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2013年6月19日 21時42分 田中 良紹 | ジャーナリスト
水無月某日
安倍総理はどうしてこうもチャイルディッシュ(お子ちゃま)なのだろう。G8サミット後の自画自賛ぶりを聞いてそう思った。今回のG8ではアベノミクスが高く評価され、日本が久しぶりに主役の座に躍り出たかのような総括をしたからである。
そもそもG8サミットを重大な会議であるかのように報道するのは日本のメディアだけだ。他国はそれほど取材に力を入れない。1975年にオイルショックに見舞われた世界経済を立て直すため、フランスの呼びかけで米、英、独、日、伊の6か国が集まった時にはそれなりの存在感があった。アジアから唯一参加した日本は世界の主要国の一角を担う国になりサミットを過大評価するようになった。
しかし首脳たちは事務方が事前に摺り合せしたシナリオを演ずる事が多く、サミットは形式的な社交の場になってきた。それでも日本のメディアはサミットに大勢の記者を派遣し、派遣した以上は記事を多く書かせ、国民に重要な会議という印象を与えてきた。
フーテンは90年から10年余りワシントンでアメリカ政治を見続けてきたが、日本のメディアとは対照的にアメリカでサミットの記事が大きく扱われる事はない。2000年の沖縄サミットでは、日本政府が外国メディアに至れり尽くせりのサービスをしたところ、内容のない会議を大きく報道させたいのかと外国メディアに反発を買った事もある。
今や世界の経済問題を議論する場はG20に移っており、経済問題に関するG8の存在感は一段と薄くなった。今回のG8でニュース価値があったのはシリア問題とグローバル企業の脱税問題である。その問題を議論する前段でアベノミクスの説明が求められた。それはアベノミクスがうまくいくかどうかを各国もよく理解できないでいるからである。
確かに市場は期待感を持った。しかしそれで本当にデフレを脱却できるのか、財政破たんを招く事にはならないのか、そこに関心があるのである。アベノミクスは始まったばかりだから、まだ評価を下せる段階ではないが、とりあえずは大胆な政策を打ち出した事を評価し、同時に先行きの懸念も示して見せた。事前に予想された通りの結論である。
それを安倍総理は「世界から高い評価を受けた」かのように言い、「日本が久々にサミットで主役を務めた」というメッセージを国内に流した。すべては選挙のためのパフォーマンスに過ぎない。しかも米中首脳の濃密な会談ぶりを見せつけられた直後だけに、オバマ大統領との首脳会談を断られた経緯を見ると、日本の存在感が増したとはとても思えない。
安倍総理の「お子ちゃま」ぶりはこれ以外にもある。元外交官の田中均氏が新聞のインタビューで「飯島訪朝」に冷ややかなコメントを行った事に腹を立て、「外交を語る資格はない」とフェイスブックに書き込んだ。
最高権力者は国民の前で感情を露わにしなくとも思い通りに物事を処理する力を持っている。相手が官僚ならばなおさらだ。しかしこれほど感情を露わにした事は、よほど痛いところを突かれたと思わせる事になる。フェイスブックに書き込んだことで、最高権力者の地位にある者が官僚OBと同じレベルに自らを落としめ、しかも外交的無知を世界にさらけた事に安倍総理は気づかないらしい。
フーテンは「飯島訪朝」を初めから「醜態をさらしたぶざまな外交」と見てきた。安倍政権はそう思われないように御用ジャーナリストや御用評論家を使い拉致問題が進展するかのように言わせているが全くのお笑いである。北朝鮮の仕掛けにすがりついてまんまと乗せられ、秘密外交と思っていたのを暴露されたのだから、世界には馬鹿にされる。しかも飯島氏に対する下にも置かぬ歓迎ぶりを世界に発信されて北朝鮮を批判する訳にもいかない。北朝鮮は根拠のない期待を抱かせて安倍政権の外交レベルを世界に知らしめたのである。
安倍総理がいちいち感情を発露するところは橋下大阪市長や民主党の菅元総理とよく似ている。強がりを言う所もそっくりだ。それは国民に開かれた政治でも新しい政治スタイルでもなんでもない。権力者にはふさわしくない資質を満天下にさらした話になる。
ただこの間に安倍総理は評価できる発言もした。一つは「飯島訪朝」でアメリカが不快感を示した事について、「アメリカと韓国の対北朝鮮政策は間違っている。拉致問題は独自に解決するしかない」と述べた事である。拉致問題の解決を他国に頼らないと言うのは誠に正論で、日本は北朝鮮に対し押したり引いたりの外交努力によって、アメリカを怒らせてでも解決を目指さなければならない。
尖閣問題も同様である。アメリカが核を持つ中国と戦争をすることなど考えられないのだから、領土問題は独自の力で解決するしかない。そのためにアメリカを怒らせることがあっても主権国家はそれをやるべきである。
そして安倍総理はG8サミットで「法人税減税競争をやめるよう提案した」と言う。外国企業を誘致するため法人税減税の競争をすれば、企業に出て行かれた国家は財政が立ち行かなくなると言ったのである。これも誠に正しい。今問題なのはグローバリズムが国家経済を狂わせている現実である。
法人税減税だけではない。発展途上国の低賃金労働者と競争させられる先進国の労働者は、低下する労働条件に苦しめられている。安倍総理が法人税減税競争の停止から一歩進めて、グローバリズムの問題点に気づけば、アベノミクスの内実も多少はましなものになる。
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