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汚染水漏れが続く東京電力福島第一原発。独力での事故収束に暗雲が立ちこめる中、再建計画も破綻寸前だ。新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働に見通しが立たない一方、賠償や除染などの費用が膨らんでいるからだ。海へ流出している汚染水の対策には、国費(税金)が投入される見通しになった。私企業へ税金を入れるなら、破綻処理が先ではないのか。慶応大の金子勝教授(財政学)と考えた。(上田千秋)
◆「東電再建すでに限界」
「東京電力に任せるのではなく、国としてしっかりと対策を講じる」
7日に開かれた政府の原子力災害対策本部の会議で、安倍晋三首相は国が中心になって、汚染水の対策に乗り出すよう関係閣僚らに指示した。
政府は来年度予算の概算要求に、建屋周辺の土を凍らせて汚染水の流出を食い止める「凍土遮水壁」の関連費用を盛り込む方針を決めた。300億〜400億円とみられる工事費の多くは、国費で賄われることになる。
野田佳彦前首相が「事故収束宣言」したのは2011年12月。だが、現実は東電だけで、事故収束できる状況ではなくなっている。そもそも事故発生当初から、東電を破綻処理して、国が対策に乗り出すべきだとの意見は根強くあった。
◆つぶさず支援 政府の枠組み
ところが、政府は11年6月、東電をつぶさずに支援する枠組みを閣議決定。同年9月に原子力損害賠償支援機構(原賠機構)を設置、賠償や除染などの費用として5兆円まで貸す仕組みをつくり上げた。それとは別に昨年7月、政府は東電が債務超過(破綻)しないよう1兆円を出資し、東電を実質国有化した。
これに先立ち、東電と原賠機構は昨年4月、共同で総合特別事業計画(再建築)を策定した。しかし、現実には筋書き通りには進まなかった。
同計画では本年度に916億円の経常利益を計上し、黒字化するはずだった。だが、法人、家庭向けとも電気料金を値上げしたものの、黒字化の柱だった柏崎刈羽原発の再稼働は安全審査の申請すらできていない。
事故とは無関係な長期借入金の返済や社債の償還など年間約1兆円の「借金返済」に加え、支出は増え続けている。
3兆9000億円という賠償金の見積額があるが、これまでに支払われたのは2兆5000億円。避難生活がいつまで続くか判然とせず、総額は見積もり以上に膨らみそうだ。
除染についても、当初は1兆円程度を見込んでいたが、独立行政法人「産業技術総合研究所」が先月、最終処分にかかる費用を除いた額として、5兆1300億円という試算を公表している。
そこに、福島第一1〜4号機の事故収束や廃炉費用がのしかかる。政府は以前、1兆1510億円と試算した。だが、原子炉内部がどうなっているか分からず、当初の応急措置のひずみが次々と現れている現状では、とてもこの試算の範囲内に収まるとは思えない。
国から原賠機構を通して借金し、黒字を前提に長期で返済するという再建築は壊れた。そこに汚染水漏れが追い打ちをかけた。税金投入は東電が追い込まれた結果だ。
◆「破綻処理が大前提」
当初から無理筋と言われていた再建築がつくられた理由について、原子力委員会の新大綱策定会議の委員を務めた金子教授は「行き詰まることは最初から明らかだった。国の官僚や東電の幹部が問題を先送りにし、自分らの在職中に火の粉が及ばないようにしただけのことだ」と解説する。
「原発事故の処理も早い段階で人材と資材、予算を一気に投入しないといけなかった。それをしなかったために、状況が悪化している」
実は東電が“白旗を揚げた”のは昨年11月だった。賠償などの費用が総額10兆円を超えそうであることが分かり、政府に「一企業では到底対応しきれない」と負担の見直しを要請している。
公共性が高い事業とはいえ、困窮した私企業をそのまま税金で救済するのは道理に合わない。事故収束させるのに税金の投入しか手段がないのなら、東電を破綻処理して資産を売却したり、既に支払われた役員の退職金などを回収するといった作業が先決なはずだ。
先例がある。1990年代のバブル崩壊後の金融危機だ。国は不良債権を処理しきれなくなった長銀や日債銀を破綻処理した。大手銀行にも多額の資金が貸し付けられたが、そうした処理でも不十分で「失われた10年」を招いてしまった。
破綻処理すれば、東電の株価はゼロになり、融資も返済できなくなるため、株主や金融機関が損をすることになる。
それでも、金子教授は「東電の現状では株主や貸し手の責任を問わざるを得ない」と語る。
「いったん破綻処理をしない限り、東電は生き残りのために賠償費用を削るか、安全対策にかかる費用を絞って老朽原発を動かすか、電力料金を再び上げるしかない。危険な老朽原発の再稼働を認められない。そもそも使用済み核燃料を貯蔵する場所すらない」
金子教授の試算では、東電に限らず、原発を再稼働させる場合、安全対策費を上乗せすれば、大半が火力発電などのコストを上回る。再稼働は割に合わないという。
具体的にどう東電を処理すべきなのか。金子教授は東電から原発事業を切り離し、破綻処理した上で新会社を設立し、新株を国が引き受けるという方策を提案する。
一時的に国の負担が発生するが、財務体質が改善した段階で、新会社に株を買い戻させることが可能だ。「新会社の株式発行によってはいる収入を賠償や除染などの原資にする。それでも足りない分は、国のエネルギー関連予算を組み替えて充当すればいい」
福島第一とは別の廃炉事業と、仮に再稼働が認められた原発の運転については、所有する原発の再稼働の見通しが立たずに経営難に陥っている日本原子力発電に引き受けさせるという。
これは一案にすぎないが、一昨年8月、参議院の東日本大震災復興特別委員会で原賠機構法案が可決された際の付帯決議には「本法は被災者に対する迅速かつ適切な損害賠償を図るためのもので、東京電力を救済することが目的ではない」と明記されていた。「早期に法の改正等の抜本的見直しを講ずるものとする」とも記されている。
すでにその時期を迎えている。金子教授は「政府も国会も付帯事項に書かれた見直しをずっとサボタージュしている。何もせずに国費を入れるのでは、国民負担が増えるだけだ」と警告した。
[デスクメモ]
何回でも記す。福島事故は人災で、東電や国のしかるべき人物に責任を取らさねばならない。東電に融資した銀行は守られて、消費者が事故に伴う費用を電気料金で背負っている。それでも足りないとなると、国民の懐に平気で手を突っ込んでくる。「逃げ切れる」という楽観が理不尽さの底に透ける。(牧)
2013年8月21日 東京新聞:こちら特報部
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013082102000181.html
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