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失言だらけの日本はアジアの平和にとって危険
2013年8月15日(木)15:30
(フィナンシャル・タイムズ 2013年8月12日初出 翻訳gooニュース) ギデオン・ラックマン
安倍政権の広報外交はひどい。中国との溝が深まるだけでなく、アメリカとも距離を作りかねない。
日本が見せる広報外交のやりかたは、バカバカしさと陰険の間をウロウロしている。日本政府はここ数カ月というもの、アジアの周辺諸国をとことん不快にさせると同時に欧米の同盟諸国をとことん気まずくさせる、まさにそれを目的としているかのような外交の失策ばかりを次々に重ねてきた。
似たようなケースが先週もあった。日本は第2次世界大戦後最大級の海上艦を建造し、その進水式を行なったのだ。この艦は名目的には駆逐艦だが、実質的には空母だ。日本海軍の強化は、中国の軍拡に対する正当な対応かもしれないが、アジアの海で緊張が高まっている今、日本は慎重に進むべきだ。だとすると、この新しい艦を「いずも」などと名付けたのはいったいどこの天才なのか? 1930年代の中国侵攻の一翼を担った旧日本海軍艦「出雲」と同じ名前に。
日本はわざと挑発していると、中国はただちに批判した。似たような事例が何もなければ、中国の批判は的外れだと受け流しやすいのだが、そうではないのだ。このわずか数日前には日本の副総理大臣の麻生太郎氏が、日本の平和憲法を改憲するにはナチスの手口から学ぶのがいいかもしれないと示唆していたことが発覚している。麻生氏はこう言った。「だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね」。当然ながら激しい批判の声が次々に上がり、内閣官房長官が「安倍内閣としてはナチス政権を肯定的にとらえることは断じてない」と政府の立場を改めて説明する羽目になった。
このわずか数カ月前には、安倍晋三首相が不快な失態を演じている。自衛隊練習機に試乗した安倍首相は親指を立てた姿で写真に収まったのだが、その機体の側面には「731」という数字が大きくはっきりと描かれていた。しかし「731」というのは、生きた人間に対する生物化学実験を行なった悪名高い旧日本陸軍部隊の番号なのだ。安倍首相のこの写真が出回った5月、私は韓国にいた。そのとき話を聞いた韓国の人は誰もが、これは意図的な挑発だと確信していた。当時の私はそれは考え過ぎだと思い、取り合わなかった。しかし今となっては、どちらとも言えなくなっている。そして韓国の新しい大統領、朴槿恵(パク・クネ)氏はあえて前任者4人の先例を破り、初の公式訪問先に日本ではなく中国を選んだ。
過去の戦争に対する日本政府の姿勢は15日にさらに試されることになる。日本の戦死者慰霊のため保守政治家はよくこの日を選んで靖国神社を参拝するのだ。しかし靖国神社には戦犯14人も祀られている。そのため日本の政治家たちが参拝するたびに、アジアの他の地域は当然のこととして憤慨する。今年は安倍首相と主要閣僚は靖国に参拝したい気持ちを我慢するようだが、それ以外の政府関係者は何人も参拝するはずだ。
しかし靖国参拝を多少我慢したからといって、これまでのダメージを全て帳消しにできるわけもない。日本に友好的な欧米諸国は、事態を警戒している。日本に長く暮らし、信頼できる政府筋の情報元をたくさん持つ人物は、今の政権について「1945年以来、最もナショナリストな政権だ」と言う。安倍氏の取り巻きの中には「第2次世界大戦の唯一の問題は日本が負けたことだ」と考えているような、そういう印象を与える人たちが何人かいるのだと。そのような考え方では、中国との溝が深まるだけでなく、アメリカとの溝も同様だ。日本は防衛をアメリカに頼っているのに。実際に米政府高官たちは中国のナショナリズムと同じくらい、日本のナショナリズムを懸念しているようだ。オバマ政権の第1期目に東アジア・太平洋担当の国務次官補だったカート・キャンベル氏は最近の記事で、太平洋における戦争リスクに懸念を示し、「日本政府も中国政府も、国内のナショナリスト的な感情を利用しようと決心している」と指摘した。
安倍政権のひどすぎる広報外交は、日本にいる大勢の優秀な外交官にとって悪夢に違いない。外交官たちは、日に日に危険度の高まる地域において日本の利益を守ろうとしているのだから。これが特に残念なのは、自分の国を再生させようという安倍氏の考えの中には、正しい方向を向いているものもあるからだ。「アベノミクス」は高リスクではあるが、遅ればせながらもやっと出てきた日本のデフレ対策だ。自国の防衛に日本がもっと活動できるようにするために憲法を改正するというのも、理屈としてはまともだとさえ言える。
中国が力を増すのに伴い、世界第3の経済大国・日本が自国防衛をまるごとアメリカに依存している状態の異常性も高まっている。現行の取り決めは日米双方にとって負担だ。日本はアメリカへの依存について神経質かつ恨みがましい状態になるし、アメリカは日本政府のせいで対中戦争に巻き込まれるのではないかと不安になる。
日米安全保障の条件を緩めた方が、取り決めのバランスはよくなるだろう。そうすれば東シナ海の小規模な領土紛争が世界戦争の火種となってしまうような、そんなリスクはなくなる。その見返りに日本は自前の軍事力を増強できるようになる。むしろ、増強するよう奨励されることになる。
アジアの戦略バランスがそうやって何らかの形で変化すれば、中韓政府だけでなく各地に動揺を与えるのは必至だ。それだけに、最高の外交技術を駆使して、細心の注意を払いながら実施しなくてはならない。それにもかかわらず今の日本政府の閣僚といえば、大日本帝国について非建設的かつ曖昧な言動を繰り返し、ナチスや拷問部隊について異様な失言や失態を重ねるばかりだ。笑い話にしたいところだが、事態はあまりに深刻かつ危険だ。とても笑い話では済まされない。
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フィナンシャル・タイムズの本サイトFT.comの英文記事はこちらhttp://www.ft.com/intl/cms/s/0/c4d9e34c-033a-11e3-9a46-00144feab7de.html(登録が必要な場合もあります)。
(訳注・原文に「navy」と書いてある部分は「海上自衛隊」などとせずにあえて「海軍」としました)
(翻訳・加藤祐子)
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