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2013年07月31日 板垣 英憲(いたがき えいけん)「マスコミに出ない政治経済の裏話」
◆「男児志を立てて郷関を出づ,学若し成る無くんば復た還らず,骨を埋むる何ぞ期せん墳墓の地,人間到る処青山有り」
これは、幕末の真宗の勤王僧「月性」(1817年11月6日〜1858年6月21日、周防国大島郡遠崎村=山口県大畠町=妙円寺住職)の詩である。
いまどき、志を立てて郷関を出て、立身出世を果たして、再び郷関に帰っても、知っている者は、ほとんどいない。大半が、郷関を出てしまっていたり、日本列島の山間漁村部は、「限界集落化」していたりしているので、折角、帰ってはみても、「浦島太郎」のようになってしまっているからである。
それどころか、高齢者ばかりの限界集落は、「鬼」か「山姥」ばかりの文字通り「鬼の住処」になっているところが、どうも少なくない。ジェネレーション・ギャップもあり、因習もこびりついており、本当ならば、そんな恐ろしいところに、「ユーターン」しない方が身の安全、身の幸せなのである。
◆国土交通省の2008年8月17日付け調査報告によると、全国775市町村に所属する6万2273集落のなかに、高齢者(65歳以上)が半数以上を占める集落は7878集落(12.7%)、機能維持が困難となっている集落は2917集落(4.7%)、10年以内に消滅の可能性のある集落は423集落、「いずれ消滅」する可能性のある集落は2220集落、合わせて2643集落という。日本における限界集落とは、社会学者・高知大学人文学部の大野晃教授が1991年に最初に提唱した概念で、過疎化などで人口の50%以上が65歳以上の高齢者になって冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になっている集落をいう。中山間地域や離島を中心に、過疎化・高齢化の進行で急速に増えてきている。限界集落では、集落の自治、生活道路の管理、冠婚葬祭など共同体としての機能が急速に衰えてしまい、やがて消滅に向かうとされている。独居老人やその予備軍のみが残っている集落が多く病身者も少なくない。もはや「原野」に戻すしかないところだ。
こんなところに、40代の働き盛りの壮年が、突然、介護や看護が必要な高齢の両親の面倒を見るために帰郷してきたらどうなるか。
まず、高齢の両親は、周囲から「親孝行な息子を持ってよかったな」と羨望の眼差しで見られることであろう。介護や看護が必要な近所の高齢者は、介護福祉士や看護師に有料でサービスを受けることができても、決められた範囲以外のサービスは受けられない。家政婦の守備範囲である「家事」など細かいサービスについては、面倒を見てもらえないのである。あるいは、別途、「便利屋」を頼むしかない。いずれも有料であり、無料のボランティアを頼むわけにはいかない。
ところが、近所に「優しい心根」の親孝行な壮年が帰ってきた場合、近所の高齢者は、これ幸いに、その壮年の「優しい心根」につけ込んで、日常家事から集落の細々した雑用に至るまで、無料で便利に使い始めるようになる。それがやがて、「便利屋」のようになり、しかも、だれが無限に使ってもタダ働きとなって行く。その場合、その壮年は、一体、どういう気持ちになるか。嫌になった壮年は、両親が他界してからは、いつまでも「便利屋」であり続けることを拒否する。すると、近所からは「なぜやらないのか」と逆恨みされ、「退職金をみんなに配れ」と言われて、拒むと、やがて「村八分」にされてしまう。そして、ありとあらゆる嫌がらせを受け、その果てに、父親の目にそっくりと感じて引き取って、家族の一員として可愛がっていた「愛犬」のことを、近所から「臭い」「汚い」などの罵声を浴びせられて、「保健所に頼んで、処分しろ」と命令口調で言われる。そればかりではなく、神社一帯の芝刈をたった一人でやらされ、自費で購入した芝刈機を焼かれたり、農薬を散布されたり、いじめは、延々と続く。以前に刃物で胸を刺されたこともあり、身の危険を感じた壮年は、自宅にいくつもの監視カメラを設置したり、警察署に相談に行ったりしていた。
◆山口県周南市金峰の限界集落で起きた5人連続殺人放火事件の本質は、いじめ被害者が、「窮鼠猫を噛む」の如く加害者になったところにある。山口県警周南署捜査本部は7月26日、遺体で見つかった5人のうち1人への殺人と非現住建造物等放火の疑いで、無職、保見光成容疑者(63)を逮捕したのである。警察の相談業務が、機能していなかったことも、大事件を惹起した原因の一つであった。むかしのような駐在所が残っていれば、警察官に親切に相談に乗ってもらえたかもしれない。
それどころか、それどころか、保見光成容疑者が7月26日午前9時5分に近くの山中で身柄を確保されたわずか1分後の午前9時6分に、愛犬ゴールデンレトリバーが心臓発作で死んだという。犬や猫は、テレパシーで飼い主の心の動きを感知する。
この犬が保護された直後、診察した獣医が、「犬や猫の姿を見れば、どんな飼われ方をしていたかはすぐ分かる。ゴールデンレトリバーの毛もよく手入れされており、飼い主が、いかに可愛がっていたか、優しい人柄が窺われる」と話していた。保見光成容疑者は、犯行後、エサをたっぷり残して逃げたようであった。加害者と被害者の人間性の違いは、この「犬の死に姿」がよく証明している。
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