http://www.asyura2.com/13/senkyo149/msg/443.html
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日経新聞からの転載である。
黒川氏は「国会事故調」の委員長を務めた黒川清氏(医者)のことで、横倉氏は日本医師会会長の横倉義武氏のことである。
日本医師会の横倉会長は、対論のなかで、「知的財産の分野で薬価や医療技術、金融サービスの分野で公的医療保険に対する民間医療保険の参入、投資分野で株式会社の病院経営への参入が議論になると、皆保険が崩壊しかねない」と危惧している。
TPPにより、「混合診療」などの負担増加が進み、負担できるお金の違いによる“医療差別”も拡大すると思っているが、健康保険制度が瓦解するとは考えていない。
「混合診療」や株式会社の病院経営参入は、腕の良い医者がそのような医療分野や医療施設で働くことを促すので、医療費をケチる人々は運が悪い目に会う可能性が高まるかもしれないとは思っている。
昔の住宅金融公庫が銀行融資の呼び水になっていたのと同じで、「混合診療」も、「皆保険」という支えがなければ、砂上の楼閣になるからである。
今後は、公的健康保険に加入した上で、「混合診療」分を賄うために民間の医療保険に加わるという二階建て医療保険が中所得者以上に普及することになるだろう。
安倍政権は、TPP締結の前に既に、先日発表した「日本再興計画」で抗がん剤を皮切りに「混合診療」に踏み出すことを表明している。
※ 「保険診療と保険外の安全な先進医療を幅広く併用して受けられるようにするため、新たに外部機関等による専門評価体制を創設し、評価の迅速化・効率化を図る「最先端医療迅速評価制度(仮称)」(先進医療ハイウェイ構想)を推進することにより、先進医療の対象範囲を大幅に拡大する。【本年秋を目途に抗がん剤から開始】」
子宮頚癌ワクチンもそうで、よくまあ恥ずかしげもなくと思うが、
● 安全性と薬効に関する審査を経て認可されれば保険診療の適用になるのが当然であり、そうでなければ、保険適用がなくとも負担ができる“金持ち”は「先進医療」を受けられるが、“貧乏人”は指をくわえて運を天に任せろという話になる。
(※ わざわざお金を余分に負担したうえに、余命は同じか短くなるだけでなく、副作用でより苦しむことになるのが大半だとは思っているが...)
● 安全性と薬効が確認されていないまま(もしくはイレッサのように“夢の抗がん剤”をネタに“速攻”認可のようなかたちで)混合診療での使用を認めれば、政府が“人体実験”に手を貸すことになる。
二人の対談でのポイントは、
「 黒川 日本企業も国家のアイデンティティーが薄くなってきている。武田薬品工業は本社は日本だが、海外企業を買収してきたため全従業員の7割が外国人。一方で中国が決めたルールが市場の大きさゆえに幅を利かせることになる。先のみえにくい世界で、どうお互いに規律づけするか。政府は国民のために何をやっているかが問われる。
横倉 TPPの本質を突いた話だ。いわゆる多国籍企業が各国の規制や制度をどうコントロールするかという話になる。政府は国民の生活を保護しなければならない。」
という部分だと思う。
医師会の横倉会長は、「国内の製薬産業には、もっと医薬品の開発力を高めてもらわなければならない。日本の医療費がすべて国内で回っていれば雇用にもつながるが、毎年2.4兆円ほどが医薬品代として海外に流出しており、問題だ」と指摘しているが、LNGの輸入代金ではわあわあ騒ぐ人たちも多くが、医薬品の輸入超過問題(輸入医薬品のなかには子宮頚癌ワクチン・タミフル・イレッサなども含まれる)には口をつぐんでいるところが面白い。
( 別に日本の製薬会社に肩入れしているわけではなく、国際製薬マフィアが気に入らないだけの話)
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TPP参加、医療に影響は? 黒川氏「ITで効率化まず進めよ」 横倉氏「民間参入で皆保険崩壊も」
日本が7月、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に加わる。経済開国への一歩だが、医療関係者には「公的保険の縮小につながりかねない」との懸念も強い。日本の医療は変わるのか。医療改革を訴える政策研究大学院大学アカデミックフェローの黒川清氏と、TPPの影響を懸念する日本医師会の横倉義武会長が議論した。(文中敬称略)
――TPP交渉への参加が日本の医療制度にどう影響するとみていますか。
横倉 国民の健康を守るため、所得の多寡にかかわらず医療を受けられる国民皆保険をなくしてはいけない。交渉対象の21分野に医療はない。だが知的財産の分野で薬価や医療技術、金融サービスの分野で公的医療保険に対する民間医療保険の参入、投資分野で株式会社の病院経営への参入が議論になると、皆保険が崩壊しかねない。薬価の高止まりや所得による患者の選別、自由診療の拡大といった悪影響を懸念している。
黒川 まず医療制度をどうするかという国内問題があり、そのうえでTPPとどうすり合わせるかという話だ。先進国は寿命が延びて高齢化が進み、疾病も感染症から生活習慣病が中心になった。国の財政難で公的な負担も限界に近く、医療への最低限のアクセスをどう確保するかで、どの国も苦労している。一方でIT(情報技術)の発展もあり、効率化できることはたくさんある。変えるのは政治だが、利害関係者の調整は進まない。それで突然のTPPに慌てている。
――TPP交渉があろうとなかろうと日本の医療には改革の余地が確実にあります。
横倉 すべての国民に「かかりつけ医」をもってもらいたい。高齢化を踏まえ、健康状態のほか介護サービスの相談までできるようにして、必要なら検査のできる医療機関や専門医を紹介する。ある地域のなかで入院医療が過度に競合するのは好ましくないので、病院の役割分担を徐々に進めていくべきだ。強制的に一気にやろうとすると絶対に失敗する。自然発生的に役割分担が進み、医療機関どうしが連携できるシステムをつくらないといけない。
黒川 経済成長を体験した人たちが失われた20年で抵抗勢力に転じ、改革に反対している構造がある。今何をしなければいけないのか、10年先、20年先の医療を大きな立場で考えてほしい。例えば地域の基幹病院のオープンシステム化。大病院は入院と救急に集中し、ベッドや設備、看護師を提供して近隣の開業医が外来の主力を担うやり方もある。各地域で病院と開業医の医師が行き来すれば、電子カルテも一緒になる。様々な技術進歩を活用し、患者の在宅ケアを含め一体で機能させていくべきだ。
横倉 ITの進展に伴い、地域の病院と診療所はネットワークでつながり始めている。検査情報や画像情報などにアクセスできる仕組みがいくつかの地域で出てきた。これは急速に広げたほうがいい。日本医師会も後押ししている。一方、個人の医療情報を共通番号(マイナンバー)制度に組み込むことは現段階では時期尚早だ。外に漏れたら特に困る患者の情報などを守る仕組みとして、医療分野の個人情報保護の個別法をしっかりつくったうえで環境を整備するのなら、医師会として反対しない。
――公的保険が適用にならない自由診療や、その費用をカバーする民間の医療保険の役割をどうみますか。
黒川 1つの症状でいくつも診療所や大学病院を受診するようなケースまで公的保険が面倒をみる必要はない。そうしたいなら一部は自分の負担でしてもらう。自己負担での診療を選びやすくするような私的な保険があってもいい。日本の民間保険会社は創造性の高い商品を提供できていない。米国企業に顧客を奪われるというが、知恵がないだけではないか。経済弱者を守るのは公的保険の役割だが、豊かな人が自分で払える分は民間でやってもらえばいい。選択の基本は公開性と透明性、そして提供側の責任だ。
横倉 日本では保険外併用療養、一定の範囲内でのいわゆる「管理された混合診療」が認められているが、無差別でOKではない。安全性や公平性を担保できないものまでは許可できない。それらを担保できるのであれば、「管理された混合診療」の対象を増やすことはありうる。必要なものは公的保険でカバーする仕組みが大前提になる。
黒川氏「海外で活躍する人材育成」 横倉氏「高所得者は保険料を増額」
――財源問題をどう解決するかも重要です。消費税率を10%に引き上げても社会保障改革には足りません。
黒川 自己負担分しか負担と感じないので、中間層以上の人たちは日本の医療費は安いと思っている人も多いのではないか。仮に、もう少し医療費が上がっても医師にかからない方法はある。生活習慣病などの多くは自分の健康は自分で守ることをある程度は意識してもらわないといけない。急速に進む高齢化の対策の財源をどこから出そうというのか。公的な財源は限界にきている。先進国共通のきわめて重要な課題だ。
横倉 公平性の観点から所得の多い人がもう少し保険料を負担してほしい。医療の効率化も必要だが、高齢者が増えるなかで必要な医療費を確保しなければならない。高齢者を支える若い世代の負担が重いといわれるが、若い人はみな親の世代のサポートで成長してきたのだから、ある程度の支援は必要だ。日本の医療費は国内総生産(GDP)比で9.5%。国際的にはそれほど大きいとはいえない。日本の医療は中程度の負担でパフォーマンスが良い。その良さをどう残すかが課題だ。
――専門人材の育成のあり方も変える必要があります。
黒川 大学は過去20年、極端に変わらなかった。医局を中心とした教育制度が若い人に合わなくなっている。医学部の学費は高いから、みんな(収入を考えて)専門医になりたいというが、本当は地域医療がやりたい若い人も多い。政府がお金を出して学費の負担を軽くする代わりに、一定期間、総合医になるための勤務義務を課してもいい。
横倉 学生が知識を習得していることを確認したうえで、臨床教育を徹底することが必要だ。医学部教育の6年制のうち、最後の2年間を地域医療実習や臨床実習に充てる。そのうえで国家試験後の初期臨床研修の2年とあわせて4年間で総合的な診療能力をしっかり身につけてもらうのがいいのではないか。
――安倍晋三政権は医療産業の国際競争力を高めようとしています。
黒川 アフリカや中東では日本のモノは見るが、日本人の姿が見えないと言われる。医療機器を売り込むというが、医療システムやノウハウも求められている。海外で活躍する人材をもっと応援しないと。皆保険の構築など、日本の売りとなるノウハウを持ち込むのが大事だ。
横倉 国内の製薬産業には、もっと医薬品の開発力を高めてもらわなければならない。日本の医療費がすべて国内で回っていれば雇用にもつながるが、毎年2.4兆円ほどが医薬品代として海外に流出しており、問題だ。
黒川 日本企業も国家のアイデンティティーが薄くなってきている。武田薬品工業は本社は日本だが、海外企業を買収してきたため全従業員の7割が外国人。一方で中国が決めたルールが市場の大きさゆえに幅を利かせることになる。先のみえにくい世界で、どうお互いに規律づけするか。政府は国民のために何をやっているかが問われる。
横倉 TPPの本質を突いた話だ。いわゆる多国籍企業が各国の規制や制度をどうコントロールするかという話になる。政府は国民の生活を保護しなければならない。
――7月に参院選があります。政治に何を求めますか。
横倉 医療は様々な法律に縛られ、政治と切り離せない。参院選では与党の自民党から組織代表を出す。地域医療の崩壊が叫ばれて久しいが、経営の厳しい地域の診療所や中小病院にしっかりした手当てが必要だ。かかりつけ医の機能をより評価する形で診療報酬を改定してほしい。
くろかわ・きよし 内科医。米国にも長く滞在した。国会福島原子力発電所事故調査委員会委員長など数々の公職を歴任。76歳
よこくら・よしたけ 外科医で地元の福岡県では病院を経営。福岡県医師会会長を経て10年に日本医師会副会長、12年会長。68歳
[日経新聞6月15日朝刊P.9]
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