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マイナンバーでも税格差
正確な所得把握 難しく
国民一人ひとりに番号を振り、税の徴収や社会保障給付に役立てようという共通番号(マイナンバー)法が国会で成立した。これで個人のおカネ回りが透明になり、公平な税負担や給付が実現すると思いきや、実はそう簡単ではなさそうだ。
預金カバーせず
夫婦共に70代のAさん夫婦。東京都内で順調に商売を営んでいたが、数年前に事業をやめて不動産を売却し、郊外に引っ越した。今の収入はそれぞれ年70万円程度の国民年金だけ。ただし、事業の蓄えと不動産を売った際の銀行預金が1億円以上ある。利息はわずかだが、年金と必要に応じて取り崩している預金のおかげで悠々自適の生活だ。
この夫婦を低所得者とは考えにくいだろう。しかし、今の制度では年金収入だけで判断して様々な優遇が受けられる。「公的年金等控除制度によって、この夫婦は所得ゼロと見なされ、所得税や住民税はかからない」(税理士の倉林倭男さん)。住民税の課税状況から負担額を決める介護保険料や特別養護老人ホームの部屋代、食費、高額な医療費を使ったときの自己負担限度額(高額療養費)も標準より安くなる。
もともとは政府が納税者番号として実現を目指してきたマイナンバー制度の導入で、この状況は変わるのだろうか。結論としては、変わらないとみられる。というのも、マイナンバーでは銀行預金やその利子を把握できないためだ。
税務当局は課税のために、様々な取引についてお金の支払者、受取者、金額などを書いた法定調書の提出を義務付けている(表A)。
会社員であれば年に一度、給与額などが書かれた源泉徴収票を会社から受け取るが、会社はそれと同じ書類を法定調書として税務署にも提出している。原稿料や講演料といった収入があったときも、金額が一定以上であれば、その報酬の支払者が調書を当局に提出している。公的年金であれば、日本年金機構が法定調書を提出する。
これらによって税務当局は個人の所得状況を把握する。一人に複数の収入がある場合、今は必要に応じて住所・氏名などを頼りに各所得を名寄せし、全体像を捕捉する。マイナンバーが導入されると、法定調書に個人番号が記載され、即座に簡単に名寄せできる(図B)ようになり、「より公平で正確な負担が実現する」(マイナンバーを担当する内閣官房社会保障改革担当室)わけだ。
ところが、個人の預金利子については法定調書の提出義務がない。利子については、他の所得と合計することなく分離して20%(所得税と地方税)分の税金を徴収する源泉分離課税になっているからだ。「調書がないから、マイナンバーを打つことはできない。銀行口座にも番号はつかない」(社会保障改革担当室)
財務省によると、米英仏は利子についても調書類が提出される。預金口座の開設で書類を提出させる国もあるし、番号制度を既に活用している国もある。その意味で日本に不十分な面があることは否定できない。
線引きあいまい
もう一つ、法定調書がなく、当局が把握しにくい所得がある。個人の事業所得だ。
小売・サービス業で調書を義務付けると、調書の提出者は商品やサービスの代金を支払った消費者となる。だが、買い物のたびに書類を提出するなど現実的ではなく、義務付けられていない。仮に個人事業者の収入が正確に把握できても、そこから必要経費を差し引き所得を算出する際、どこまでが事業の経費なのか、どこからが自家用の経費なのかの判断も難しい。
会社員の所得はガラス張りで、個人事業主や農家はそれに比べ不透明といわれてきた。いわゆる「クロヨン」と呼ばれる所得捕捉の格差だ。マイナンバーにその是正を期待する声もあるが「マイナンバーを入れても基本的には変わらない」(税理士・社会保険労務士の佐藤正明さん)。ただし事業所得把握の決め手がないのは海外でも同様だ。
もちろん公平・正確な課税に近づく面もある。例えば家族の扶養控除。2人の兄弟が共に高齢の母親を扶養家族として申告していた場合、マイナンバーで検索すれば、一人の人に対して二重に扶養控除が出るといった間違いや不正はすぐ判明する。多額のアルバイト収入があり、扶養対象にならないはずの大学生の子どもを扶養家族としているような場合もすぐ見つかる。
とはいえ、日本は超高齢化が進む。年金や医療など社会保障給付はますます増え、国民の税負担も膨らむ。年齢や把握しやすい種類の所得だけで判断するのではなく、本当に支援が必要な低所得者、もっと負担が可能な高所得者をどう判別するかは大きな課題になる。
情報保護も課題
富士通総研の榎並利博主席研究員は「利子だけでなく、預貯金や保有株式、不動産などの資産もマイナンバーで捕捉して、能力に応じた税負担をしてもらう仕組みが必要」という。宮島洋・東大名誉教授は「社会保障制度側でも、給与や年金だけで判断していた給付基準を改めて検討し直すべきではないか」と指摘する。
マイナンバーについては個人情報保護や国による情報把握が進み過ぎることへの不安も強い。これらの点も踏まえたうえで、国民にとって本当に有意義な道具となるかどうかは、これからの議論次第といえそうだ。
(編集委員 山口聡)
[日経新聞7月3日朝刊P.19]
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