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都議選惨敗の維新・橋下代表 従軍慰安婦問題「強制連行」資料あった
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013062502000140.html
2013/6/25 東京新聞 [こちら特部]
旧日本軍による慰安婦の強制連行を示す証拠が、政府の発見した資料の中にあった。軍が抑留中のオランダ人女性を強制連行した事件の記録だ。安倍内閣は、この事実を認める答弁書を閣議決定した。2007年の第一次安倍内閣時の答弁書で「強制連行の資料なし」としたのを、自ら否定した形だ。強制否定派の最大のよりどころが揺らいでいる。(佐藤圭)
「僕の発言で維新への信頼が失望に変わった」。東京都議選で惨敗を喫した日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)は24日、自身の慰安婦発言の影響を認めざるを得なかった。
慰安婦発言は先月13日に飛び出した。国内外で猛反発を浴びたのは「(慰安婦制度は)当時は必要だった」の部分だが、強制連行の問題でも元慰安婦の気持ちを逆なでしていた。「暴行、脅迫、拉致をした証拠が出てくれば反省しなければならないが、証拠はないと閣議決定している」
この閣議決定こそが「07年答弁書」だ。
慰安婦問題では、宮沢内閣の河野洋平官房長官が1993年8月の談話で、政府として初めて軍の関与と強制性を認定した。
ところが、第一次安倍内閣が07年3月に閣議決定した答弁書は、河野談話を「継承している」と強調する傍ら、強制性については「政府が発見した資料の中には、軍や官憲による強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」と断じた。
では、「政府が発見した資料」とは何か。
共産党の赤嶺政賢衆院議員が質問主意書で、この点をただした。安倍内閣が18日に閣議決定した答弁書は、「内閣官房長官が発表した『いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について』に記載されている資料を指す」と説明した。
この調書は91年12月から進められ、92年7月と93年8月に結果が公表された。その中には、旧日本軍による強制連行をズバリと示す資料が含まれていた。法務省が保管していた「バタビア(現・ジャカルタ)臨時軍法会議の記録」だ。
記録によると、第二次大戦中の44年、日本占領下のオランダ領東インド(現・インドネシア)のジャワ島・スマランで、日本軍将校らがオランダ人抑留所からオランダ人女性を慰安所に強制連行し、脅すなどして売春を強要した。
将校らは戦後、オランダがバタビアで開いたBC級戦犯裁判で強制売春事件として裁かれ、死刑を含む有罪判決が言い渡された。
それでも答弁書は、「強制連行の資料なし」との安倍内閣の認識は「同じである」とする。
赤嶺氏は「強制否定派は、07年答弁書を最大限利用してきたが、政府資料に強制連行の記述はあった。安倍内閣は07年答弁書の『強制連行の資料なし』は誤りであったことを認めて撤回するべきだ」と迫る。
官僚たちは、政府の発見した資料の中に「スマラン事件」が含まれていることを知っていた。
安倍首相が事務局長を務めた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の97年の会合で、内閣官房の審議官は「官憲等が直接加担したことがあった。慰安所に入れた事例(スマラン事件)だ」と明言した。
民主党政権では、スマラン事件を踏まえた「答弁メモ」を官僚が作成していた。野田内閣の藤村修官房長官は国会答弁で「強制連行を直接的に示す(日本政府の)公文書は発見されなかった」と述べている。この表現ならば、オランダの資料は除外される。
一方、07年答弁書は、河野談話を誤った解釈に誘導してきた。「公文書なし」を「資料なし」とぼやかし、世間の目からスマラン事件を隠した。さらに安倍首相は国会答弁で「証拠はなかった」と拡大解釈した。これが広く流布した結果、橋下氏ら一部政治家の「証拠なし」発言が繰り返されている。
慰安婦問題に詳しい吉見義明・中央大教授は「河野談話は、誘拐や人身売買による連行、慰安所での強制使役への軍関与を幅広く認めているが、安倍首相は、強制の問題を軍・官憲による暴行・脅迫を用いた連行に縮小化し、証拠は文書に限定して強制連行はなかったと言っている。だが、それだけ絞り込んでもスマラン事件という反証がある」と指摘する。
安倍首相ら強制否定派は、河野談話の「ミスリード」にとどまらず、同談話以降に明らかになった資料や証言を無視して取り合わない。
オランダ政府が94年に公表した報告書では、スマラン事件以外にも、未遂を含めて8件のオランダ人女性強制連行事件を挙げている。
日本の裁判所も、軍による暴行・脅迫を用いた強制連行の事実を詳細に認定している。
例えば、中国人慰安婦第一次訴訟の東京高裁判決(04年12月)では「軍構成員によって、駐屯地近くに住む中国人少女や女性を強制的に拉致し、連日強姦(ごうかん)する慰安婦状態にした」と、原告の被害事実を認めた。
元慰安婦からの聞き取り調査を進めてきたノンフィクション作家の川田文子氏は「裁判所の事実認定は元慰安婦の証言に基づいている。強制否定派が、元慰安婦の証言をウソだと言ったりするのは、残忍な連行や性暴力の事実と向き合いたくないからだ」とみる。
国連の拷問禁止委員会は先月31日、橋下氏らの発言を念頭に、慰安婦問題について「政府当局や公的な人物による事実の否定に反論を」と日本政府に勧告した。しかし、安倍内閣は18日に閣議決定した答弁書で「勧告に従うことを義務づけているものではない」と突っぱねた。安倍首相らが「事実の否定」をしているのだから無理もない。
橋下氏も、慰安婦発言について「間違ったことを言ったとは思っていない」と撤回を拒否している。吉見氏は「国連などからは、慰安所で女性の自由を奪い、性行為を強要したことが性奴隷制度だと非難されている。連行の形だけにこだわる安倍首相らの議論は国際的にまったく通用しない」と警鐘を鳴らす。
川田氏は「安倍首相や橋下氏らの妄言が元慰安婦を一層傷つけている」と批判した上で、「根本的な解決を」と訴える。
「元慰安婦はほとんどが80歳を超えている。訃報も頻繁に伝えられるようになってきた。日本政府の明確な謝罪と補償が急がれる」
[デスクメモ]
連行先の慰安所に拘束され、本人の意思に反した使役も「強制」だ。戦時下も犯罪行為だった。金のために身売りされた公娼(こうしょう)制の戦地版として当時は合法的との主張も国際社会から認められない。公娼制は国内でも「事実上の性奴隷」と人道上から批判され、廃止が強く求められていた。(呂)
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