03. 2013年8月07日 19:39:46
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齋藤精一郎「世界経済の行方、日本の復活」 消費増税は「1年先送り」が順当だ nikkei BPnet 2013年08月07日 hatenaRSSRSSRSS 7月の参院選で自民党が圧勝し、衆参のねじれが解消されました。安倍政権としては盤石の体制が整ったわけですが、脱デフレ戦略に一点の曇りもなくなったかといえば、そうはならないようです。「勝って兜の緒を締めよ」の自民党 7月11日の日銀金融政策決定会合で、景気の現状判断を「緩やかに回復しつつある」とし、「回復」という言葉が使われました。黒田東彦総裁も「前向きの循環に入っている」との見解を示しています。政府も7月の月例経済報告で「自律的回復の動きも見られる」としました。 景気は街角景気も含めて改善に向かっているようです。6月の消費者物価指数(生鮮食品除く)を見ても、プラス0.4%と、14カ月ぶりのプラスとなりました。脱デフレの動きが少しずつですが見られるようになってきました。 経済状況が好転するなか、自民党は選挙に勝利し、その圧勝ぶりに自民党自身も驚いていると聞きます。ただ、この勝利に浮かれることなく、「勝って兜の緒を締めよ」という姿勢を保とうと心がけているようです。 具体的には、アベノミクスの「第3の矢」である成長戦略について、今秋にかけて第2弾を打ち出すとしています。税制改正を含め、強力な政策が検討されているとの報道もあり、そのこと自体は心強いと思います。 Next:“内憂外患”の警戒警報がちらほら また、国際的な懸念が高まっており、市場も常に関心を払っている財政再建問題についても、しっかりとした道筋を示していく心積もりのようです。「第4の矢」である財政再建を実現するため中期財政計画の策定に取り組んでいかなくてはなりません。 実際、経済政策についてはまだまだ気を抜けない状況が続いています。よく見てみると、“内憂外患”の警戒警報がちらほらと点滅し始めています。 まず、外部の問題としては、新興経済の調整局面入りがはっきりとし、長引く可能性があるということです。それに欧州連合(EU)の長期的停滞が加わり、世界経済の下ぶれリスクが高まっています。最近のロンドン・エコノミスト誌(7月27日号)は世界経済が「大減速期(The Great Deceleration)」に入りつつあると論じています。世界経済はまさに潮目を迎えているのです。 続いて、世界経済リスク以上に、日本経済の先行きに立ちふさがろうとしている内部の問題が、消費増税の問題です。 2012年6月、民主党の野田政権が民主・自民・公明による3党合意を成立させ、社会保障一体改革の一環として消費増税を決定しました。同年8月には、消費増税関連法案が成立しています。 具体的には、現在5%の消費税率を2014年4月に8%、2015年10月には10%に引き上げる予定です。このスケジュールは、今年10月までに正式決定されることになっています。 Next:よみがえる「1997年の悪夢」 多くの人は、消費増税は既定路線であり、来年4月には予定通り増税されるべきと考えるでしょう。しかし、ここに来て、消費増税が日本経済を揺るがす“内憂”になるとの認識から、大きな政治テーマとして浮上してきました。 脱デフレ政策の初動がうまくいっており、参院選勝利後も、「勝って兜の緒を締めよ」作戦で経済政策を進めていく方針の安倍政権にとって、消費増税で水を差されることだけは避けたいと考えているはずです。ここで経済が悪化するようなことがあれば、せっかくの参院選圧勝効果も打ち消されることになりかねません。 おそらく、安倍晋三首相の脳裏には「1997年の悪夢」が浮かんでいるのではないでしょうか。 1997年4月、橋本政権は消費税率を2%引き上げて5%としました。その後、同年夏から景気は悪化し始め、98年夏の参院選で橋本政権は大敗。不良債権問題などもあって経済状況がまだ安定していないなか、消費増税を強行して消費者心理を悪化させたとして、橋本首相は批判を浴びることになってしまいました。 さらに、98年からは戦後初めて消費者物価が前年度を下回るようになります。ここから日本の「15年デフレ」が始まったのです。 いま、消費増税をしてしまうと、「1997年の悪夢」がよみがえるのではないかとの警戒心が、安倍政権内に出てきたとしてもおかしくはありません。 Next:デフレ突破の途中で消費増税はあまりにリスキー 現実問題として、消費増税の影響を「水鳥の羽音」と笑うことはできなくなってきています。20年の停滞と15年のデフレのもとで消費者は先行きに確たる展望を依然として持つには至っていません。ですから、増税の消費者心理へのマイナス効果は決して過小評価できません。 7月11日に日銀が発表した経済・物価情勢の展望でも、2014年度の消費者物価指数(生鮮食品除く)はプラス3.3%、2015年度はプラス2.6%と予想されています。一方、消費増税の影響を省いたケースとして、2014年度はプラス1.3%、2015年度はプラス1.9%という数字も発表されています。この1.9%というのは、政府・日銀が目標とする2%の物価上昇率に近い数字です。 しかし、消費者が体感するのはあくまでも消費増税の影響を含んだ物価上昇率なのです。3.3%、2.6%という高い物価上昇率に直面したとき、給料も上がっていない消費者は、財布のヒモを締めざるをえなくなるでしょう。 デフレ突破(実現のメドは2015年春)の中途の2014年春に消費増税を決行するのは、あまりにリスキーです。デフレ突破の懸命な努力が増税で撹乱されかねないからです。しかも世界経済は「大減速」の度を強めてもいます。 Next:先送りで財政リスクが浮上する可能性も ただ、消費増税を先送りするとなると、一方で財政リスクが浮上してきます。「やはり日本の財政再建は遅れるのではないか」という認識が広まると、国債の売り浴びせが始まる危険性も考えられます。 現在、日銀が「異次元緩和」をしているにもかかわらず、長期金利が0.7%とか0.8%で高止まりしているのは、やはり「日本の財政再建がどうなるかわからない」という不安が市場の底流に存在しているからです。 消費増税が先送りされてしまえば、長期金利が急上昇して、1%を超え、2%台に上昇するリスクもあります。そうした事態を避けなければならないことはいうまでもありません。 「15年デフレ」からの脱却はまだまだ道半ばです。デフレ突破策の正念場は2014年度なのです。この2014年4月に3%増税すれば、どうなるか。日本経済が不安定化するのは必至です。これでは、「角(財政)を矯めて牛(デフレ突破)を殺す」の愚になりかねません。 Next:1年先送りの間に成長戦略の断行、財政健全化計画を 私は、消費増税の時期を「1年先送り」し、デフレ突破に展望が開かれる2015年度から消費増税をするというのが、考えうる最良の策だと思います。 巷では、消費税率を毎年1%ずつ引き上げていけばいいとのアイデアも出ているようですが、そんなことをすれば事務経費は膨大なものとなり、企業活動に悪影響を及ぼします。 そんな小手先でごまかすのではなく、「消費増税は1年先送りして、その間に法人減税などの成長戦略を断行し、2015年春には脱デフレにメドをつける」というメッセージを明確に打ち出すことがデフレ突破成功のカギです。 同時に、「1年先送り」への市場の不安を封じ込める決定打として大胆な行革型歳出削減の決意のもとに3年後をメドとする「財政健全化計画」を内外に強く宣言することです。 増税に伴う経済撹乱効果を防ぎ、2014年度にデフレ突破戦略を軌道に乗せるには、「増税の1年先送り」とともに「歳出削減を通じる財政再建」に大きく踏み込む以外に王道はありません。ここに今般の自民圧勝の政治経済学的な含意があるのではないでしょうか。 日本経済の真の再生を考えた場合、「消費増税は1年先送り」しか選択肢はありえないのです。 齋藤 精一郎(さいとう・せいいちろう) NTTデータ経営研究所 所長、千葉商科大学大学院名誉教授 社会経済学者、エコノミスト 1963年東京大学経済学部卒。63〜71年まで日本銀行勤務。72〜05年まで立教大学社会学部教授(経済原論、日本経済論担当)。05年〜09年まで千葉商科大学大学院教授。 2012年まで24年間、「ワールドビジネスサテライト」(WBS、テレビ東京系)のコメンテーターを務める。 日経BPネットの特集サイト「常勝経営」に「デフレ突破のための『真の処方』は何か」全12回を連載(2013年1〜6月)。 主要著作は、近著に『デフレ突破 −第3次産業革命に挑む−』(日本経済新聞出版社、2012年12月)、『「10年不況」脱却のシナリオ』(集英社新書)、『パワーレス・エコノミー 2010年代「憂鬱の靄」とその先の「光」』(日本経済新聞出版社)など。翻訳書としてはジョン・F・ガルブレイスの『不確実性の時代』(講談社学術文庫)など。
伊藤元重「瀬戸際経済を乗り切る日本経営論」 アベノミクスで財政健全化、税収増を国民に還元することも必要 nikkei BPnet 2013年08月07日 hatenaRSSRSSRSS デフレの下での財政再建は困難 デフレが続く中で財政再建を実行することは非常に難しい。日本が経験によって学んだことだ。 理論的には、デフレの下でも財政健全化を進めることができそうに思える。増税を行い、歳出カットを続け、そして構造改革を行うのだ。厳しい財政危機に直面している欧州諸国はそうした政策を続けてきた。 欧州諸国はデフレの状況にあるわけではない。ただ、厳しい経済状況下で財政健全化を進めようとした。その結果、失業率は20%を超えるような状況になり、景気低迷の中で税収も低迷したままだ。それでもいずれは経済が回復することを期待して、劇薬とも言える財政健全化と構造改革を続けてきた。 しかし、最近になってこうした財政改革一辺倒の路線に見直しの動きが始まっている。イタリアでは、構造改革を行ってきたモンティ首相が退陣した。アイルランドと並んで構造改革では優等生と言われてきたポルトガルでも、政策を巡って連立解消の動きが見られる。フランスでも、サルコジ大統領からオランド大統領に代わって、政策姿勢に変化が見えている。 日本の経験について振り返ってみよう。デフレが続く中で、名目国内総生産(GDP)は減少する一方である。当然、政府の税収も減少していく。社会保障費などの歳出は増大するばかりだ。政府の公的債務の対GDP比の数値も、分子の公的債務は減少しないのに対して、分母の名目GDPは減少傾向にあった。 こうした中で財政健全化を果たそうとすれば、相当に厳しい歳出削減策、あるいは増税策を打ち出さなくてはいけない。低迷している景気の中で、これらの政策を打ち出すことは、政治的に非常に困難である。だから、日本でも効果的な財政再建策が打ち出せないまま、公的債務は増え続ける一方であった。 Next:アベノミクスで変わる財政再建の前途 デフレからの脱却を優先させることを打ち出した安倍政権のマクロ経済政策は、こうした流れに大きな変化をもたらした。財政再建ということでも、デフレからの脱却を実現するということでも、意味は大きい。デフレの下で財政再建は難しい。だから、デフレから脱却すれば、財政再建のきっかけをつかむことができるかもしれない。もちろん、デフレから脱却すれば財政問題が魔法のように消えるわけではないが。 デフレ脱却による財政健全化への効果で、もっとも見えやすいのは、物価上昇に伴う税収増である。物価が上昇すれば、それに応じて名目所得も増えていく。それが税収増加の効果をもたらすのだ。2012年度の一般会計決算が出たが、税収額は当初の見込みよりも1兆円ほど多くなったという。これもアベノミクスの成果といってよいだろう。 一般的に名目成長率が1%増えれば、税収は当初はそれよりも高い率で増えていくと言われる。専門用語を使えば、税収の「所得弾力性」は1よりも大きいのだ。時間がたてばこの弾力性は1に収斂していくだろうが、しばらくは名目成長率以上の税収増加が見込める。 税収に効いてくるのは、名目成長率である。潜在成長率が1%程度であると言われる日本で、それ以上に高い実質の成長率をずっと維持することは簡単ではない。成長戦略を大胆に推し進めて、潜在成長率を引き上げるようにしなくてはいけない。それはもちろん重要なことだが、かりに実質の成長率がしばらくは大幅に上がることはなくても、物価が順調に上昇することで、名目成長率が高くなれば、税収もそれなりに拡大していくことになる。 アベノミクスによってデフレからの脱却に目処がつけば、日本経済は財政健全化のきっかけをつかめるかもしれない。デフレからの脱却で物価がほどよく上昇していき、経済も名目でより高い成長率を実現し、それが結果的に財政の健全化につながる。こうした好循環を作り出せるかどうかが問われている。 Next:消費税率引き上げが当面の大きな課題 そうした中で、日本にとって当面の大きな課題が、2014年4月に予定されている消費税率の引き上げである。消費税率の引き上げによって景気が失速し、デフレからの脱却が難しくなるようなことがあっては大変であるからだ。一部には、デフレ脱却の確信が持てるまで、消費税率の引き上げを延ばすべきであるという議論もある。 消費税率の引き上げを延ばすとすれば、それはそれでいろいろな問題を起こす。市場から国債を売り浴びせられ、長期金利が上昇するという懸念がある。また、社会保障国民会議で議論している社会保障制度の改革も、消費税率が引き上げられるということが前提となっている。消費税率の引き上げが先送りされれば、社会保障費の財源にも深刻な影響を及ぼす。 そこで、2014年から2015年にかけての、マクロ経済政策の運営のあり方が重要となる。消費税率を予定通りに引き上げるために、マクロ経済政策をうまく活用する必要があるのだ。 たとえば、デフレ脱却によって税収の拡大が見込まれるということを言った。今後は、税収がさらに増えることにもなるだろう。こうした税収の増加は、アベノミクスの成果でもある。最終的に2015年のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の財政赤字幅を縮めるという政府の目標を達成するためには、この税収の増加分は重要な意味を持つ。ただ、2014年のマクロ経済運営において、この税収増加分をどう利用するのかは柔軟に考えるべきだろう。 Next:アベノミクスによる税収増を国民に還元する アベノミクスは、日本経済を確実に変えつつある。極端な円高が修正され、輸出企業をはじめ多くの企業で業績が大幅に改善されつつある。株価が上昇したことも経済に活力を与え、消費の拡大にも貢献している。有効求人倍率や失業率に出てくる雇用状況も、着実に改善の方向に進んでいる。 数字の上では、このように順調な経済状況の改善が見られるが、一般の国民にはその成果がまだなかなか実感としてわかないようだ。今後物価上昇の中で、電気料金や食料品の価格が上昇していくようだと、インフレの悪い面だけを実感するということにもなりかねない。 消費税の引き上げによる景気の落ち込みを回避するためにも、そして国民がアベノミクスの影響を良いこととして実感できるようにするためにも、アベノミクスで得られた税収の増加などを国民に積極的に還元していくことが必要である。それによって消費の落ち込みを防げれば、消費税率の引き上げの悪い効果を打ち消すことができるはずだ。 Next:賃上げによる減税措置のハードルが高すぎる デフレからの脱却で穏やかにインフレになったとき、もし賃金がすぐに上昇しないようだと、国民はインフレの悪い面を強く感じるようになる。そこで賃金をいかに引き上げていくかが政策の重要なポイントとなる。
賃金は労働市場の需給の実態、そして企業の判断にゆだねられるものである。政府が命令して賃金引き上げが実現するというものでもない。ただ、デフレ脱却によって税収の増加があるなら、その財源の一部を利用して人々の賃金や所得を引き上げる工夫が必要だ。 すでに政府は、賃金を大幅に引き上げた企業に対しては、そのコストを法人税の控除で補填するという制度を導入した。これによって、企業が積極的に賃金を引き上げる環境を整備しようとした。 残念ながら、この政策はあまり機能しているとは思われない。賃上げによって減税措置を受けるためのハードルが非常に高いからだ。5%以上の賃上げを行った場合、最大でその支給増加額の10%を法人税の税額控除できる制度である。5%の賃上げというのはかなりの規模の賃上げであるにもかかわらず、そのコストの10%しか税額控除できない。また、多くの中小企業のように赤字で法人税を払えないような会社はこの制度の恩恵を受けることはできない。 Next:アベノミクスの成果を実感できるような工夫が必要 制度を再設計して、もっと多くの企業が賃金アップをしやすくなるような政策を検討すべきだろう。 それが難しければ、税収の増加の一部を利用して、消費税引き上げの時点での一時的な戻し税、あるいは定額所得移転のような制度を検討する価値もあるだろう。 消費税率の引き上げによる景気後退はぜひともさけなくてはいけない。そのための手法はいろいろある。そして何より、アベノミクスの成果がその財源を提供してくれるという面があるのだ。 アベノミクスの成果を少しでも早く国民が実感できるようになるという意味でも、消費税率の引き上げのタイミングで何らかの対応を行うことを検討すべきだ。 伊藤元重(いとう・もとしげ) 東京大学大学院経済学研究科教授 総合研究開発機構(NIRA)理事長 現在、「財務省の政策評価の在り方に関する懇談会」メンバー、財務省の「関税・外国為替等審議会」会長、公正取引委員会の「独占禁止懇話会」会長を務める。著書に『入門経済学』(日本評論社)、『ゼミナール国際経済入門』『ビジネス・エコノミクス』(以上、日本経済新聞社)、『ゼミナール現代経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。 |