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2013/6/26 晴耕雨読
HEAT氏のツイートより。
中野剛志(著)『反・自由貿易論』から、米豪FTA(これが「自由貿易協定」の正体だ──オーストラリアの悲劇)について⇒http://twishort.com/Yeydc
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http://twishort.com/Yeydc
★以下、中野剛志の『反・自由貿易論』より、米豪FTAについて。
シドニー大学で政治経済学を教えるリンダ・ウェイス教授(英・1952〜)らは、2004年に『国家の殺し方 オーストラリアがアメリカと結んだ破滅的な貿易協定』(邦訳未刊)という本を出版しました。刊行直前に締結された「米豪FTA(自由貿易協定)」を痛烈に批判したこの本は、タイトルだけではなく中身もかなりショッキングなものでした。
「自由貿易で国家を滅ぼす方法 ステップ1」
まず、有利な自由貿易協定を勝ち取ることにかけては最も長い経験を持つ、世界最強国家と貿易交渉することを提案してみよう。
その国は、交渉の前提となる立ち位置(何を要求し、何を切り捨てるか)については、自分たちが議論・承認するのだと強く主張する、強力な議会がある。また、議会の承認前に、合意案を包括的に評価するためのシステムも備えている。当初から明確な国家目標を持ち、妥協するつもりはない。
他方、皆さんの国は、殆ど準備もせずに交渉に参加するのだ。しかも、相手国とは「特別な関係」にあり「最友好国かつ同盟国」なので、こちらの国益のことも気にかけてくれる、という間違った思い込みも持つ必要がある。自国の議会の承認を得ることも、主要な利害関係者と交渉の立ち位置をしっかり決めておくことも忘れなくてはいけない。合意案にサインする責任だけを首相に認め、有意義な国民議論も行わず、性急に議会を通過させる必要がある。後は、最善の結果が得られるように祈る。
ほどなくして、皆さんの国は、我々の米豪自由貿易協定(FTA)と同じような協定を結ぶことになるだろう。(拙訳)
これがウェイス教授の唱える「自由貿易で国家を滅ぼす方法」です。
米豪FTAが締結されたのは2004年2月、発効は2005年1月ですが、その結果は、オーストラリアにとって散々なものでした。ウェイス教授らが言うように「国家が殺された」というのは大げさすぎるかもしれませんが、確かに、オーストラリアにとって相当に不利な結末を迎えたのです。
では、いったい、どのような結果だったのか、その一端を見てみましょう。
まず、アメリカの要求どおり、オーストラリアが輸入品にかけてきた関税や障壁は、ほとんど撤廃されました。
一方で、オーストラリアも、アメリカがかける輸入制限の解除を望んでいましたが、特に期待が高かった砂糖の輸入制限は変わらず、牛肉や乳製品の輸入制限についても僅かな見直しが段階的に行われただけでした。
結果として、米豪FTA発効後、オーストラリアの対米貿易赤字は毎年拡大しています。米豪FTAによって、オーストラリアよりアメリカの方が輸出を伸ばしたのです。
オーストラリアで問題になっているのは、物品の貿易に関してだけではありません。医薬品の流通、水やエネルギーといった公的サービス、知的財産権など、これまでであれば各国ごとにその国の事情に応じて定められてきた制度の変更が、むしろ問題視されているのです。
たとえば、オーストラリアには新医薬品の価格を管理して安価に抑える医薬品支援制度(PBS)があり、一般的な処方箋薬の価格をアメリカ国内価格の3分の1から10分の1に抑えていました。しかし、米豪FTAによって米豪両政府による医薬品作業部会が設置され、医薬品会社の知的財産権の保護を理由に新医薬品の卸売価格を引き上げることが可能となってしまいました。
また、オーストラリアでは公営の水力発電会社の民営化に対し、外資比率を35%までに制限という条件をつけようとしたところ、これが米豪FTAの規定に違反するということになり断念せざるを得なくなりました。公益性の高いインフラ事業の運営について、外国企業に一定の制限をかけることは国家の危機管理につながりますが、それは認められないのです。
これらはほんの一例ですが、米豪FTAはオーストラリアにとって何のメリットもなく、懸念ばかりが残るという結果になりました。
この米豪FTAの例は、次のような重要な教訓を示しています。
ひとつは、今日のいわゆる「自由貿易協定」なるものは、「工業製品や農業製品の関税を引き下げる」などという古典的な自由貿易のイメージとは異質なものになっているということです。
そして、もうひとつの教訓は、自由貿易協定は国同士の合意に基づくものであるにもかかわらず、「一方の国が圧倒的に有利になる」という結果を引き起こすことが多いということです。
これまでは一般的に言えば、「自由貿易は各国の関税を引き下げ、国家間の取引を活発にし、各国がお互いにメリットを得るもの」だと考えられていました。
「戦後の世界経済、とりわけ日本経済は、この自由貿易の恩恵によって成長した」、「自由貿易によって、関税で保護されている一部の産業(例えば日本の農業)が損害を受けたとしても、国全体あるいは世界全体としては恩恵を受けるものだ」というのが常識となっていました。
ところが、現代の自由貿易協定はその質を変えつつあります。各国の国民生活のあり方を大きく左右しかねない国内制度についても、大きな変更を迫るものとなっているのです。
FTA交渉の対象となるのは、牛肉や自動車のような物品だけでなく、医療や知的財産権のような「サービス」であり、単に関税の引き下げだけでなく「国内独自の制度や慣行(非関税障壁)」にまで介入し、改変を求めるものなのです。
さらに問題なのは、米豪FTAにおけるアメリカのように、強い力を持つ国がほぼ一方的に有利な方向で変更を行うということです。
このように、「自由貿易」という言葉から連想されるイメージと、現実の自由貿易協定の実態とは、かなり大きな隔たりがあるのです。
では、なぜ、オーストラリアは、自国に不利となる米豪FTAをかくもやすやすと受け入れてしまったのでしょうか。ウェイス教授らは、次のような理由を挙げています。
・米豪FTAを結ばないと、「二国間で自由貿易協定を結ぶ」という世界の潮流に乗り遅れると思い込んでいた。
・アフガニスタンやイラクでの軍事行動でアメリカに協力したことで、アメリカと「特別な関係」にあると思いこみ、貿易協定でも経済的な利益を得られると信じていた。
・オーストラリア人は率直で公正という美徳をもっていたが、その美徳はアメリカ人との交渉では不利に働いた。
・米豪FTAの合意案の内容に不満をもつ団体(例えば畜産団体)が、何らかの補償措置によって懐柔され、声が小さくなった可能性がある。
・マスメディアで、FTA賛成派の議論ばかりがとり上げられ、反対派に対しては、「怒れる左翼」「グローバル化恐怖症」「アメリカ帝国主義とグローバル・ビジネスに対する偏執病」「超国家主義者」といった誹謗中傷が行われた。このため、まともな国民的議論がなされなかった。オーストラリアの国益とアメリカの国益の区別すら、まともにされなかった。
・外務貿易省の委託による公式の経済モデルが、非現実的な馬鹿げた前提の下で試算されたため、米豪FTAの経済効果が過大に出ていた。
・米豪FTAに参加しないと、世界の笑いものになると思い込んでいた。
要するに、オーストラリアは、「同盟国アメリカとの自由貿易協定」というポジティブなイメージだけで、国内で十分な議論もせずに、米豪FTAを締結してしまったようなのです。このオーストラリアの状況は、TPP交渉への参加を決めた日本にもかなり似ているような気がしませんか。
この例から分かるように、政治家、官僚、産業界あるいは国民の間違った思い込みや認識不足によって、あるいは国内外の政治的な圧力によって、国全体としては不利になるような条約でも成立してしまうのです。実際、オーストラリアは、米豪FTAでこれだけ痛い目を見たのに、TPP交渉にも参加しています。
世界は、国家間の利害の激しい衝突と権謀術数の場です。「条約は、主権国家間の合意なのだから、片方の国が一方的に損をするようなことにはなり得ない」などというのは建前であり、ナイーブな幻想に過ぎません。自由貿易協定も、消費者金融などと同じで、契約内容をよく確認してからサインしないと、ひどく後悔することにもなりかねないのです。
★以上、『反・自由貿易論』中野剛志(著)から、これが「自由貿易協定」の正体だ──オーストラリアの悲劇、より。
www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784106105265
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