクウェートで同行記者らに「秋に適切に判断する」とだけ述べた。それまで真意は明かさず、熟慮する。ただ、この戦術は正しいとは言い難い。増税は確定したものとあきらめていた国民が、慎重な言い回しの安倍を見て「上がらないかもしれない」という期待を抱いてしまったからだ。世論調査でも増税反対論が増えている。「寝た子を起こした」ようなものだ。
他方、増税しない時のリスクも大きい。財政再建を求める国際社会の非難も受け、国債が暴落する可能性もある。さらに消費税増税に執念を燃やす財務省と、増税を既定路線とする“盟友”麻生太郎財務相との関係も微妙になる。安倍は財務省の力を体感している。第1次安倍政権は、官邸主導を強く押し出し、財務省としばし緊張関係にあった。安倍によって政府税調会長に指名された本間正明が、公私混同ととれるスキャンダルで辞任に追い込まれたのは、財務省が仕掛けたと疑う自民党議員は、今も少なくない。
8月11日。安倍は、消費税を来年4月から8%に上げず、1%ずつ上げるべきだという考えを示している内閣官房参与・本田悦朗(静岡県立大教授)と富士桜カントリー倶楽部でラウンドした。途中、雷鳴がとどろいた。それは安倍に対する財務省からの警告だったという笑えないジョークが永田町・霞が関では語られている。
安倍がこの夏、苦悩したもう1つの課題が、靖国神社への参拝問題だった。第1次政権の時に参拝しなかったのを「痛恨の極み」と表現してきた安倍。実は首相就任翌日の昨年12月27日に靖国参拝する準備を進めていた。この時は、政権発足早々に中韓両国と決定的な関係となるのを心配し、断念した。そして、ことし8月15日、安倍は三たび参拝を見送った。安倍にとって、さらなる「痛恨」だったことは言うまでもない。
この日午前、首相官邸前。安倍は記者団に「本日は国を思い、静かにこうべを垂れ、御霊をいたみ、平安を祈る日だ。国のために戦い、尊い命を犠牲にされた英霊に対する感謝の気持ちと尊崇の念の思いを込めて、萩生田(光一)総裁特別補佐に玉串を奉納してもらった」と説明した。
安倍は、萩生田には「私の靖国への思いは変わらないということを伝えてほしい」「本日は参拝できないことをおわびしてほしい」と伝えていた。
安倍としては中国や韓国、さらには東アジアの不安定要因を拡大したくない米国に配慮して参拝を見送った。だがそれで中韓との関係が雪解けに向かうわけではない。8月は、日本を含む東アジアにとって特別な月。報道も戦争体験者たちを語り部に、歴史認識をクローズアップする。政治家の発言一つ一つに厳しい目が向けられる。
側近の萩生田を使者としたことで「代理参拝」と受け止められ、新たな批判を生んだ。そして東京・九段で行われた全国戦没者追悼式の式辞で「不戦の誓い」に触れなかったことも波紋を広げた。
安倍の演説は周辺や官僚が書くが最後は、安倍が詳細にチェックする。東京・富ケ谷の私邸で夫人・昭恵を前に読んで聞かせることもある。だから安倍の発言が物議をかもす時は確信犯であることが多い。
結局、安倍はこの夏、自らの思いを遂げることも、中韓との関係を修復することもできなかった。
――(2)に続く
「寝た子を起こした」消費税論議(2/2)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130910-00000001-bshunju-pol
文藝春秋 9月10日(火)10時32分配信
副総理兼財務相になった麻生も「得意」の失言で物議をかもした。7月29日、改憲に絡み戦前ドイツのナチスを引き合いに「あの手口を学んだらどうか」と言い放ったのだ。
麻生の失言癖は、今さら説明するまでもない。菅官房長官も官房副長官・世耕弘成も「麻生リスク」に神経をとがらせる。だが、今回の失言は質が違う。ユダヤ人団体を敵に回す発言だからだ。国際社会に強い影響力を持つユダヤ人社会を敵に回してはいけないということは政権中枢に身を置いた人間なら誰でも意識する。ユダヤ人団体、ひいては米国を刺激しかねない発言に、官邸は慌てた。
野党が戦列を再整備できていないことや、本格的な国会論戦が10月までないなどの理由で「ゴングに救われた」感はあるが、麻生リスクは引き続き安倍政権のアキレスけんであることを、安倍は再確認した。安倍は夏休み期間中、麻生とはゴルフをしていない。
消費税や、東アジア情勢を考える時と違い、語り始めると安倍がハイになるテーマがある。集団的自衛権の行使を合憲とする憲法解釈の変更だ。
集団的自衛権の行使容認は、第1次安倍政権の時からの悲願だった。2007年、行使容認のお墨付きを得るための有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)を設置。報告書を受け取る段取りまで決まっていたが、その数日前に安倍が辞任してしまった。集団的自衛権の容認は、安倍にとってリベンジでもある。
安倍は駐仏大使だった小松一郎を内閣法制局長官に抜擢した。小松は国際法や安全保障に明るく集団的自衛権を容認すべきだという論文を書いたこともある。解釈改憲のための人事と言っていい。
法制局はこれまで、政府が都合のいい憲法解釈をするのに歯止めをかける役割を果たしてきた。安倍は「法の番人」のトップを変え「内閣の顧問弁護士」的な役割にしようとしているといえる。
もともと安倍は、憲法の改正要件を定めた96条を先行改正してから、9条を変えるというシナリオを持っていた。だが期待するほど国民の理解が広がらず、7月の参院選でも先行改正賛成派の日本維新の会、みんなの党を含めた3党で改憲発議に必要な「参院の3分の2以上」を確保できなかった。そこで浮上したのが解釈改憲。2つのシナリオは、本丸の9条改憲に向けて外堀を埋め、ハードルを低める発想が似ている。
解釈改憲を託された小松。安保問題については手堅い答弁ができるだろう。だが、法制局長官は安保以外の質問も飛んでくる。本来、内部昇格を信じて疑わなかったポストを失ったことで法制局内の小松への怨嗟もないわけではない。小松は孤立無援で国会を迎えることになる。総じて国際法の専門家は、国際法の方が憲法より上位にあるという発想を持ち憲法を軽視するところがある。失言がひと言でも出れば、国会は緊迫する。当然、野党側も小松の弱点をついてくるだろう。
解釈改憲をめぐるもう1つの火種は与党の一角・公明党だ。平和の党を標ぼうする公明党は、自衛隊の武力行使拡大には敏感だ。一時党名を「新党平和」と名乗っていたこともある。
党内には解釈改憲には反対論が根強い。安倍が押し通すなら連立離脱すべきだという強硬論もある。安倍の歯止め役となるか。追従して「げたの雪」と呼ばれるか。それとも連立を解消するか。公明党も正念場の秋を迎える。
8月8日、つまり小松に辞令を交付した日の夜。安倍は首相公邸に公明党代表・山口那津男、幹事長・井上義久らを夕食に招いた。安倍が「公明党のおかげで参院選はいい結果になった。自公が協力してやっていくことが国のためになる」と礼を言い、山口が「お招きいただきありがとう。しっかり……」と応じ、会食は始まった。2時間近くの会合で集団的自衛権の話は出なかったという。世間の耳目を集めた辞令交付直後の会合で話題にならないこと自体、双方がはれ物に触るように気にしていることがうかがえる。
安倍はその前日の7日に、官邸で幹事長・石破茂と会っている。その会合で安倍は、集団的自衛権の行使容認を中心とした安保問題についての意欲を繰り返した。「軍事オタク」と揶揄されつつも安保政策では党内随一と自負する石破が、気後れするほどの迫力だった。
石破にとって、首相が安保に関心を持つことは悪いことではない。ただ、与党内の要として日々公明党と接触している石破は、安倍と公明党の温度差にたじろいだのだった。
■「時は我々にあらず」
一見、盤石に見えながらさまざまなところでほころびの見える安倍自民党。だが、野党側はどの党も自民党以上に深刻な内部分裂を抱えている。
民主党は代表・海江田万里が都議選、参院選の惨敗の責任を取ることなく続投する。参院選では幹事長として全国を飛び回っていた細野豪志は退き大畠章宏が後任に。参院会長は、副議長になった輿石東の影響を受ける郡司彰が就いた。
民主党政権をけん引してきた元副総理・岡田克也、前首相・野田佳彦、元外相の前原誠司、玄葉光一郎、元経産相・枝野幸男、元財務相・安住淳の6人が謹慎中という事情はあるが、あまりに発信力が弱い執行部の顔触れだ。
六人組は8月6日、酒を酌み交わした。彼らの後見人でもある京セラ名誉会長・稲盛和夫も来た。「君ら中心に党を再建してほしい」という稲盛に、6人はうなずきつつも「時は我々にあらず」という言葉が漏れた。
他の野党も内向きの戦いが続く。みんなの党では7日、幹事長・江田憲司が代表・渡辺喜美によって更迭された。江田に近い衆院議員・柿沢未途は渡辺から離党勧告を受けて、党を去った。いい意味でも悪い意味でもこの党はオープンだ。記者会見やツイッターで赤裸々に泥仕合の模様を「実況」。江田の更迭、柿沢の離党は「公開処刑」のような後味の悪さを残した。
維新も東京と大阪のにらみ合いが続く。維新は地域政党・大阪維新の会に国会議員の所属を可能にするようにした。理屈はさておき、将来、大阪出身議員だけが分党する布石と受け止められている。
安倍は13日、お国入りし山口県萩市で吉田松陰の墓にお参りした。墓前で「秋にも、さまざまな難しい判断をしますが、間違いのない正しい判断をしていく」と誓った。
今の野党の状況を見る限り安倍が判断を間違えなければ長期安定政権を築くのはたやすいように見える。しかし消費税、集団的自衛権の行使容認、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉など日本の針路を左右する課題で正しい判断をするのは容易ではない。これまでの政権の崩壊の過程をみると、野党に倒される例はほとんどなく、自分たちの判断ミスやスキャンダルで転げ落ちていくことが多いことも、また事実である。(文中敬称略)
(文藝春秋2013年10月号「赤坂太郎」より)
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