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下地島空港でタッチ・アンド・ゴーの訓練を行う全日空機=8月9日、沖縄県宮古島市
2013.8.15 18:00
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130815/plc13081518000039-n1.htm
陸上自衛隊「沿岸監視部隊」の配備が争点となった沖縄県与那国町長選で、部隊を誘致した現職の外間守吉氏が3選を果たした。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺など東シナ海で示威行動を拡大する中国をにらみ部隊配備は不可欠だが、配備に反対する相手候補との票差はわずか47票。国防という国政の最重要課題の成否が自治体の選挙で左右されかねなかったが、こうした脆(もろ)さは与那国だけの事例ではない。この1カ月、沖縄で体感した「民意」のありようをリポートする。
■北部訓練場
「自分の目で見て、本当の住民の声をよく聞いてきてください」
7月9日、防衛省幹部に念押しされ、沖縄本島北部の東村に向かった。海兵隊のジャングル訓練で知られる米軍「北部訓練場」に近い高江という集落では、ヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)移設をめぐり工事車両の通行を阻む激しい妨害行為が続いている。
生まれも育ちも高江の50歳代の男性がインタビューに応じてくれた。
「過激な妨害活動をしている住民は、ごく一握りにすぎません」
高江には50世帯ほどが居住しているが、過激な妨害活動を行っているのは3世帯だけだという。ところが工事が始まると50人ほどが集まってくる。
「本島中南部や県外から来ているんです」
反対運動の現場に行ってみた。訓練場の外周にバリケードや車両が置かれ、工事車両の出入り口が封鎖されていた。
監視するようにイスに座っていた男性に「どちらからですか」と聞いた。 「わし? 大阪やけど」
この人には、ほかに帰るべき家がある。
住民男性の言葉を思い出しながら現場を後にした。
「抑止力のために犠牲になろうという考えはありませんが、米軍がこの訓練場を手放すはずがない。生まれ育ったこの土地で生きていくためには、安全対策や防音について国と現実的な話し合いをしていくしかないんです」
■与那国島
8月5日、町長選の告示を翌日に控えた与那国町に入った。ここでは現職の外間氏の3選に向け、周到な策をめぐらせていた男性に会った。
与那国島を回ると、陸自誘致に反対するノボリを目にする。男性は、反対運動をあおるために島外居住者がやってきてはノボリを立てているとみる。
「島民のうち本音で自衛隊アレルギーが強いのは5%ぐらいじゃないかな」
つまり島外居住者がエスカレートさせる反対運動に引きずられている島民が少なくないとの見立てだ。
町長選で警戒したのも島外居住者の動向だった。投開票日の3カ月前までに住民票を移せば投票できるため、反対派が大挙して与那国町に住民票を移しかねないからだ。
それを封じるため、陸自誘致派の「内紛劇」を演出した。
外間氏が3月、陸自配備に伴う「迷惑料」として10億円を防衛省に要求したのがきっかけだった。この法外な要求が誘致派の住民に不信感を抱かせたのは事実で、誘致派内で外間氏とは別の候補を擁立する動きも取り沙汰された。男性はこれを逆手にとり、反対派の油断を誘った。
「誘致派が分裂すれば票が割れ、住民票を移転させなくても勝てると反対派は楽観するはずだ」
内紛劇を続け、外間氏の一本化を決めたのは告示まで約1カ月という7月4日。島外居住者は住民票を移す時期を逸していた。
取材の合間に寄った飲食店で出会った女性は、ある体験談をしてくれた。
昨年4月、与那国町と姉妹都市を締結している台湾・花蓮市の交流団73人が、水上バイク35台で洋上150キロを渡り与那国に到着した。
女性は波しぶきをあげながら次々と浜に近づいてくる水上バイクを高台から見物しているうち、背筋が凍る思いがしたという。
「中国軍が同じように押し寄せてきたら、あっという間に占領されちゃう」
いま与那国島を守っているのは、2人の警察官と彼らの携行する拳銃2丁だけだという現実を知るからこそ、交流事業さえ恐怖体験に変わってしまうのだ。
■下地島空港
8月9日、与那国町長選の取材を終え、宮古島(宮古島市)に移動した。宮古空港から一路、平良港に向かい伊良部島行きのフェリーに乗った。伊良部島に隣接する下地島の「下地島空港」を見るためだ。
「素晴らしい滑走路だった。あそこを使えるようになれば…」
10年近く前、下地島空港の視察から帰ってきたばかりの航空自衛隊幹部の言葉と表情を今もよく覚えている。軍事専門家がそこまで惚(ほ)れ込む施設を自分の目で確かめたかった。
南西方面の防空拠点は空自那覇基地。ただ、昨年12月に中国機が尖閣周辺で領空侵犯をした際、那覇基地から緊急発進したF15戦闘機が到着したときには中国機は領空を出ていた。
下地島空港は那覇基地よりも尖閣に近く、3千メートルの滑走路も備えている。
下地島空港はANA(全日空)などのパイロット訓練に使われているが、かねて東シナ海での航空優勢を確保する上で自衛隊にとって欠かせない空港だと指摘されていた。
しかし、自衛隊の使用に道は開けていない。地元では空港に自衛隊を誘致する動きもあったが、頓挫した経緯がある。
空港わきに着き、タッチ・アンド・ゴーを間近に見物できるポイントでカメラを構えていると、40歳代の男性に声をかけられた。
聞けば、伊良部島出身で帰省中だという。
「JAL(日本航空)は訓練から撤退したし、そのうちANAだって撤退するかもしれない。自衛隊を誘致しなければ、空港機能は維持できないかも」
男性は問わず語りで続けた。
「でも自衛隊を誘致すれば、ダイビングポイントという貴重な観光資源を失うことになるかもね」
まるで複雑な住民感情を両面から説明してくれたようだった。
一連の取材で自衛隊や米軍に対する強いアレルギーを口にする住民もいた。さまざまな立場の声をまんべんなく拾えたわけではないし、沖縄の基地負担とそれに重きを置いた主張を軽視するつもりもない。
与那国町の外間氏が要求した「迷惑料」に象徴されるように、基地問題には振興策も絡み合う。そこへ中国の攻勢に伴い抑止力という要素の比重が高まり、住民の判断材料は複雑さを増している。
本当の「民意」はどこにあるのか−。それをつかむための取材もますます難しくなっているが、声高にスローガンを叫ぶ人たちに注意すべきことは身を持って確信した。(半沢尚久)
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