http://www.asyura2.com/13/senkyo152/msg/662.html
Tweet |
http://blogs.yahoo.co.jp/hellotomhanks/64120890.html
★孫崎享氏の視点ー<2013/08/18>★ :本音言いまっせー!
はじめに
皆さんは、どのような手段で日々のニュースや情報を得ているだろうか。
朝、起きて新聞に目を通す。仕事から戻った夜、テレビの報道番組を観る。
最近では、インターネットのニュースサイトを情報源にしている人も
増えている。
新聞やテレビの報道では、しばしばその「客観性」が問題となる。
選挙前の番組などですべての政党の意見を紹介するのは、「客観報道」を
意識してのことだ。ただし、大手メディアが常に客観的であるとは限ら
ない。世論を誘導しようとする恣意的な報道も少なくないのが実態だ。
そもそも、たくさんの出来事の中から何をニュースとして取り上げるかは、
新聞社やテレビ局の判断である。メディアが取り上げない出来事を
私たちが知る機会はほとんどない。また、どのような報道がなされるか
によって、同じニュースへの見方が全く違ってくることもある。
私が本書をまとめたのは、読者が日ごろ接しているニュースに関して、
2つの“疑う”力を身につけてもらいたいと考えたからだ。
ひとつが、“新聞やテレビといった大手メディアによる報道”を
疑う力である。
この原稿は、参院選の直前に書いている。昨年の衆院選に続いて、
参院選でも自民党が圧勝する勢いだ。読者が本を手に取る頃には、
衆参両院で自民党などの与党が過半数を占めている可能性が高い。
今回の参院選では、大手メディアは揃って安倍政権の経済政策
「アベノミクス」を焦点として取り上げた。その是非によって、
自民党に投票するかどうか決めるべきだというのである。
「アベノミクスに反対だと言うのなら、ほかに景気を良くする方法が
あるのか?」
そんな問いかけをした新聞まであった。
確かに、景気は悪いよりも良い方がいいに決まっている。
しかし、そのことと安倍政権を支持するかどうかは、別問題である
はずなのだ。
昨年末に安倍政権が誕生して以降、株価は大幅に上昇した。
自分のお金を株式市場に投資している人であれば、安倍政権を支持したく
なる気持ちはわかる。また、円安によって多くの大企業では収益が
好転した。大企業に勤務する人が、安倍政権の政策は正しいと考えても
当然であろう。
ただし、その他の国民にとっては、アベノミクスの恩恵があるかどうか
は全くわからない。安倍政権はインフレ政策を取っている。
今後、物価は確実に上昇していくことだろう。そうなれば、年金生活者
にとっては痛手だ。また、物価が上がったからといって、中小企業の
社員や派遣労働者の賃金が増えるとも限らない。
つまり、アベノミクスで恩恵を受ける層は、少なくとも現状では
国民全体の一部に過ぎないのだ。にもかかわらず、多くの国民が
安倍政権を支持している。そこに私は、大手メディアが巧妙に仕組んだ
“罠”を感じてしまう。「他に景気を良くする代案がないのなら、
安倍政権を支持するしかない」といった具合に、世論を誘導している
としか思えないのである。
政治が全力で守るべきものは何か。それは国民の「命」と「暮らし」
だと私は考える。その意味では、安倍政権が推し進める「原発再稼働」や
「TPP(環太平洋経済連携協定)」への参加問題は、「アベノミクス」
にも増して重要なテーマだと言える。しかし、これらのテーマは参院選
では片隅に追いやられ、争点にすらならなかった。
先日、私はある国際会議に出席するため、中国を訪れる機会があった。
滞在先となった北京のホテルで朝、外を眺めていて驚いたことがある。
午前8時になろうというのに、太陽が直視できてしまう。上空をスモッグ
が覆っているからだ。北京の大気汚染がひどいとは聞いていたが、
これほどだとは想像していなかった。
中国の共産党政権に対しては、一党独裁体制への批判が絶えない。
だが何より問題なのは、政権が自国民の命と暮らしを軽視している点だ。
そのことは、大気汚染に対策を講じず、長く放置してきた事実に象徴
される。それと似たことが、原発再稼働やTPP参加問題を通じて
日本でも起ころうとしている。
では、選挙前になぜ「アベノミクス」の是非ばかりが取り上げられ、
「原発」などは大きなテーマにならなかったのか。その答えは簡単だ。
大手メディアが争点として取り上げなかったからだ。
今年6月に朝日新聞が実施した世論調査によれば、原発再稼働に
反対する人の割合は59パーセントにのぼった。現在も過半数の国民が
原発再稼働に異を唱えているのだ。つまり、国民の意志が政策に
反映されない状況が生まれてしまっている。
原発再稼働に反対する人たちには、今回の参院選で棄権した人も
多かったのではなかろうか。
「自民党には投票したくないが、かといって票を入れたい政党がない」
そうした声は、昨年の衆院選の際にも多く聞かれた。
全国の比例得票数では前回2009年の衆院選すら下回った自民党が
圧勝したのは、投票率自体が下がったことが大きく影響した。
今回の参院選でも、同じことが起きるとすれば、恩恵を受けるのは
自民党なのである。
新聞の1面に取り上げられているからといって、自分にとって最も
重要なニュースだとは限らない。ネットで検索すれば、同じニュースでも、
大手メディアとは違う切り口の報道や解説を簡単に見つけることができる。
読者には是非、大手メディアの報道を“疑う”という視点を持って
もらいたい。
もうひとつ、私が本書で読者に求めたいのは“政府という存在”を
疑う力である。
1960年代末、私が外交官として初めて赴任した先はソ連だった。
共産主義国家のソ連には、言論や報道の自由はなかった。
人々は政府が公表する情報など全く信じてはいない。
共産党機関紙の『プラウダ』にはプラウダ(真実)なし、と揶揄されて
いたほどだ。
後に勤務したイランでは、政府によって反体制派の新聞が次々と廃刊に
追い込まれる状況を目の当たりにした。存続を許されたのは、政府の
御用新聞だけだった。
政府にとって情報とは、統治の道具である――。
それは何も、共産主義国家やイスラム圏の国々に限った話ではない。
言論の自由が保障されている日本でも、政府が情報をコントロールしよう
とする点では全く変わりない。
参院選前には、TBSへの党幹部の出演を、自民党が拒否したことが
報じられた。同局の番組で自民党を批判する内容があったからだ。
選挙直前ということで新聞やテレビも大きく扱ったが、政府側による
メディアの選別は普段から頻繁に起きている。
また、政府が個人に攻撃の矛先を向けることもある。
私自身も最近、ある自民党の代議士から国会で名指しされた。
第5章でも詳しく書いたが、私がTPPや尖閣問題で安倍政権に批判的な
論陣を張っていることが問題だとして、NHKに出演させないよう圧力を
かけてきたのだ。政府の政策に反対する者の意見は、公共放送では
流すべきではないというわけである。たとえ日本であっても、
こうした「言論統制」が起こり得る。
私が最もショックを受けたのは、自民党代議士からの圧力に対し、
他の議員はもちろん、大手メディアからも全く疑問の声が出なかった
ことだった。意見の違いは認めたうえで、互いに議論を戦わせる。
それが民主主義の鉄則であるはずなのに、これでは言論の自由などあった
ものではない。
私には、日本の社会がどんどん狭量になっているように思えてならない。
意見の違いを認め合う土壌が失われつつあるように感じられるのだ。
そうした社会の雰囲気にも後押しされ、安倍政権が参院選後、独善性を
強めはしないかと危惧している。
「国会で過半数を占めているのは、国民が自分たちの政策を支持している
からだ」
そうした論理で、様々な政策が推し進められていくことだろう。
そのなかには、原発の再稼働やTPPへの参加もある。また、憲法改正も
含まれるに違いない。すべて20年、30年先の日本人の暮らしを大きく
変えてしまいかねないテーマばかりである。
「こんなはずではなかった」
やがて日本人が、そう気づく日が来るかもしれない。その日が1日でも
早く訪れるよう、読者の皆さんには“疑う”力を養ってもらいたいと
思っている。
本書では、「TPP」「沖縄」「安倍政権」など様々なテーマを取り
上げ、新聞やテレビの報道からは見えてこない“真実”を私なりに伝えよう
と努めた。また、海外の報道などを通じ、日本が世界からどう映っている
かも紹介している。
自らを愛国者と称する安倍晋三首相は、
「日本を取り戻す」と言う。この国を愛する気持ちは、私も安倍氏には
決して負けていない。だからこそ、敢えて私は「日本を疑う」のである。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。