http://www.asyura2.com/13/senkyo151/msg/634.html
Tweet |
参議院通常選挙が終わって
開票結果は、大方の予想通りでした。両議院の「ねじれ」は見事に解消されました。政府与党執行部は、当面の政権運営と国会対応に関し、相当な自信を得たように見受けられます。秋の臨時国会以降、この6年間見られなかった「国会の強行採決」が復活するかもしれません。フリーハンドに行政権力が行使され、監視機能を果たせない国会においてノーチェックで政策が決定されていくことに対し、主権者・国民は常に緊張感を持って、厳しい目線を向けなければなりません。
じわじわと、憲法をめぐる環境も変移しています。いくつかの論点が一定の現実味を帯びて語られるようになりました。今回はその中でも、集団的自衛権の行使に係る憲法9条解釈の変更について論じます。個人的印象ですが、安倍首相は、憲法改正以上にプライオリティを置いていると感じます。内容的な問題点は、すでに多くの論稿がありますので、拙稿は手続論に限定します。
内閣法制局主導の憲法解釈
内閣による憲法解釈は、内閣法制局という内閣の補佐機関(官僚組織)が実質的に担っています。そもそも憲法上、公務員等に憲法尊重擁護義務が課されている以上、尊重擁護する憲法の意義(解釈)について、政府全体で統一した内容で共有しなければなりません。尊重擁護すべき憲法解釈を提示するのが内閣法制局の役割の柱です。憲法条文の論理解釈を突き詰め、その解釈を踏まえて内閣法制局が起案に関与した政府答弁書、あるいは憲法解釈に関する内閣法制局長官の答弁を内閣が事実上追認するかたちで政府見解と位置付けられてきています。
具体例を示すまでもありませんが、憲法9条についていえば、「国権の発動たる戦争」「武力による威嚇」「武力の行使」「国際紛争」「戦力」「交戦権」という条文上の文言について各々、政府解釈が存在します。また、「自衛権の所在・要件」「集団的自衛権の行使」「自衛隊の存在」「自衛隊の活動範囲」「PKOにおける武器使用」「武力行使との一体化論」など、自衛隊法の改正、PKO法(特措法)の立法過程等で示された政府解釈が存在しています。
前記の憲法解釈はいずれも、一度も変更されたことがありません。自衛隊の活動範囲は推移拡大していますが、その都度、憲法解釈の変更が行われ、拡がってきたわけではありません。憲法解釈の意味を変えてしまったと受け止められるようになったのは、解釈それ自体の変更ではなく、下位法令の整備・拡大に伴うものです。憲法9条の解釈を1本の輪ゴムに例えるならば、束ねるものが徐々に増えていき、内側から強い圧力がかかって、限界まで伸張している状態に達しているといえます(それでも67年間、ゴムそのものを取り換えたことはありません)。
内閣法制局は、「文民」(憲法66条2項)の意義について一度だけ解釈を変更したことがあります。佐藤栄作内閣の時代です。それ以外の憲法解釈は、論理に基づくものとして安定し、今日まで厳格に踏襲されています。佐藤内閣を除いて、歴代の自民党内閣においても、憲法解釈を変更した実績はありません。
憲法解釈変更のルールは決まっていない
繰り返しますが、内閣法制局による解釈変更はたった一度だけです。憲法66条1項にいう「内閣総理大臣及びその他の国務大臣」による“政治主導”のもと、憲法解釈を変更したことは例がありません。日本は、政治主導による憲法解釈変更の経験がない国です。憲政史上、これを初めて成し遂げようとするのが安倍首相の画策です。
政府として経験がないわけですから、政治主導による憲法解釈の変更の手続ルールは当然存在しません。手続ルールが存在しないなか、解釈を変えるという方針だけ示され、選挙結果を受けて呆然としている国民に対し、一方通行で報じられているのが実態です。
時の首相の思い入れ(思いつき)で憲法解釈が安易に変更されるのであれば、立憲主義の観点からは、これほどの脅威はありません。憲法を制限なく、自由に操ることに他ならないからです。憲法によって拘束・制限されるはずの存在が、統制する側に回ってしまいます。憲法を手のひらに載せ、その瞬間から憲法の目的を見失うことになります。
手続ルールが欠缺状態にあること、そのこと自体の問題点がもっと論じられるべきです。そして、政治部門において手続ルールを新たに確立するのであれば、野党の了解も得られる公正・中立な内容となるよう、丁寧な合意形成を為すべきです。丁寧な手続を欠けば、集団的自衛権の行使を明文化する自民党憲法改正草案の先取りを優先するものと、他の野党の反発を招くだけです。
中曽根見解の射程
内閣における憲法解釈の変更手続に関して、国会でも過去、議論になったことがあります。
衆議院憲法調査会の公聴会(2004年11月11日)で、公述人として出席した中曽根康弘元首相は次のように発言しています。
集団的自衛権の問題ですが、私は、もう6、7年前から、現憲法においても集団的自衛権を行使できる、それは解釈の問題であるから、総理大臣が公式にそれを言明すれば、一時はいろいろ騒ぎもあるかもしれぬが、そのままそれは通用していくはずである、そういうことも言ってきたもので、集団的自衛権の行使は現憲法でもできると。
憲法解釈の変更は首相の一方的言明で足りるという、中曽根元首相の持論が端的に述べられています。
それでは、中曽根見解に従うとしましょう。安倍首相は首相官邸で記者会見を行って、「国民のみなさん、本日から憲法9条の解釈をこのように変更し、集団的自衛権を容認することといたしました。よろしくお願いします」というようなメッセージを発することになるのでしょうか。それとも、歴代首相が首相名で毎年、海の日に発する「談話」のように文書化し、プレス発表するのでしょうか。前記のようなメッセージが発せられた瞬間、必然的に新しい政府解釈となり、公務員を拘束することになるのでしょうか。いずれにせよ、手続的にあまりにも軽すぎると言わざるをえません。個人として「気が変わる」こともありえます。
もし、現職の首相の発言であれば、政治的な権威を伴って扱われることになるでしょうが、やはり手続ルールとしては、一般的に通用するとは考えられません。
閣議決定の可能性
内閣法4条1項の規定に従い、内閣がその職権を行うのは、閣議によります。憲法解釈の変更を、首相の単独行為ではなく、先に触れたように憲法66条1項が定める内閣のメンバーのイニシアティヴ(政治主導)で憲法解釈を変更するという途が残されています。この場合でも、内閣法制局を説得し、抑え込みながら新解釈を押し通す、ということになるのでしょう。
内閣は合議体です。戦前からの慣例で閣議決定は全会一致で行われています。慣例に従えば、憲法解釈の変更も、すべての国務大臣の賛成を得る必要があります。
ここで問題となるのは、連立与党のパートナーである公明党の存在です。公明党議員から1名が入閣していますが(当面、その枠は守られるでしょう)、集団的自衛権の行使には一貫して慎重な態度をとる公明党が、憲法解釈の変更に係る閣議決定に賛意を示すとは到底考えられません。全会一致原則を順守、堅持することは、運用次第で歯止めとして機能します。その一方、慣例を飛び越えた特別ルールが敷かれないとも限りません。
野党議員は、「質問主意書」をただちに
集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈は、安倍首相の強い政治信条に基づきます。選挙期間中、あまり触れられなかった憲法問題への対応が今後どのように露見するのか、手の内はまだまだ不透明です。首相として、どのような手続に従って憲法解釈の変更を遂げようとしているのか、内容と手続の両面から、立法府の強力な抑制・監視が必要です。
この点、夏・秋の臨時国会の会期中、野党議員には、重要な役割があると思います。
それは、内閣として憲法解釈の変更をどのような手続に従って行うのか(閣議によるか否かなど、現時点でどういうプロセスが想定されているのか)、内閣法制局は変更手続においてどのような立場で、どこまで関与するのか、キャビネットのメンバー(憲法66条1項)と内閣法制局との見解に齟齬が生じた場合の調整の方法といった論点(問題点)について、様々なケースを場合分けしながら「質問主意書」を提出し、明確な政府見解(答弁書)を求めることです。答弁書で示された(示されなかった)問題について、国民に明らかにするとともに、政府をさらに追及するのが野党議員の本来的責務だといえます。
そして、両議院の憲法審査会(ないし予算委員会)では、このテーマに関係して安倍首相ほか閣僚、政府参考人(内閣法制局長官)を招致し、質疑を行うことも肝要です。憲法解釈の変更をめぐる内閣の動きについて、決して目を離さない態度が求められます。質問権、質疑権など、個々の議員の権能をフルに活用すべきでしょう。
*
6年前、安倍首相が憲法改正に言及したとき、民主党を中心とする野党勢力は一定のけん制効果を果たし、国民投票法制の合意形成を一時休止させるほどの力を示してきました。いまや、野党第一党、第二党は、“反立憲主義”“嫌立憲主義”の議論の歯止め役として相応しいでしょうか。そして、2月上旬から5月上旬にかけて盛り上がった「憲法96条先行改正論」から、国民は何を学んだのでしょうか。憲法を「武器」として戦う覚悟は、本当にできているでしょうか。7月21日を境に、一人ひとりに問われています。立憲政治が緩慢にならないよう、「憲法遵守」という命令を絶えず、厳しく発しなければなりません。
http://www.magazine9.jp/rikken/130724/
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。