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2013年8月22日 高橋洋一 [嘉悦大学教授] :ダイヤモンド・オンライン
編集部から、本コラムとは別に「消費税増税は是か非か」という、どちらかといえば経済政策論の観点からの論考を依頼されているので、今回はそれを補完する政治的な見方を述べたい。
■ナベツネが出した暑中見舞い
ナベツネの書簡が話題になっている。マスコミには報じられないが、渡辺恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役会長が、8月上旬、政治家宛に書いた暑中見舞いの手紙だ。前半は、東京ドームのジャイアンツ戦のチケットを同封するので使ってもらいたいとか、軽井沢で7日連続のゴルフをしたとかほのぼのとした話題である。
しかし、後半では、「なお、年末に向けての政府の最大課題の一つは、消費税の実施時期の問題です」ではじまり、「アベノミクスの失敗は許されません」、「伝統的な財務省の早期財政再建至上主義よりも、異次元の方策があります」とし、「8%を中止し、10%に上げる時に、軽減税率については生活必需品は5%にとどめること」が提案され、「近く小生としても詳細な具体策を報告するつもりです」と結ばれている。
渡辺氏が政界に多大な影響力があるのは周知の事実だ。その渡辺氏が広く知られることを前提にした手紙を政治家に出すのだから、ただ事ではない。
渡辺氏が率いる読売新聞は、消費税増税の積極グループの一番手だ。2010年11月、読売新聞は元財務次官の丹呉泰健氏を社外監査役として受け入れている。読売新聞としては異例のことだ。そのとき、巷で噂されたのは、マスコミは消費税増税を応援するが、軽減税率の対象として新聞を入れるというものだ。
ところが、来年4月からの消費税増税の決定がずれ込み、とてもそれまでに軽減税率まで準備できそうもない状況になってきた。そこで、軽減税率の適用なしで、5→8%への増税が決まっては、新聞業界もたまったものでないだろう。同時に、新聞は消費税増税に賛成しながら、自分のところは軽減税率を受けるのではあまりに身勝手という批判を、とりあえずかわしたい。そこで、5→8%はやめて、15年10月に5→10%にして、同時に軽減税率を整備して新聞を適用させればいいと、ナベツネの書簡は言っているわけだ。
こうした政治的な実力者が動き出すと、政治的な展開がガラッと変わってくる。これが政治だ。週刊ダイヤモンド8月24日号で「この期に及んで議論が沸騰 「消費税増税見直し」のリスク」という記事があるが、政治とはそういうものだ。
■見直し議論自体は正統なもの
もっとも、政治では手続きが重要だ。今行われている見直し議論はキチンと法律に則ったものなので、議論としては正統性がある。
というのは、昨年8月に成立した消費税増税法附則18条で、第1項は「消費税率の引上げに当たっては、……名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した……必要な措置を講じる。」、第2項は「成長戦略並びに事前防災及び減災等……施策を検討する。」とし、第3項で「この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前二項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。」と書かれており、この第3項に基づく判断をしているからだ。
安倍首相が、昨年の消費税増税法案に賛成したからといって、来年4月からの消費税増税に無条件に賛成すべきというのは言いすぎだ。昨年の消費税増税法の附則18条第3項に基づき、「その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」かどうかを議論しているだけだ。
もっとも、政府が増税凍結法案や増税見直し法案を秋以降の国会に提出しない限り、来年4月から消費税増税になるのも正しい。
また、「消費税増税しても景気は落ち込まない」と増税論者はいうが、これはある意味で間違っていない。というのは、増税した分をみな財政支出または減税措置すれば、景気は消費税増税で落ち込んでも、財政支出または減税措置で戻るからである。これは、消費税増税法附則第18条第1項と第2項で書かれている政府の「必要な措置」または「施策」である。ちょっとしたジョークのような話であるが、減税措置として消費税減税もありうる(=消費税増税しないこと)ので、是非やってほしいところだ。
■予想される壮大なバラマキ
この附則第18条第1項と第2項を根拠として、壮大なバラマキが消費税増税対策として行われるだろうが、あくまで法律上の問題はない。おそらく官僚は法律で決まっていることだから、堂々と族議員向けのバラマキを行うだろう。実際、消費税増税後には、大型補正という話も出ている。
それでは、財政再建にならないという意見もでるだろうが、そもそも消費税増税法の正式名称は、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」となっており、財政再建が目的ではない。
財務省が野田政権時代に敷いたホップ、ステップ、ジャンプの増税路線のうち、今回の消費税増税はステップなのだ。2011年9月8日付け本コラム「増税一直線の野田政権に告ぐ 増税に代わる財源を示そう」を見てほしい。「今回の増税では不十分で、さらに消費税増税が必要」、つまりジャンプがあるという人はいかに財務省に洗脳されているかがわかる。
いずれにしても、「消費税増税しても景気は落ち込まない」とか「今回の増税では不十分で、さらに消費税増税が必要」という詭弁は、今回消費税増税を政治的にストップすれば、消え去る。
■問われる安倍首相の判断と力量
安倍首相が政治的に増税の是非を決定するためには、党内を説得しなければいけない。自民党内には、税調があり、税制では絶対的な力を持っている。その会長は財務省出身の野田毅氏で消費税増税推進論者だ。彼だけではない。自民党内には、昨年の衆院選や今年の参院選で、大量の族議員が復活している。附則第18条第1項や第2項の「アメ」がぶら下がっているのに、消費税増税を諦めるのは、政治的には族議員はできない相談だ。
しかし、政治家であれば、できないことをやりたくなるものだ。特に、安倍首相としては3年後まで大きな国政選挙はないので、そのパワーを見せつけて、悲願の憲法改正まで持っていくプランがあるだろう。
そのためには、党内政局になっても勝てるというだけのパワーが必要で、世論の後押しも絶対に欠かせない。世論調査では国民の多数は今の消費税増税を望んでいない。つまり消費税増税は格好の政局案件なのだ。小泉首相が「消費税増税はしない」といって長期政権を達成したように、安倍首相も同じ手を使う可能性は政治的にはあると思う。
長期政権は、官僚を上手くコントロールしないと無理だろう。民主党の野田政権は完全に財務省のいいなりで沈んだ。第一次安倍政権は過度に官僚と敵対してやられたという説があるが、官僚のやりたい放題を許していてはダメだろう。
「官僚的な保守的論理を打破する」
ナベツネ書簡の最後にある面白い個所だ。もちろんこの書簡は、消費税増税の出来レースの中でのアリバイ作りかもしれない。しかし、これは、消費税増税が政局になっていることを如実に示している。
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