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十勝地方で酪農を営む湯浅佳春さん。円安でエサ代や燃料代がかさむ=北海道新得町の「友夢牧場」、古谷祐伸撮影
http://www.asahi.com/business/update/0618/TKY201306170507.html
2013年06月18日05時30分 朝日新聞 ※一部書き起こし
株価や円相場だけでは、アベノミクスの本当の姿はみえません。くらしや職場、地域で何が起きようとしているのか。現場からお伝えします。
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【古谷祐伸、編集委員・神田誠司】東京都議選が告示された14日、安倍晋三首相は官邸で記者団に経済政策「アベノミクス」を誇った。「日本を覆っていた暗い空気が一変した。我々の半年の戦いの実績を訴えていきたい」
都議選は7月の参院選の前哨戦となる。朝日新聞の6月の世論調査では、参院選比例区の投票先は自民党が45%と、ほかの党を大きく引き離している。4月の世論調査では内閣支持率が60%に達した。
しかし、この「期待」とかけ離れた地方がある。北海道帯広市を中心とした十勝地方だ。小麦、テンサイ(砂糖の原料)などの畑や牧場が広がる地域に約35万人が住んでいる。
今月半ば、道内の酪農家らが札幌市のホクレン農業協同組合連合会を訪れた。乳業メーカーに売る「生乳」の値上げ交渉の進み具合を聞くためだ。だが、交渉は難航していると聞かされ、肩を落とした。
その一人、湯浅佳春さん(63)は十勝の新得(しんとく)町で約900頭の牛を育てる。トウモロコシなどのエサは輸入に頼り、アベノミクスによる円安でエサ代は4月から5%上がった。「都会でもてはやされているけど、地方は負担が増えるばかり。もう限界だ」
7月から日本が参加する「環太平洋経済連携協定」(TPP)の交渉も気になる。TPPで輸入品にかける関税がなくなれば、テンサイや乳製品などが安い輸入品に押され、壊滅するおそれがあるからだ。
帯広市の屋台村「北の屋台」にある「巣だっち」の須田尚昌さん(39)も、ひとごとではない。「景気や生活が良くなった実感はない。農家のお客さんが多く、TPPも心配だ」
日本通運帯広支店では、年間に荷物を運んで売り上げる約70億円のうち8割を農業関連が占める。十勝の食品スーパー「ダイイチ」は11店のうち売り上げトップ3には農村部の2店が入る。
「内閣支持率24・2%、不支持率50・8%」。4月、地元紙の十勝毎日新聞が地元で聞いた世論調査の結果だ。「アベノミクスの効果が十勝に来るには1年はかかる。都会との温度差は広がっている」。帯広商工会議所の高橋勝坦(かつひろ)会頭はこう話す。
■「恩恵、島にはない」
鹿児島市から南南西に約450キロ離れた徳之島(鹿児島県)には約2万5千人が暮らす。砂糖の原料になるサトウキビの農家や製糖工場などで働く人が多い。
島に住む小学6年生の幸山千尋さん(11)には、一生の宝物がある。昨年5月に当時の野田佳彦首相(民主党)から送られてきた手紙だ。「大切なものはしっかり守りながら外国と交渉していくので心配しないで下さい」と書かれていた。
親にも内緒で「TPPがきたら、島の仕事がなくなってしまいます」「サトウキビを守って下さい」とつづった手紙の返事だ。
政権が代わると、安倍首相は早々にTPP交渉への参加を表明した。千尋さんは「安倍さんにも島のキビを守って下さいと言いたいです」と言う。
娘のかたわらで、製糖工場で働く父、芳人さん(43)がため息をついた。「都会は知らないが、アベノミクスの恩恵なんて島にはない。逆に円安でガソリン価格が上がったくらいだ」
TPPには電機や自動車などが輸出しやすくなるという期待がある。だが、国際競争にあえぐ企業が、国内各地の工場を閉める流れは簡単に収まらない。
半導体大手のルネサスエレクトロニクスは宇部(山口県)など10以上の工場の閉鎖・売却を進めている。2千人以上が働いていたソニー美濃加茂工場(岐阜県)も3月に閉鎖された。
地方の厳しさは今に始まったことではない。だが、政権に処方箋(せん)を示す議論はほとんどなく、逆に将来への不安が強まっている。
■都会では「億ション」好調
【木村聡史】アベノミクスの「第1の矢」である日本銀行の金融緩和では大量のお金を流し込み、経済を刺激する。その主な舞台は都市であり、主役は裕福な人たちだ。
東京都心のイタリア車販売店(港区)では、来店する客が昨年末より3割ほど増えたという。社長(49)は「株でもうかった方が2台目、3台目として買っていく例が多い」と話す。
日本自動車輸入組合によると、1千万円を超す輸入車はこの5月に916台売れ、前年同月より5割ほど増えた。百貨店でも貴金属など高級品が売れている。
都心の高級住宅地として知られる東京・広尾。ここに新築マンション(114戸)が建てられている。
今月2日にまず27戸を売り出したところ、即日完売した。2億7500万円を筆頭に1億円を超す部屋が17戸もあった。
広尾のような都心の「一等地」では、高級マンションが飛ぶように売れる。不動産各社によると、大金を出すのは医師や弁護士、会社役員らが多い。
「アベノミクスのおかげで決心がついたよ」。東京都千代田区で「億ション」を買った弁護士(47)は、手持ちの株式の価格が上がって資産が増えたと喜ぶ。
投資家から資金を集めてビルなどを買う「不動産投資信託」(REIT〈リート〉)も活発に動く。東京証券取引所に上場するリートが今年1〜5月に買った不動産額は1兆円を超え、昨年1年間の約8千億円を上回った。
国土交通省の地価動向調査(4月1日)では、東京・大阪・名古屋の3大都市圏で地価が上がったのは118地点のうち69地点(昨年10月の調査では27地点)にのぼった。一方、地方圏は32地点のうち11地点(7地点)にとどまる。
安倍政権は今月、アベノミクスの「第3の矢」として成長戦略を打ち出した。その多くは東京、大阪、名古屋などの大都市圏や大企業を後押しする政策が占め、地方を支える取り組みは少ない。
小西砂千夫・関西学院大学教授(財政学)は「成長戦略が都市中心としても、都市で増える税収を地方交付税などで地方に再配分しなければならない。だが、分配の議論は先送りされている」と指摘する。
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