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大都市と地方
の格差が拡大
厚生労働大臣の諮問機関である中央最賃審議会の小委員会は八月六日、二〇一三年度地域別最賃の改訂「目安」額をまとめ、七日、田村厚労相に答申した。「目安」が示している主な特徴は以下の通りだ。
?全国平均で時給一四円の引き上げ。この結果全国平均時給は、昨年度の七四九円から七六三円となる。
?全国四つの「ランク別」時給引き上げ額では、東京や大阪などの「A」一九円、「B」一二円、宮城、北海道など「C」と東北や九州、四国、沖縄などの「D」が一〇円。
?「生活保護費との逆転」については、昨年度引き上げで一一都道府県から六都道府県(北海道、宮城、東京、神奈川、大阪、広島)となったが、今年度審議会の調査によって新たに五府県(青森、埼玉、千葉、京都、兵庫)を加えて一一都道府県に戻っていた。このうち北海道を除く一〇都府県が、今回の改訂目安によって「逆転解消の見通し」と報じられている。二二円の差のある北海道については、「一一円から二二円」という引き上げ幅が示され、「二年以内に、できるだけ速やかな解消に向けた審議を行う」とされた。
?大都市圏と地方との格差はさらに拡大する。目安額によれば、時給で東京は八六九円。一方、島根や高知は六六二円、沖縄が六六三円、岩手六六三円、青森、秋田、山形六六四円。東京との差はいずれも二〇〇円以上にもなる。
事実と異なる
最賃「大幅増」
この答申についてマスコミ各社は、「安倍シナリオ反映」(読売新聞)、「政権主導」(朝日新聞)など、安倍政権の積極的な働きかけにより「一〇円超は三年ぶり」「大幅増」(以上朝日新聞)と報じた。他方で菅義偉官房長官はこの答申を、「成長戦略に配慮する真摯な議論が行われた」などと、自画自賛的に持ち上げた。
しかしこの目安のどこが大幅増なのか。たとえば第一次安倍内閣の二〇〇七年も一四円だった。それは小泉政権の最賃抑制に批判が高まった結果の引き上げだった。その後、福田内閣は一六円、リーマンショックに直撃された麻生内閣でも一〇円だった。政権交代の二〇一〇年は「目安」が一五円、引き上げ額は一七円となった。これらと比べてさえ、今回の一四円が「前例のない異次元の政策」という触れ込みに対応する額だとは、とうてい言えない。
何よりも問題は、今回の答申も、日本の最低賃金水準が独立した生計を維持できる水準にはとうてい達していないという事実に真摯に向き合っていないことだ。本紙八月五日号で紹介した宮城全労協意見書は、現時点での全国平均時給七四九円が年収で一三五万円弱にしかならない、と指摘している(C、Dランク地域はもちろんそれ以下)。このような最賃水準、そのような額での生活の強要を日本の社会のあり方として今後とも続けてよいのか、それが突き付けられている本当の問題だ。
そうであればこそ二〇一〇年の「雇用戦略対話」では、まだ極めて不十分な水準であるとしても、曲がりなりにも「二〇二〇年までに平均時給一〇〇〇円」という目標が日本経団連含めた政労使合意となった。そして今年の七月三一日には、反貧困ネットワーク代表の宇都宮健児弁護士など有識者一〇八人が「最低賃金アピール」を初めて発表し、生活できる最賃への踏み込みを強く訴えた。宇都宮弁護士はこのアピール発表の記者会見に際して、非正規労働者がついに二〇〇〇万人を突破し貧困が歯止めなく進行している事実を挙げながら、大幅な最賃引き上げが火急の必要事であり、そこに向けた最低の足掛かりである先の政労使合意を満たすためだけでも、今後毎年三六円/時の引き上げが必要だと指摘した。
この指摘と比べてみるだけでも、今回の答申が貧困の放置にすぎないこと、しかも先の政労使合意すらまるでなかったことのように無視されていることが歴然としている。前述した菅官房長官談話にいみじくも表れていたことだが、中央最賃審が真摯に向き合ったのは「成長戦略」、要するに政権の「面子」であり、最賃水準で働く労働者の現実ではなかったということだ。そして先のように報じた朝日新聞も同一紙面の別記事では、「一〇円、焼け石に水」との見出しで、Dランクの高知県における労働者の声を伝えざるを得なかった。
公共料金や輸入関連品など、生活物価の上昇が始まっている。生活保護費の削減が開始され、年金減額から消費税増税と続く。政府はデフレ脱却のためには賃金上昇による個人消費の拡大が必要だと説明している。しかし今回の一四円を賛美するようでは、政府の説く「好循環」が回転するはずもない。最賃水準で働いている労働者たちの今や差し迫った生活改善は結局のところ、競争力や規制緩和を論ずる人々が想定する「好循環」の環からは完全に外されているのだ。
生保引下げと
最賃ブレーキ
そして、安倍政権による生活保護費削減が、来年度以降の最賃引き上げに影響を及ぼすだろうとの観測が出始めている。たとえば読売新聞(八月七日)は「『逆転現象』ほぼ解消へ」と題した記事の中で、「ただ、今回の審議で比較された生活保護のデータは二年前の実績値だ。生活保護費は今年八月から引き下げが始まっているため、実際に最低賃金が引き上げられる一〇月以降は、逆転現象はほぼ解消されると見られる」と指摘している。
また北海道新聞は目安答申前の八月四日、生活保護費の減額と北海道内の最低賃金との逆転(現在二二円)について「遅くとも二〇一五年度には解消される見込み」と報じた。同社の試算によれば「(道内の)最賃が現在の時給七一五円で据え置かれたとしても、一時間当たりに換算した生活保護受給額は減額前の平均七四一円から一五年度は六九六円に下がる」という。記事は「ただ、生活保護の減額によって逆転が解消されても、最低賃金の引き上げ議論にブレーキがかかってしまうマイナスの影響を懸念する声が出そうだ」と指摘している。
生活保護と最賃のこのような悪循環メカニズムの作用は、現行最賃法に「生活保護との均衡」配慮規定が入れられた時にも懸念はされていたことだ。ただ当時は、小泉政権の「構造改革」が生み出した社会的格差への批判の高まりを受けての改正であり、そこでは最賃の大幅引き上げが当然の前提とされていた。しかし安倍政権は、生活保護費大幅削減に続く今回の最賃答申をもって、その前提すら投げ捨てる意志を覗かせた、と言わなければならない。そしてこのような賃金破壊こそが安倍政権の言う「成長戦略」の核心に位置付いていることも確認しよう。
このような賃金破壊、貧困の放置に対決する労働者の共同した反撃を、労働の規制解体阻止の闘いと一体的につくり出そう。そこに向けた最初の一歩として、各県最賃地域審議会に各方面からの圧力を集め、地域最賃の最大限の上積み引き上げを実現しよう。そのために、地方の低賃金をフルに利用してきた大資本の負担による、地方の地場産業支援をも要求しなければならないだろう。広範な民衆の生活破壊を大資本の利益に変えようとの安倍「成長戦略」に対し、今こそ強大な労働者の共同した闘いが必要になっている。(神谷)
http://www.jrcl.net/frame130826e.html
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