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2013年07月09日(火) 舛添 要一 現代ビジネス
猛暑の中、参議院選挙の熱戦が列島各地で展開されている。今回の選挙には私は出馬しなかったし、他の候補を擁立したり、他党の候補者を推薦したりすることも避けた。党勢の拡大ができなかった責任をとって、私は新党改革の代表を辞するが、新しい代表の下で、全く白紙の状態から出発して、新規まき直しを図るためである。
連日のようにテレビ各局で繰り広げられる党首討論を見ていると、自分が参加していないだけに、より客観的に論議の中身を吟味できる。各メディアによる世論調査の結果を見ても、自公両党の圧勝が予想されている。そのせいか、議論が上滑りしているようである。安倍首相は、経済政策について、三本の矢に加えるべき政策をもっと提示してよいし、野党党首も、アベノミクスの批判のみではなく、補完すべき政策をグローバルな観点から指摘したほうがよい。
アベノミクスのみで、デフレが克服できるのか。具体的には、どうすれば労働者の賃金が上がるのかを、もっと真剣に議論すべきである。つまり、経営者は、なぜ従業員の給料を上げないのかという視点から、ミクロ経済の分野にも踏み込んでもらいたい。
■日本的経営の終焉が生む深刻な副作用
一方では、国際的な会計基準を満たす必要や外国人株主による配当増加要求などがあって、経営者は、固定費、とりわけ人件費の削減を迫られることになる。そのため、非正規の派遣労働者などを雇用することになる。非正規労働者には、雇用の安定はない。したがって、将来の見通しも立たない。彼らの収入は少ないため、消費に回せるお金も少ない。そして残念なことに、非正規労働者の比率は年々増えている。正規労働者と非正規労働者の格差も拡大する一方である。
若者の車離れが顕著であるが、それは彼らが車を嫌いになったからではなく、単純に買う資金がないからである。高度経済成長期には、若者はローンを組んでも車などの耐久消費財を購入していた。なぜなら、終身雇用制度と年功序列賃金制度によって雇用が安定し、将来設計が可能だったからである。日本的経営の終焉は、それに伴う深刻な副作用を生んでいる。
先のバブル経済崩壊の後、企業経営者は、金融機関の貸し渋り、貸しはがしに苦しめられた。その苦い体験から、金融機関を信頼せず、内部留保をため込もうとしている。アベノミクスの効果が、従業員、とりわけ中小企業のサラリーマンの賃金にまで波及するには、まだまだ時間がかかりそうである。
「恒産なければ恒心なし」。日本的経営の再評価がなされてもよいし、国際会計基準を日本が率先して設定するくらいの気構えがあってもよいのではないか。
■あらゆる政策を総動員してデフレ脱却を
また、企業のガバナンスを高めるためには、社外取締役を導入したり、多重代表訴訟を創設したり、ライツ・イシュー(株主割当増資)を使いやすくしたりすることが肝要である。そのためには、現行の会社法を改正する必要があるのだが、国会の機能不全でその見通しはまったく立っていない。これには、法務省内の刑事局と民事局との力関係も影響している。
おそらく各党党首は多忙を極めているので、このような専門的分野の勉強などする暇もないのだろう。しかし、マクロ経済のみならず、ミクロ経済にも目配せをしなければ、GDPの6割を占める個人消費が改善することはあるまい。デフレから脱却するためには、あらゆる政策を総動員しなければならないのである。
消費税の増税についても、景気動向との絡みで、慎重な判断が必要である。住宅などの大型商品では、増税前の駆け込み需要が見込まれるが、8%、10%と二段階で税率を上げることの影響がどう出るかは、予想が難しい。増税の時期を遅らせて、一気に10%にするよう政策変更することも考えてよいのではないだろうか。
その際には、軽減税率の対象となりうる商品の拡大も、検討すべき課題であろう。本来は、軽減税率は好ましくないのだが、消費税の逆進性を考えると、そのような配慮も政治的には有効であろう。
以上のような議論を、候補者もメディアも、投票日までに深めてほしいものである。
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