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犯人をデッチ上げるのは簡単です 大阪府警の「誤認逮捕」被害者男性の告白
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36882
2013年09月03日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
1ヵ月に4件。それはあまりに多すぎる。犯罪が起きれば、誰でもいいから逮捕しようと誤認逮捕を繰り返す。そんな警察はもはや市民の味方ではない。ある日突然、逮捕された男性の「闘いの記録」。
■刑事は突然やってくる
ある日の早朝、自宅のインターフォンが鳴る。誰だろうといぶかりながらドアを開けると、そこにはいかつい風貌の男たちが数人、立っている。
「警察です。署まで同行願えますか」
男たちは刑事。わけもわからぬまま警察署についていくと、取調室に押し込められ、こうすごまれる。
「お前がやったんだろ。わかってるんだ」
身に覚えがないといくら否定しても、刑事は聞く耳をもたない。
「お前を逮捕する」
腕に冷たい金属の感触。手錠と腰縄をつけられ、容疑者として、留置場に連行される―。
ドラマか小説の中だけの話と思うかもしれないが、これは現実に起きた出来事である。大阪府警の「誤認逮捕」で85日間にわたって身体の自由を奪われた男性会社員Aさん(42歳)は、その恐怖とやるせない怒りをこう語る。
「逮捕されてから、『○○!○○!』と若い刑事から何度も呼び捨てにされ、屈辱的でした。刑事から、
『あなたの汚れた手で、子供の頭を撫でられるんですか?』
とか、
『あなたは普通じゃないんですよ』
などとも言われました。本当に辛かった」
他人事ではない。誤認逮捕は明日、あなたの身に降りかかってもおかしくないのだ。悲劇の始まりは、今年1月下旬、大阪府警北堺署にもたらされた一本の電話だった。
「盗まれたガソリン給油カードが使われた」
その10日ほど前、堺市北区のコインパーキングに駐車中の車から、クレジット式の給油カードが盗まれていた。その被害者からの通報だった。
カードが使われたのは同市西区にあるセルフ式ガソリンスタンド。北堺署は「直轄警察隊」と呼ばれる捜査員を現場に派遣した。
スタンドの販売記録から、1月13日の午前5時39分に、道路からいちばん近い第1給油機で、盗まれたカードが使用されていたことがわかる。犯行の「場所と時刻」が特定された。
捜査員がスタンドの防犯カメラを確認すると、犯行時刻の前後に給油した車が2台あることがわかった。
防犯カメラ上の時刻は5時42分と48分。捜査員は42分に給油した人物が犯人だと断定。同じくカメラに映っていた車のナンバーから持ち主のAさんを割り出し、4月24日、給油カードの窃盗容疑で逮捕したのだった。
完全に否認を続けるAさんを、府警は「ガソリンを盗んだ罪」で再逮捕。6月4日に大阪地検がガソリン窃盗容疑で起訴した。
■無実でも自白する
Aさんは本誌に託した手記にこう書いている。
「最初に逮捕された時は、まったくわけがわかりませんでした。なぜ自分だけがこんな目にあうのだろうかと思いました。そして、再逮捕、起訴され、釈放される時期がどんどん延びていきました。いつ釈放されるのだろうと不安しかありませんでした。
一時は、処罰されてしまう、と覚悟を決めたこともありました」
冤罪事件の恐ろしさはここにある。罪を犯していないことは、誰よりも自分自身がわかっている。しかし連日のきつい取り調べを受け、助けてくれる人が誰もいない状況の中、刑事にこう持ちかけられる。
「もうお前は逃げられないんだ。犯行を認めたほうが刑が軽くなるぞ」
追い詰められた冤罪被害者は、その言葉を「自分への優しさ」と勘違いして、思わずやってもいない罪を認めてしまうのである。
Aさんにもそういう局面があったと、弁護人の赤堀順一郎弁護士が言う。
「6月4日に起訴されて、その月の中頃でしょうか。ご本人もかなり参っていました。その時は有効な反証もなかったですから、このままでは処罰されてしまうと、あきらめの気持ちもあったようです。
接見中に、ご本人から、『認めようと思います』と言われました。否認を続けたまま裁判で有罪になると、反省の色がないとして実刑になるかもしれない。改悛の情を示したら、この事案なら実刑はない。一般論として、私もそんな説明はしました。それで、『認めたほうがいいのではないか』という気持ちになったんだと思います。『とにかくここから出たい』、その一心だったんでしょう。
ただ、私としては、本当にやっていないなら、否認を貫いたほうがいいとも伝えました。何とかしますよ、と約束した記憶がありますが、その時は有効な証拠もなかったし、具体的な策は何もなかったというのが正直なところです」
もしこの時、Aさんの弱気に赤堀弁護士も同調していれば、この窃盗事件は執行猶予つきの有罪事件として、淡々と終わっていたかもしれない。それこそまさに、大阪府警の望んでいた結末だった。
だが、赤堀弁護士はあきらめなかった。その闘志の源泉となったのが、Aさんの妻の存在だ。
Aさんがガソリンを盗んだとされる日、Aさん夫妻と二人の娘は、スキー旅行に出かけるところだった。夫がいつもガソリンを現金で給油することも知っている。夫は絶対に、やってない―妻のその信念が、赤堀弁護士を勇気づけた。
そして6月末日。ついに突破口が見つかる。
公判前整理手続で検察が開示した証拠に基づきながら、妻に当日の様子を改めて確認していたときのことだった。
「ガソリンを入れた後に、高速に入りました。午前5時40分頃のことです」
Aさんの車は、カーナビにETCの履歴が残る。その時刻も、5時40分となっていた。
「それはおかしい。犯行時刻が5時39分で、高速に入ったのが40分。犯行現場と高速の入り口は約6・4km離れている。1分でたどり着くには、時速384kmで走らなきゃいけない。そんなことはありえない」
赤堀弁護士はこれこそがAさん無罪の突破口になると直感した。事件当日と同じ日曜日、同じ時刻に車を走らせる実地検証も2度、行った。運よく信号に引っかからなくても6~7分はかかる。
「裏づけのため、ETCの記録も取り寄せ、Aさんの車が高速入り口を通過した時刻が間違いなく5時40分であることを確認しました。
では、なぜ5時42分にAさんの姿が防犯カメラに映っていたのか。気づけば単純なことでした。防犯カメラの表示時刻が進んでいたのです」
ガソリンスタンドの協力を得て、防犯カメラの時刻とNTTの時報を照合したところ、やはり8分、進んでいた。さらに、当日の販売記録を、ガソリンスタンドの運営会社に頼み込んで見せてもらうと、〈午前5時34分、現金払い〉という記録が見つかった。
「間違いない。Aさんは5時34分に、現金払いで給油をしている。39分にカードで給油した真犯人とは別人だと確信しました」(赤堀弁護士)
■防犯カメラは嘘をつく
7月10日、赤堀弁護士はこれら「証拠」一式を大阪地検に提出した。1週間後、検察官から「起訴は完全な誤りです。初公判期日は取り消します」と電話がかかってきた。無実が証明されたAさんは、ようやく釈放された。逮捕から85日目のことだった。
赤堀弁護士は30歳で、'11年に司法試験に合格したばかり。弁護士になってまだ8ヵ月しか経っていない。そんな「新米弁護士」の熱意ある独自調査がAさんの冤罪を晴らしたわけだが、問題は、新米弁護士が一人でできる調査を、大阪府警がやろうともしなかったことだ。元府警幹部が言う。
「今回、捜査に動いた直轄警察隊とは、名前は一丁前ですが実態は『若手捜査員の寄せ集め』なんです。交番勤務を終えて間もない20代後半から30代前半が中心で、この期間に適性を審査され、『刑事』『生活安全』『交通』など各分野の専務員になっていく。
警察では専務員になってからが一人前と言われていますから、当然、彼らは半人前の警察官。医者でいえば研修医と同じです」
今回、捜査のずさんさが際だったのは、防犯カメラの時刻のズレを、捜査員が一度たりともきちんと検証していないことだ。
捜査員が作成した捜査報告書には、
〈(防犯カメラの表示は)3分進んでいる〉
と記されている。だがこれは、犯行時刻が39分と特定され、Aさんがカメラに映っていた時刻が42分だったので、単純に引き算をして、3分進んでいると決めつけただけだった。
前出の元府警幹部はこの事実に驚きを隠さない。
「捜査報告書に防犯カメラのタイムラグを補正して明記するのは、『いろはのい』です。これが書かれない捜査報告書など見たことはない。直轄警察隊の捜査指揮を取るのは署の刑事課長か課長代理、つまり警部ですから、そんな常識を知らないはずはない。もし見逃していたなら、これほど恥ずかしい凡ミスはないでしょう。再逮捕までして、無実の人を3ヵ月近くも勾留しているのですから、罪は重いと言わざるをえない」
Aさんは当初、公開の法廷で大阪府警と対決することを望んでいたが、起訴が取り消され、それはかなわなかった。Aさんが言う。
「どうして、自分が捕まらなければならなかったのかを知りたかった。そのうえで、裁判所から『無罪』と認めてほしかった。公訴を取り消されると、私がなぜ85日間も警察署に勾留されることになったか、もう知ることはできません」
■警察は反省しない
大阪府警は昨年8月、PCなりすまし事件で無実のアニメ演出家を誤認逮捕する失態を犯している。
さらにこの1ヵ月間だけでも、Aさんの事件を含め4件の誤認逮捕が発覚する異常事態となっている。他の3件の内容は以下だ。
・泉南署が日本国内で運転できる台湾の免許証を持っていた台湾人女性を無免許だと勘違いし、道交法違反で現行犯逮捕
・高槻署が少女のスカートがめくられた痴漢事件で、無関係の男性を現行犯逮捕
・浪速署が、路上で女性の身体を触ったとして、無関係の男性を迷惑防止条令違反で逮捕
この3件に共通する点がある。それは、すべて「現行犯逮捕」であるというところだ。前出の元府警幹部が解説する。
「警察官のほとんどは、習性としてゲンタイ(現行犯逮捕)したがります。なぜなら、そのほうが楽だからです。通常逮捕だと、署に呼んで事情を聞き、容疑を固める証拠も集めた上で、裁判所に逮捕状を請求しなければならない。それだと面倒だし、時間がかかる。事件が温々のうちにやりたい、というのは警察官の本能とも言えます。
その結果、高槻署のケースも浪速署のケースも、被害者の女性や少女の母親の証言に頼りすぎて、少し似ているだけの無関係の男性を逮捕しているわけです。
さらにいえば、誤認逮捕は警察内部ではそれほど失点にならないという風潮もある。取り逃がすよりはマシだ、と。誤認逮捕によって無実の人を苦しめてしまっても、それは犯人逮捕のための『必要経費』と考える幹部もいます」
大阪府警に誤認逮捕を連発した責任を問うと、広報課がこう回答した。
―府警はこの事態をどう考えているのか。
「事態の重要性を受けとめ、指導を徹底したい」
―4件の誤認逮捕が起きたそれぞれの原因は?
「いずれも事実認定に確認不足があったと考えている」
―PCなりすまし事件の教訓が生かされていない。
「ご指摘の点を踏まえ、今後、適正捜査に配意したい」
―誤認逮捕の被害者にどうお詫びするのか。
「関係者には謝罪した」
だが、Aさんの妻が明かす次のエピソードを聞くにつけ、その謝罪に真心があるとも思えない。Aさんが釈放された日、北堺署に迎えに行くと、Aさんの取調官にバッタリ出くわした。
「主人は無罪になりました」
妻が怒りを込めてそう伝えると、取調官は笑いながらこう答えたという。
「そうですか。私は聞いていません」
冤罪は誰にでも起こりうることを、Aさんの事件は証明している。たとえ容疑は晴れても、失われた85日間は二度と戻らないし、逮捕された苦しみや屈辱が消えることもない。
「週刊現代」2013年9月7日号より
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