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安倍晋三政権が「集団的自衛権」の行使に向けて憲法解釈を変えようとしている。内閣法制局長官の「首」のすげ替えなど異例の措置もいとわない。なりふり構わぬ手法のどこが問題なのか。改めて識者に聞いた。【小林祥晃】
◇法制局人事は独立性軽視
「長官人事は法治主義への配慮に欠けている」。政権による“人事介入”を強く批判するのは、9条を巡る政府見解の歴史に詳しい浦田一郎明治大教授(憲法学)だ。
内閣法制局は、政府提出の法案が憲法や他法令と整合性があるかを審査したり、憲法解釈の政府見解を示したりする「法の番人」。その長官は憲法解釈担当の第1部長から次長を経て昇進するのが通例で、政権は人事に口出ししないのが暗黙の了解だった。ところが安倍首相は8日、長官を解釈見直し推進派とされる小松一郎前駐仏大使に交代させた。小松氏は外務省の条約課長、国際法局長などを歴任。政府は「国際的知識が必要な時代なので適材適所」と説明する。
この人事の問題点について浦田教授は「法律が違憲か合憲かを事後チェックする裁判所は国会や内閣からの独立が原則。内閣法制局は内閣の一部門ではあるが、法案が憲法に反していないかどうかを事前チェックする役割を担っており、裁判所と同様に独立性を尊重すべきだ。今回はその原則を崩したことになる。また国内法と国際法は全く異なる。小松さんは内閣法制局が扱う国内法については専門外だ」と指摘する。
集団的自衛権とは日本が直接攻撃されていなくても、密接に関係する国に対する武力攻撃を実力で阻止する権利。これまで内閣法制局は「国際法上保有はしているが、憲法9条で許される実力行使の範囲を超えるため、行使はできない」との見解を示し、海外での自衛隊の武力行使に歯止めをかけてきた。自衛隊を海外派遣した歴代政権は「非戦闘地域での活動」「後方支援」などの名目で正当化したが、いずれも法制局の解釈の枠内にとどまり、武器は使われなかった。これに対し安倍首相は、憲法解釈を変える「解釈改憲」によって「できない」とされてきた集団的自衛権の行使を可能にしようとしている。他国での武力行使に道が開かれれば、戦争放棄を貫いてきたこの国の形が変わる。「それを解釈変更でやってしまおうなんて卑しい脱法行為だ」と浦田教授。
菅義偉官房長官は記者会見で「内閣法制局は内閣を補佐する機関。憲法解釈についてはあくまで内閣の責任で行う」と述べた。2000〜05年に開かれた衆参両院の憲法調査会では「解釈の変更は閣議決定できる」との見解が示されたこともある。
「『官僚より政治家が優位に立つべきだ』という価値観が背景にあるのだろうが、法に基づいて政治を行う『法治主義』の観点からすると、法は政治より優位性を持つ。集団的自衛権の解釈も何十年も論争を重ねて『できない』と確認したもの。閣議決定で済む話ではない。政治家がやりたくてもできないことをまとめた『足かせ』が憲法。政治家が何でもできるようになったら立憲主義でなくなる」と浦田教授はクギを刺す。
◇自分に有利な審判交代と同じ
批判は身内からも上がる。「目指すところは安倍さんと同じ」という山崎拓・元自民党副総裁は解釈改憲を否定する。「長官を代えて解釈を変える手法は、スポーツの試合で自分に有利なように審判を代えるようなもの。集団的自衛権を行使したいのなら憲法改正手続きに沿って国民投票を行い、堂々と民意を問うべきだ。そうではなく、歴代政権の解釈が間違いというなら何が間違いだったのか、あるいは時代がどう変わったのかをきちんと説明する。本質的な議論なしに解釈改憲に向かえば国民は反発し、政権は揺らぐ。そうなれば憲法改正はできずに終わる」
解釈改憲をバックアップするのが、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇、座長・柳井俊二元駐米大使)だ。政府は憲法解釈について「ここでの議論を踏まえて対応する」(8月13日の政府答弁書)。安保法制懇は07年に第1次安倍内閣が設置。翌年、解釈改憲で集団的自衛権行使を認めるよう報告書をまとめたが提出時、既に安倍首相は退陣。受け取った福田康夫首相は棚上げした経緯がある。この安保法制懇が今年2月、再招集された。年内にも改めて提言をまとめるが、メンバー13人は5年前と全く同じ。「憲法解釈を話し合うのに憲法の専門家が少ない」と憲法軽視を不安視するのが山崎氏。8人の学者のうち憲法学者は西修駒沢大名誉教授(比較憲法)だけ。他は国際政治や国際法の専門家だ。
◇安保法制懇では必要性ない議論
より根本的な疑問がある。第1次安倍内閣時の安保法制懇は集団的自衛権を巡り、公海上で攻撃された米軍艦の防護のための反撃▽米国に向けた弾道ミサイルの迎撃−−の2類型について検討した結果、「集団的自衛権の憲法解釈変更が必要。政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能であり、憲法改正を必要とするものではない」とした。今回の安保法制懇では尖閣問題や北朝鮮のミサイル問題などを念頭に集団的自衛権についてはこの2類型にとらわれずに幅広く議論が進められている。
これに対し、防衛庁(当時)官房長などを歴任、04〜09年に内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)として自衛隊のイラク派遣を統括した柳沢協二氏は次のように語る。「近海で米艦が攻撃されれば日本有事で憲法が認める個別的自衛の範囲内であるし、米国に向かうミサイルは北極を通るため物理的に国内から迎撃できない。いずれも集団的自衛権を行使したいという抽象的な政治目標を達成したいだけではないか。必要性に基づかない議論をしているから手法に無理が生じる」
前回の安保法制懇では集団的自衛権の対象国が米国限定だったのに対し、今回は米国以外に拡大される見通しだ。柳沢氏は「そこまでするニーズがあるのか。あるなら国民的合意の下での憲法改正を目指すべき話だ。自衛官の命の重みを考えて議論しているのか。それが最も気がかりだ」と批判する。
なし崩し的手法はまだ隠れている。自民党が昨年以来、制定を公約している「国家安全保障基本法」には集団的自衛権の行使を明記している。安倍首相は政府提案する考えで、その時期は来年の通常国会以降とされる。浦田教授は「もし成立したら、法律が憲法解釈を変えることになってしまう。最高裁が違憲と判断しない限り、国権の最高機関である国会の議論を経たということで解釈が事実上確定してしまう」と警告する。
憲法解釈がなし崩しに変更されたら、他国から攻撃されるより先に「法治国家」日本が崩壊する。
http://mainichi.jp/feature/news/20130820dde012010010000c.html
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