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2013年8月29日 田中秀征 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授] :ダイヤモンド・オンライン
このまま安倍晋三政権が(1)消費増税の予定通りの実施、(2)原発の全面的再稼働、(3)集団的自衛権行使のための憲法解釈の変更、(4)TPPの年内合意を強行すれば、おそらく内閣支持率は遠からず大幅に急落して政権運営がきわめて困難になるに違いない。
これらはほぼ同時進行で進んでいるので、今年末が大きな山場となるだろう。
確かに安倍政権は、衆参の安定多数を基盤として政策も法案も思いのままに通すことができるように見える。だが政治は決してそういうことにはならない。安定多数であっても支持率が30%を割れば、政策も法案も暗礁に乗り上げて一歩も進むことができなくなる。自民党内、与党間に亀裂が起こって内部抗争を生み、内閣が漂流することにもなりかねない。
私もそうだが、安倍首相への期待感は、やはり「成長と改革」にある。未だその期待は消えたとは言えないが、前述4つの強行によってたちまち色あせてしまうだろう。
■「国益のため」という言葉ほど いかがわしいものはない
問題は、この4つの推進力になっているのが政治ではなく行政であり、政治家ではなく官僚だということが日増しに明らかになってきていることだ。
すべては「国益のため」と強調されるが、この国益という言葉は実にいかがわしい言葉だ。むやみに“国益”を標榜して強行しようとする人は、そのほとんどが省益などの“組織益”のために動いている。
一体、国益と言っても、目先の国益と長期的な国益には大きな違いがあり、それどころかしばしば逆の場合さえある。
今回のTPP交渉についても、来年の中間選挙を見据えて年内合意にこだわる米国に追随。普天間問題のマイナスをカバーしたり、尖閣問題への支援を期待しているように見える。
だが、譲歩を重ねたTPP参加は、日本の産業構造や経済構造はもちろんのこと、国土の構造や生活、文化まで大きく変貌させるものである。そんな国のかたちを変える重大な案件について、十分な検討をしたのか、その覚悟はあるのか。
TPP参加は、一部の人たちに、あるいは一時期限りの利益をもたらすに過ぎない恐れがある。だから拙速に対応せず、あくまでも将来の国家経営を考えて百年の計のもとに時間をかけて進めるべきだろう。
■与党の存在感がない一方で前面に現れる“官僚”の存在感
直近の世論調査は、4つの強行に対して“否”とする人が増え続けている。もっと切迫すれば、もっと世論は先鋭化するだろう。
官僚組織には、省益と結びついた悲願とも言える課題がある。それらは、安定政権が出現すると、この時とばかり“国益”の名においてゴリ押しされてくる。4つの強行論にはその色合いが濃い。
消費増税についての“有識者”の意見聴取が始まったが、本質的には集団的自衛権についての有識者会議などと手法は同じである。
一体、自民党はどうなったのか。与党はどうしているのか。有識者の意見を聞くなら党が中心となって聴けばよいではないか。4つの重要課題について与党の存在感がなく、官僚、学者、専門家が前面に出て来過ぎている。その人選は官僚主導によるものだろうから、“有識者”の活用はほとんど特定の方向への誘導作戦であろう。
そもそも、“官邸主導”は“官僚主導”になるのが常である。
そして、その失敗の責任は他でもない首相個人に帰せられることになる。
首相は民意を背景にした与党の力をもっと重視する必要がある。
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