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Re: マスコミが報じない陸山会・虚偽報告書事件に対する隠ぺい捜査の実態とは-前田恒彦元特捜部主任検事-(関連情報)
http://www.asyura2.com/13/senkyo153/msg/531.html
投稿者 小泉犬 日時 2013 年 9 月 08 日 11:00:48: tZgj1vEYtfiSU
 

(回答先: 田代元検事の告発状の受理が意味すること 投稿者 小泉犬 日時 2013 年 9 月 08 日 10:50:23)

マスコミが報じない陸山会・虚偽報告書事件の背景とは

前田恒彦 | 元特捜部主任検事
2013年7月7日 6時56分

1 東京拘置所

私は、平成22年1月から2月にかけ、大阪地検特捜部から東京地検特捜部の応援に入った。担当は大久保隆規氏の取調べ。小沢一郎衆議院議員の公設第一秘書で、資金管理団体・陸山会の会計責任者。東京事務所を統括し、業者の陳情窓口も務めていた。

他方、東京地検特捜部に所属していた田代政弘元検事は、同様に東京拘置所に詰め、石川知裕氏の取調べを担当。石川氏は衆議院議員に転身していたが、小沢議員の元秘書であり、陸山会で経理事務を担当していたキーパーソンだった。

田代元検事と仕事をするのは初めてだったが、飾り気のない性格であった上、後輩とはいえ検事任官の期が近かったこともあり、私が拘置所に詰めるようになった初日から、何かと気さくに話すようになった。取調べ室や検事・事務官の控え室がある区画は、拘置所の中でも何段階もの施錠がなされている閉ざされた空間。逮捕勾留された被疑者の取調べを担当する検事・事務官らは身柄班と呼ばれ、朝は時間を合わせて東京拘置所に出勤し、そろって事務棟に入り、夜も同じく時間を合わせてそろって帰る。食事も拘置所内で一緒にとる。長い時間を共に過ごすことで、次第に身柄班としての一体感も生まれていく。

私と田代元検事は、大久保氏や石川氏に小沢議員の関与を供述させるとともに、水谷建設などの業者から多額の裏金を受領したとの事実を認めさせるという極めて難易度の高い任務を課せられていたが、うまく進まず、共に苦労していた。小沢議員の立件を目論む最高検の一部からは、「具体的な供述の中身はいいから、とにかく『小沢の指示で』という6文字を入れた調書を作り、なんとかして秘書に署名させろ」といったメチャクチャな指示まで下りてきていた。特に田代元検事は、検察庁のコンピュータ・ネットワークを使い、供述調書案の文書データをメール添付の形で捜査主任である木村匡良検事に上げていたが、木村検事からは石川氏が言いもしないことを赤字で追加されて返信され、石川氏から署名を得るようにと指示されており、その苦労は傍から見ていても並大抵のものではなかった。

私と田代元検事は、事務官を介して担当被疑者の供述調書のコピーを交付し合うなど、情報交換を密にしていたが、次第に胸を開くうち、供述調書に出てこない担当被疑者のナマの供述状況や、捜査に関する本音、愚痴などを語り合うようになっていった。

そうした中のある日、田代元検事から驚くべき告白を聞くこととなった。

2 告白

その告白は、東京地検特捜部が陸山会事件の強制捜査に着手した事情、特に石川氏を逮捕した背景を聞く中で出てきた話だった。田代元検事は、逮捕前から石川氏ら主要な関係者の取調べを任されるなど、東京地検特捜部の中核検事として重要な役割を果たしており、そうした事情を知る立場にもあった。


告白のポイントは、次のようなものだった。


(1) 田代元検事は、逮捕前に石川氏の取調べを行った際、その供述内容や態度、言動などを記載した捜査報告書を作成した

(2) 作成は、捜査主任である木村検事の指示によるものだった(この告白の際、田代元検事は木村検事のことを「キャップ」と呼んでいた)

(3) 捜査報告書は、逮捕状の取得に際し、裁判所に提出された証拠の一つだった

(4) しかし、その内容は、「逮捕の必要性」を強調すべく、実際には石川氏に「自殺のおそれ」をうかがわせる言動などなかったのに、そうした言動があったかのように記載するなど、事実と異なる虚偽のものだった

取調べ状況や供述概要などを記載した捜査報告書は、供述調書と異なり、供述者に対して内容の確認を求めることはなく、そのサインも必要ない。供述者が全く関知しない中、捜査機関だけで作成可能なものだ。田代元検事のやり方は、この捜査報告書の性格をうまく利用したものだった。

また、「逮捕の必要性」を強調することは、石川氏が衆議院議員という「何かと気を使わなければならない立場」に転身しており、検察内部ですら逮捕に後ろ向きの意見が出ているなど、逮捕状取得が困難な中、これを容易にさせることを狙ったものにほかならなかった。こうした虚偽報告書など、検察の内部決裁を通し、裁判所から逮捕状を得るためだけに使う資料にすぎず、公判で有罪立証のために使うものではないから、それこそ逮捕状を取得した後にシュレッダーにかけて廃棄してしまえば、何の証拠も残らない。

田代元検事は、この告白の際、本心では逮捕に反対であり、嫌なことをやらされたといった言い方をしていた。私は、彼が検察組織の中で無理な仕事を押し付けられ、様々な重圧を感じる中、最終的には組織の論理を優先し、闇に堕ちてしまったのだと分かった。

私は、これに先立つ平成21年7月、大阪地検特捜部で捜査主任を務めていた厚労省虚偽証明書事件において、証拠物の改ざんに手を染めていた。そんな私に彼を弾劾する資格などないことは明らかだった。私には彼が再び同様の行為に出ないことを願うしかなかったが、彼の告白は私の心の中にいつまでも「渦」として残ることとなった。

3 2通目の虚偽報告書

平成22年2月に大久保氏、石川氏らを起訴し、小沢議員を不起訴とした陸山会事件。翌23年1月に至り、今度は田代元検事の存在がマスコミで大きく取り沙汰されるに至った。検察審査会による起訴相当議決を受けて行われた平成22年5月の再捜査で、田代元検事の取調べを受けた石川氏が、その状況を「隠し録音」していたのだ。

他方、田代元検事は、取調べ直後、その際の石川氏の供述内容などを記載した捜査報告書を作成していた。しかし、その内容は、客観的な録音状況に反する虚偽のものだった。そればかりか、真実を記載した証拠の一つとして検察審査会に提出された上、大久保氏や石川氏らの公判でも弁護側に証拠として開示されていた。

確かに、検事も人の子であり、間違いはあるが、それにも自ずと限度がある。東京地検特捜部で政治家や官僚の立件を目指す班は「特捜部の中の特捜部」とも呼ばれる。班員は精鋭中の精鋭ぞろいだ。約3〜4か月前の取調べにおけるやり取りと、ほんの数日内の取調べにおけるやり取りとを混同することなど、絶対にない。

特に捜査報告書は、取調べ中に検事がノートなどに手書きで記載する「取調べメモ」と異なり、作成者の官職名を記載した上で署名押印をし、公文書として完成させるものであり、その記載内容には慎重の上にも慎重を期す。被疑者や参考人の供述内容を「一問一答形式」で記載するような場合は、なおさらだ。

確かに捜査報告書の中には、何日分かの取調べにおける被疑者や参考人の供述内容を整理し、一通にまとめるというものもある。それでも、数カ月前の取調べにおけるやり取りと、数日内の取調べにおけるやり取りとを混在させるような大雑把な報告書などあり得ない。もしそうした内容であれば、誤解を招かないように、いつからいつまでの取調べの内容をまとめたものなのか、日時などを明確に記載する。検事にとって常識の話だ。

そればかりか、問題とされている捜査報告書は、その体裁・内容からも虚偽であることが明らかだ。「捜査報告書作成時点の直近に行った取調べの中での供述」という前提で、その内容を一問一答形式を用いて具体的詳細に記載しているからだ。

この虚偽報告書は、小沢議員への報告とその了承を認めた石川氏の供述調書の信用性を格段に高めるものだった。検察が全国から多数の応援検事を投入して捜査を進めたものの、小沢議員を起訴できずに終わった陸山会事件。既に検察審査会が1度目の起訴相当議決を出しており、全く同じ証拠関係でも2度目の起訴相当議決が出され、強制起訴に至る可能性の高い中、田代元検事の虚偽報告書があれば、この判断を後押しする方向に働くことは明らかだった。

ここで思い起こされるのが、田代元検事から告白されていた逮捕前の虚偽報告書の件だ。供述者に内容確認やサインを求めず、捜査機関側の独断で作成可能な捜査報告書の性格を逆手に取るという点で一致していたし、その狙いも同様であり、基本的な構図は全く同じだった。

4 最高検の捜査

最高検は、弁護側から「隠し録音」を入手した早い段階で、再捜査時に田代元検事が作成した捜査報告書の内容が虚偽であることを把握していた。そのまま放置すれば、その文書データが消去されたり、口裏合わせに及んだり、関係者の記憶が徐々に失われていくなど、証拠が散逸するおそれが高い状況だった。しかも、虚偽報告書が実際に真正な証拠として使われ、検察審査会の起訴相当議決に影響を与えたという重大事案であり、陸山会事件の任意捜査から強制捜査、不起訴・再捜査に至る一連の捜査状況に問題はなかったかといった点についても、徹底的に捜査・検証する必要があった。

田代元検事が私同様に他の検事に何らかの告白をしていることもあり得たし、告白を聞いた人間がそれを一人で抱え込んだとも限らなかった。現に私は、田代元検事が私以外の検事にも同様の告白をしたと聞いているし、私自身も一人で抱えきれず、「陸山会事件に比べたら、厚労省事件なんか可愛いものだ」といった率直な感想と合わせ、複数の検事に告白の概要を伝えた。彼らはこれをメールのやり取りで残していた。田代元検事から告白を受けたとの私の話は、こうした客観証拠によっても裏付けられる事実にほかならなかった。

しかし、最高検は、田代元検事を逮捕するどころか、関係先の捜索すらせず、「記憶の混同」との田代元検事の弁解を十分に追及しないまま、絶対に真相を語らそうとしない捜査に終始した。そればかりか、捜査状況を小出しにリークすることで、処分前の早い段階から「不起訴やむなし」との方向付けすら行った。

確かに、田代元検事が起訴に至れば、小沢議員や石川氏らの公判は確実に吹き飛んだはずだ。また、大阪地検特捜部の証拠改ざん・犯人隠避事件を「大阪特有の問題」という構図で小さくまとめた手前、東京にも同様の根深い問題があるということだと、目も当てられなくなる。関係者も大阪の事案と比べものにならないほど多く、監督責任まで考慮すると幹部の首がいくつあっても足らないし、検事総長が2代続けて引責辞任するという事態にもなりかねない。検察は完全に瓦解する。

だからといって、捜査の手を緩め、田代元検事の口を閉じさせ、彼一人に「一生の重荷」を背負わせたままで終わるようであれば、検察に正義を語る資格などない。私は、古巣検察の凋落ぶりを横目で見つつ、内心は忸怩たる思いで一杯だった。しかし、当時の私は静岡刑務所で受刑中の身であった上、小沢公判で陸山会事件の捜査状況を包み隠さずに証言したことが裏目に出て、仮釈放による早期の社会復帰を閉ざされ、ことの真相を外部に明らかにする機会がなかった。

そうした中、満期釈放が約1週間後に迫った平成24年5月8日、虚偽報告書事件の捜査主任検事がやってきた。田代元検事らを告発した市民団体が小沢公判における私の証言を引用していることから、私の取調べを行うことになったとの話だった。田代元検事の取調べも主任検事自らが担当しているという。奇しくもその主任検事は、大阪地検特捜部の証拠改ざん・犯人隠避事件に際し、私の取調べを担当した中村孝検事その人だった。(続)


前田恒彦
元特捜部主任検事


1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。獄中経験もあり、刑事司法の実態や問題点などを独自の視点でささやく。

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**********


マスコミが報じない陸山会・虚偽報告書事件に対する隠ぺい捜査の実態とは

前田恒彦 | 元特捜部主任検事
2013年8月10日 6時58分


1.取調べに至る経緯

(1) 突然の来訪

昨年(2012年)の5月8日。

満期出所が1週間後に迫った私は、配役先の静岡刑務所・図書計算工場で担当刑務官らに謝辞を述べた後、釈放前教育用の独居房に移った。

ここは、教育ビデオを見たり、必要書類を作成したり、不要品を処分するなど、刑務所における最後の反省の時間を一人静かに過ごすところだ。

その矢先の午後1時すぎころ、「取調べだ」と言われて刑務官から突然呼び出され、事務棟にある取調べ室に向かうこととなった。

受刑者には事前に何の情報も伝えないというのが刑務所のルールだから、誰が何のために来たのか全く分からない。

すると、取調べ室には2名の男性がいた。

私のよく知る中村孝検事と、初めて見る東京地検の若い検察事務官だった。

(2) 検事の人物像

この中村検事は、検察の序列で言うと私の6期上であり、先輩に当たる。九州出身。細身だが、当たりは柔らかい。

東京地検特捜部にも通算で2年在籍し、元建設大臣による受託収賄事件など、著名事件の捜査に携わった経験もある。

また、国税や証券取引等監視委員会と並ぶ「特捜部の兄弟組織」の一つ、公正取引委員会への出向歴もある。

上意下達やストーリー先行といった「東京特捜方式」を十分に知り尽くした人物だ。

他方、青森地検弘前支部時代の武富士放火殺人事件や、東京地検本部係時代の押尾学事件など、特捜事件以外の一般事件の捜査主任も数多く務めている。

法務総合研究所で副検事や検察事務官の指導担当教官を務めたり、東京高検で裁判員裁判支援担当を務めるなど、異分野の経験も豊富だ。

ただ、関西での勤務はなく、「東京系」「東回り」などと呼ばれる検事の一人だったため、検察内で関西を拠点としていた私とは仕事上の接点がなかった。

(3) 検事との関係

では、なぜ私が中村検事のことをよく知っていたのか。

私が電撃逮捕された大阪地検特捜部の証拠改ざん・犯人隠避事件で、東京高検から最高検の捜査応援に入り、大阪拘置所に勾留されていた私の取調べを連日担当していたのが、中村検事その人だったからだ。

中村検事は、最高検・高検・地検と全ての担当業務を取り扱える併任辞令を受け、私の裁判に立ち会ったほか、現在も公判が続いている元大阪地検特捜部長らによる犯人隠避事件の裁判にも立ち会っている。

中村検事は、私の起訴後も、私と会うため、大阪拘置所や静岡刑務所に何度となく足を運んでいた。

これは、先ほどの犯人隠避事件で私が検察側の最重要証人だったため、補充的な取調べを行うとともに、いわゆる「証人テスト」の実施を主たる目的としたものだった。

しかし、そうした来訪も、私が元特捜部長らの裁判に証人として出廷した一昨年(2011年)が最後であり、昨年に入ってからは一度もなかった。

2.取調べの目的

(1) 市民団体の刑事告発

中村検事の話では、陸山会事件に関して市民団体が田代政弘元検事やその元上司らを刑事告発しているので、参考人として私の取調べを行いたいとのことだった。

田代元検事は、小沢一郎代議士の元秘書である石川知裕氏の取調べを実施した際、内容虚偽の捜査報告書を作成したとの事実や、その顛末に関して小沢公判で偽証したとの事実で告発されているという。

また、田代元検事の元上司に当たる当時の東京地検特捜部長や副部長、主任検事らは、検察審査会に事件記録を送る際に不起訴方向に傾く一部の証拠を隠して検察審査会を騙し、小沢代議士の起訴相当議決を導いたといった偽計業務妨害などの事実で告発されているという。

市民団体は、告発の根拠として、小沢代議士の裁判における私の証言を引用しているとのことだった。

これら告発事件全体の捜査を統括し、起訴・不起訴を決する主任検事を務め、かつ、一連の事件のキーマンである田代元検事の取調べを自ら担当していたのが、この中村検事だった。

(2) 人選に対する疑念

私は、中村検事の話を聞き、検察の人選には問題があると感じた。

というのも、この中村検事は、陸山会事件の捜査主任として市民団体から刑事告発されていた木村匡良検事と同期であり、以前から木村検事をよく知る人物だったからだ。

検察内の序列は任官の年次によって決まり、時として同期がライバルになることもあるが、むしろ同期というのは仲間意識の方が先に立つものだ。

これでは公平公正な捜査など期待できないし、仮に不起訴となった場合、間違いなくその妥当性に疑念を持たれる。

(3) 潰しの取調べ

私は、中村検事から来訪目的を聞き、同じ組織に身を置いていた者として、中村検事が「潰しの取調べ」に来たのだとすぐに分かった。

ここで言う「潰し」とは、起訴・不起訴いずれの場合にも使う検察用語であり、本来は裏付け捜査を徹底して行うといった意味だ。

しかし、それとは別に、既に起訴が事実上決まっている事件では無罪方向に傾く証拠を、逆に不起訴が事実上決まっている事件では有罪方向に傾く証拠を、文字通り「潰す」ということを意味する場合もある。

そもそも最高検は、弁護側から石川氏の「隠し録音」を入手した早い段階で、田代元検事が作成した捜査報告書の内容が虚偽であると把握していた。

しかし、田代元検事を認知立件せず、逮捕せず、関係先の捜索もせず、「記憶の混同」などといった子供じみた弁解をろくに追及しなかった。

最高検では、組織に与える影響の大きさを考慮し、この件を事件化せず、起訴しないとの方向性が事実上決まっていたからだ。

他方、私は、これに遡る一昨年(2011年)12月、小沢公判に証人として出廷した際、陸山会事件の違法不当な捜査の実態や、平然と証拠隠しに及んできた検察手法の問題点などを赤裸々に証言した。

これは、通常の刑事裁判と異なり、検察官役を務めていた指定弁護士がもともと刑事弁護の専門家だったため、彼らにとって有利不利を問わず、自由に証言させようとのフェアな態度で公判に臨んでいたことが大きく影響した。

ただ、私の証言は、田代元検事らを不起訴にしようと目論む最高検にとって、明らかに邪魔なものだった。

また、不起訴となれば、田代元検事らを告発した市民団体が検察審査会に審査の申立てをするから、将来の検審対策としても、絶対に私の証言を潰しておかなければならなかった。

ただでさえ不起訴処分を「不当」とされる可能性が濃厚の事案なのに、審査員が飛びつきそうな私の証言を潰さないままだと、それこそ検察にとって最悪の「起訴相当」という議決が下されるおそれが高まるからだ。

もっとも、私の証言は真実を語ったものであり、それは検察自身が一番よく分かっていることだ。

他方、検察は、元大阪地検特捜部長らの犯人隠避事件では、彼らを刺した私の証言を極めて信用性が高いものと位置づけている。

その手前、陸山会事件に関してだけ私を嘘つき呼ばわりし、私の証言を虚偽だと言いくるめることもできない。

まさにジレンマだが、そうすると、いかにして私の証言を潰すかが問題となる。

このような場合、検察がよく使う手は

・ Aという証言は、これこれという趣旨であり、Bを意味するものではない

・ Aについては分かるが、Bは分からないし、知らない

といった形で、証言の影響が及ぶ射程範囲をごく狭いものに限定してしまうというやり方だ。

告発事件は証言の射程範囲外にあるということにすれば、少なくとも告発事件との関係では私の証言を無意味ならしめることができるし、その信用性に踏み込んだ検討をする必要もなくなる。

(4) 検察の理念

私は、中村検事に対し、「私がどういう態度に出ると思いますか」と聞いた。

すると、中村検事は、ニヤリと笑みを浮かべ、「そりゃあ、田代君の立場を考えてあげるんじゃないの」と言った。

私は、この言葉を聞き、最高検の意向を受けて動いている中村検事も、やはり先ほど挙げたような手を使い、目障りな私の証言を潰したいのだと分かった。

ただ、この取調べに先立つ一昨年(2011年)の9月には、大阪地検特捜部の一連の不祥事を受け、最高検が「検察の理念」と題する基本姿勢を策定し、公表していた。

この理念は


刑罰権の適正な行使を実現するためには、事案の真相解明が不可欠であるが、これには様々な困難が伴う

その困難に直面して、安易に妥協したり屈したりすることのないよう、あくまで真実を希求し、知力を尽くして真相解明に当たらなければならない

とした上で


積極・消極を問わず十分な証拠の収集・把握に努め、冷静かつ多角的にその評価を行う

としていた。

私は、こうした崇高な理念を掲げ、まさに変わろうとしている古巣検察を信じたいし、もう一度だけ中村検事のことを信じてみたいとの思いもあった。

また、私が検察に真相を話す機会はこれが最後となるであろうから、満期出所を1週間後に控え、「心の渦」を全て刑務所に置いていきたいとの思いもあった。

そこで私は、「本当の話をしますね」と切り出し、小沢公判で尋ねられなかった問題を含め、私が知る事件の背景事情などを包み隠さず語ることとした。(続)


前田恒彦
元特捜部主任検事


1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。獄中経験もあり、刑事司法の実態や問題点などを独自の視点でささやく。

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コメント
 
01. 2013年9月08日 13:22:09 : Jny2RmHXSQ
もう負けてしまったのですから
この国は強いものが何をしてもいい国ですから

02. 2013年9月08日 22:07:08 : UFUxAnXckq
前田元検事の心境が良く解る
同じ土俵で15キロオーバーが起訴され(前田)
30キロオーバーが無罪放免(田代)
おそらく30Kオーバー起訴したら国家を揺るがすような事件だったのだろう。

03. 2013年9月08日 22:12:38 : 7a485pUwzQ
人はやり直せる。
前田さんも頑張っているようだ。

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